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プルーストの泪  作者: 月川 望
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同罪。

橘 凛華。(たちばな りんか)


それがこのおかしな女の名前だそうだ。自己紹介された訳では無い。プリントに書かれた名前を見て知った。盗み見た感じがして嫌な気分がしたが、今は気にしないことにする。


それよりも問題なのは

"聞こえない"ことだ。

いままでそんな人物はいなかった。


僕は怖いと思った。

なぜ怖いのかはわからない。

答えは自分の中に隠れてるような気がするが見つからない。

そんな僕の気も知らない彼女はまっすぐ前を見ていた。


「君は寂しがり屋なんだよ、わざわざこんな席に座ってさ」


やはり聞こえない。心が。


「ん、ああ。そうかもしれない」

変な返事になってしまった。

率直に「なんで君の心は僕に聞こえないの?」と聞きたいところだが、あいにくそこまでの勇気は僕にはない。


そうこうしているうちに履修説明会は終わった。今日はこれ以外の用事はなく、下宿先に帰って状況を整理しようと席を立とうとすると袖を掴まれた。掴まれたというか捕まえられた。という表現の方が正しいくらい強く握られている。


「この後少し付き合ってよ、寂しがり屋さん。

どうせ暇でしょ」


「決めつけは良くないな。だいたい名前も知らない男を誘うのはどうかしてるな」


「じゃあ名前、教えてよ? 伊関としひろ君」


「知ってるじゃないか」


「さっきのプリントに書いてるところ見ちゃった」笑顔で彼女はそう言った。


「同罪か」


「ん?何か言った?とっしー」


「ちょっとまて。とっしーと呼ばれる覚えはないぞ」


「そんなことどうでもいいじゃない?とりあえず付き合って?」


「わかったよ」僕は彼女を知りたかった。興味が湧いたのだ。心が聞こえない彼女に。


その後、彼女にはキャンパス内の探索を付き合わさせられた。大学のキャンパスはとても広く全て回るのに2時間もかかった。

結局、その間話したことは当たり障りのないようなことだった。

どこ出身なのか。なにが好きなのか。好きな音楽は何か。学部はどこなのか。


心が聞こえない彼女との会話はとても楽しかった。小学校以来の感覚だった。



そして正門にたどり着くと、あっけなく別れた。

こういう時、メールとか電話番号とか聞いてくるものだと思って少し身構えていたがそんなことはなかった。





それでも僕は彼女とまた会う気がしていた。


彼女もきっとそう思っていた。はずだ。





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