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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
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熟練ぼっちは揺るがない

 

  外を見た。土砂降りの雨が降っていた。それと同様、俺の心も雨模様だ。


「あっはははは!」


「グラララララ!」


「ゼハハハハハ!」


  どうしてこうも陽キャ(笑)の笑い方は人をイライラさせるのだろう。


 もっとお淑やかに笑えよ。大和撫子たる俺の妹はうふふ、可笑しいですわって手を口に当てながら笑うぞ……まぁ嘘だけど。妹の笑い方は置いといて、俺でももうちょい普通に笑うぞ。俺に負けて悔しくないのか、おい。


  どうして彼らの声が人を苛立たせるのか、その答えは簡単だ。


 アピールしたいのだ。周りに自分は楽しんでる、楽しいんだと言うことをアピールしたいんだ。だから必然的に声が大きくなる。目立つ笑い方を学び変化していく。


 別にお前らが楽しかろうとどうでもいいから。その楽しいアピール、人を不快にさせるだけだから。どんだけ自己顕示欲高いんだよ。誰かに見て、聞いてもらわないといけないの? そういう病気なの? 目立たないと死ぬ病なの? 目立つことの何がいいんだか。


 はい。今、笑い方なんて人それぞれだろ。とか、くだらない反論をしようとした人はおとなしく手をあげてください。


 はい、では視線をあちらに向けて下さい。


 机をバンバン叩くあの人達を見てもそれが言えますか? あれが面白いアピール以外の何に見えるんですか?


 腹を抱えて笑うのはまだわかる。笑いすぎて腹筋が痛くなって、みたいな。ぶっちゃけそれもよう分からんが。けど机叩くのはねぇだろ。あんなのバラエティのひな壇芸人ぐらいしかやんねーよ。


 お前ら、身嗜みに気を使うんだったら笑い方にも気を使えや。醜さが内側から溢れ出てるぞ。


 人っつーのは集まり群れると良くない方向に転ぶ危険性の高い馬鹿な生き物だ。大声での会話もその一片だろう。


「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とは意外に的を得た発言だと俺は思っている。みんながー、みんなもー、なんて言葉で自分の、周りの加害者意識を少しでも薄めようとする。薄まらねーよ、ピザにかけたタバスコみたいなもんだぞ。際立っちゃうだろ。


 例えば体育館での集まり。周りに人が居るとそれがあたかも自分の力なんだと過信し、みんなが騒いでいるから、とその状況に靡き甘んじる。


 例えばイベント毎の都心部。イベントの盛り上がりと集団心理で少しの悪行なら許されると倫理観を失った獣が街を練り歩く。街にたむろし、ゴミは放置。百鬼夜行なんか比べ物にならないほど最低な集団だ。


 人はやはり独りで居るのが最も害がない。


 例えば、俺。常に独りで生きているが誰かの迷惑になるような真似はしないし、羽目を外したりなんかしない。独りの者は自分で自分をセーブしないとならない。自分の欲望を抑制できるようになるのだ、独りでいると。自分自身をセーブする事は出来るのにロードは出来ないっていう。


 例えば……。これ以上思い浮かばないんで例えるのはやめますね。


 まぁ、つまり一種の修行僧なのだ、ぼっちは。


 欲を制し、独を欲す。


 坊さんは瞑想とかそんなんよりコミュニケーションを取らないぼっちになった方が絶対良い。精神修行にピッタリだぞ、ぼっち生活は。


「ギャハハハ!」


「ブハッハッハ!」


 俺は独りでは楽しむことができない彼等を見ると少し可哀想になる。


 独りでも楽しめる術があるのに、その楽しむ術を知らないとは……ほっほっほ、哀れなり。ほらな、普通の笑い方だろ?


 ふと、そんな楽しいアピールをする彼等がどんな面白い話をしているか気になってクラスの奴らの話を聞いてみる(聞き耳を立てる)ことにした。


 イヤホンの音楽を、はい! ミュート!


 まずはパリピ陽キャ(笑)グループ、と行きたい所だが楽しみは最後。


 俺はご飯の時でも好きなものは最後に食べる派の人間なのだ。まずは前菜から行くとしよう。


 初手はちょいオタクっぽいグループだ。


「あー、そこのエリア次来るよ」


「じゃあ漁ってさっさとエリア変えるか」


「了解」


「はいよー」


「うーす」


  ゲームですね。スマホゲーム。最近流行りのバトルロワイヤル系統かな?


「百五十に二人……いや三人」


「とりあえず様子見でおk?」


「いや、相手にばれると厄介だし、ばれてなさそうな今、先に仕掛けたほうがいいだろ」


「ラジャ、花山、右から行きまーす」


「じゃ、俺が左ね」


 なんかやり慣れてるな。家帰っても通信したりしてんだろうな。


 俺の場合は基本ゲームやるときも独りだからな。


 あんな風に通信なんて家族以外としたことねぇや。バトルロワイヤル系のゲームもチーム組まないでソロプレイだし、オンラインゲームもソロプレイ。オンラインゲームってソロでやってると絶対どこかで行き詰って飽きちゃうんだよなぁ。チャットとか苦手だし。


 ちなみに俺の場合、人生もソロプレイだ。それでいてチャットも苦手。現実にいるのにゲームと変わらない生活。……俺はもしかしたら未来を生きているのかもしれない。


「ごめんっ! やられた! 百十に二人! 出来たら蘇生お願い!」


 アイツらがやってる、ああいう自動マッチング系のゲームってのもどうも苦手なんだよな。


 人数が多ければいいんだけど、四人ぐらいの奴マジ無理。イカのゲームもマヂ無理。プレッシャーがすごくて。PPの消費が一増えちゃう。


 さて、じゃあ次行こうかな。次は運動部の女子で。今日は莉佐に絡んでないみたいだな。


「その時、なんか恵美先輩の彼氏? みたいな人が来て、その人が結構かっこよくて!」


「あー! 確か山下先輩でしょっ! あのテニス部の副部長にして環境委員会に所属してて、飼ってるレトリバーの名前がルシフェルの山下先輩っ!」


「そうっ! 多分その人っ! やっぱ付き合ってんのっ!?」


「噂だけどねっ!」


  ……圧が凄い! なんだろう。会話聞いてるだけで胸焼けしそう。ビックリマーク使いすぎでしょ。この短時間でビックリマーク八回ぐらい出てきたんだけど。


 つーか詳しすぎだろ。なんで犬の名前知ってんだよ。


 怖いわ。女子の情報網怖すぎるだろ。

 それと山下先輩、犬の名前にルシフェルはちょっとアレだろ。厨二臭くないか。「ルシフェル! こっちだ!」「ルシフェル餌だぞ」「ルシフェルお前は本当にいい子だなぁ」とか、やってるんか? うーん、俺はいいと思うけどさ……。


「そのリップどこで買ったん!?」


「よっちゃんからの誕プレー」


「あぁ、よっちゃんかー! じゃあ高いのかな! 聞きたいけどあんまり喋ったことないからなー!」


「結構高いっぽいよー。凄い色が可愛いのー」


「いいなぁ! ブランドだけでもお願いっ教えてっ!」


「は〜い」


  次は何だ? リップ、リップ……多分口紅の話か。

 話の切り替えがはえー。さっきまで厨二イケメン山下先輩の話だったじゃん。サッカー選手の攻守切り替えよりはえーよ。話してる奴も変わってんじゃねーか。


 切り替えの速さがマジ新幹線。厨二山下先輩はもう飽きちゃたの? 酷い! 可愛そうだよ! ルシフェル山下が可愛そうだよ!


  で、ルシフェル山下は置いといて口紅の話だったか。


 誕プレねー。誕生日プレゼント。俺、同級生に貰ったことねーわ。祝われたことすらねーわ。


 小学校の頃にあった誕生日当日の給食の時間にみんなに祝われるやつもねーわ。「牛乳持ってくださーい、今日は〇〇君の誕生日です。おめでとう、乾杯!」ってやったりするやつ。


 誕生日が夏休みだからな。


 それが理由だ。別に祝ってくれる人がいなかったわけじゃない、断じて。誕生日が夏休みの他の子が祝われていたとしても祝ってくれる人がいなかったわけじゃない……グスンッ。


  あと気になったのはよっちゃんだろうか。


 時代劇とか落語に出てきそうなあだ名はさておき、気になるのはよっちゃんの財力だ。結構高価なものを友達にプレゼントしちゃうよっちゃん。しかもよっちゃんがくれれば高価な物と思われている辺り、かなりポンポン高価なモンプレゼントしてるな。金持ちかな。


 俺とは正反対じゃねーか。


  俺は常に懐が寂しい。


 アルバイトをした事がないし、お小遣いもちょっとしか貰ってない貧困苦学生だ。


 アルバイトをしよう、挑戦してみようと思ったことは何度もあるのだが、その度に面接で挫折する。面接とかもう無理だから。ホントムリ。でも欲しいものは沢山あるという状況。悲惨だ。


 面接ってぼっち殺しすぎるだろ。いや、コミュ障殺しすぎるだろ。ぼっちとかまともに人と話す機会が家族ぐらいしかないからコミュ障になるのは必然だよね。


 つまりコミュ障じゃないぼっちはエセぼっち。証明終了。


 ただ金はあればあるだけ嬉しいが金で買えない、重要なものは両の指では数え切れないほどにある。それは一般的によく言う愛だったり夢だったり。


 俺が買えないと思うのは孤独だ。


 お金で一人の空間を生み出すことはきっとそれこそ金を稼ぐよりも金持ちにとっては容易いだろう。


 だが金で買った孤独、それは真の孤独ではないのだ。


 一種の自己満足の孤独でしかない。真の孤独とは生み出すものではなく、現象的にあくまで生み出されるものなのだ。


 ぼっちの俺はつまり金持ちが欲しても手に入れることのできない財産を所持しているということだ。つまり金持ちよりぼっちの方が凄い。証明終了。


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