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地平線が続く世界で ~俺TUEEE、にはなりませんでした!~  作者: 夜桜月霞
1……『本日は晴天なり。しかし我が航路には暗雲立ち込めております』
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 男の斜め後ろに現れた旅娘。彼女の短剣がチーズかパンでも切るように、サクッと男の顎と頭部を切断した。


 そこからさらに彼女の剣撃は続いた。


 私の動体視力では、まるで何が起きているのか見えない。


 ただ、男の体がみるみる小さく、小間切れにされていくのが見えた。


 最後の一撃が切り込まれる。すべての肉片がほぼ均等に親指と人差し指で作った輪の中に入る大きさに整えられている。


「まあ、ざっとこんなもんさ」


 得意げな旅娘の顔が腹立たしいが、たしかにそんな真似は私にはできない。


「ってか、お前そんな腕あったのに、今まで手抜きしていたのか!」


「能ある鳥は、羽を隠すものさ!」


「能ある鷹は爪を隠す、だ。バカが丸見えだぞ」


 私に指摘されてあれー? と呟き小首をかしげてとぼけて見せる。


 まあこの際だ、こいつの手抜きグセをいくら非難した所で、何にもならない。私はわざとらしく大きくため息を吐いて肩をすくめる。


「さっさと脱出しよう」


 男の残骸は、もぞもぞ水中をうごめいている。おそらく集まってくっついて元に戻るのだろう。あまり気持ちのいいものではない。


「こんな状態からでも、生き返るのか……」


「あたしが死ぬ事を許さない限り、こいつらは永遠に苦痛を味わい続ける」


 それが裏切り者への正しい扱いだろと言わんばかりの旅娘は、微笑を浮かべて足元の肉片のひとつを踏み潰していた。


 私はため息を吐いて、室温が上昇を始めた機関室を見渡す。


 ミイラはもうほとんどが動かなくなっている。いたとしても置物のように動かない。


 釜の給水を止めたから、冷却されずに過加熱されはじめているため、部屋の中は直にサウナのようになるだろう。


 そんな所に残りたくはない。


「ほら、終わりだ。逃げるぞ」


「本当にこれで壊れるのかい?」


 不思議がる旅娘に、私は首を傾げた。


「元々お前の船だろ。それを私に確認するなよ」


 くるぶしの上まで水暈が上がっている。ざぶざぶ音を立てて機関室をでる階段を上った。


「この船は北部の部族長からもらった船でね。本当の名前はルタニア・ラリーリアって名前で、こっそりと使われたんだけど、もう船に乗れる若者がいないからってもらったのさ」


「旅路の乙女号ね。これであんたがしょっちゅう下手な北部語使う理由がわかったわ。ってかそんな大事な船をここで沈めて良いのか?」


「もう100年以上旅してるんだ。あたしの呪いがなければ勝手に崩れてなくなってるね」


 それもそうか。普通の船は20年ももたない。5倍以上も黄色い地平線の続く限り歩き続けているのだ。過剰労働も良い所だ。さすがの船名といった所か。


 私たちは脱出のために甲板へ向かう。ミイラたちはいたが、攻撃はなかった。まさにミイラそのもの。

「ボーヤの指示が無ければ、こいつらは動くだけで人形と変わりないのさ」


 どんと旅娘はミイラの一体を突き飛ばした。それは抵抗を示すことなくどてっと後ろに倒れて、起き上がりもしない。


 魔法や魔術の類はわからない。私のはチートだから、そういう類じゃない。


 いったいどういう原理で働きを見せているのか、興味深くはある。


「魔法ってのは、便利なものだな」


 思わずつぶやく。それを聞いて、


「まあ、ね……」


 彼女は寂しそうに笑う。


 甲板に出るや、東の空はわずかに白みがかっていた。もう直夜が明けるだろう。


 しかし風はいまだに吹いていない。霧が澱みとなって周囲にうずくまっている。


「最後にもうひと仕事」


 私はポケットの中から光を取り出して、艦隊がいるであろう方向へ向けて発した。


「うっわ!? なんだ!?」


 雷光といってもいいだろう。いや、この世界ではまず目撃することが無いであろう光量に、旅娘はめまいすら覚えていそうだ。


「これで連合王国の船が……え?」


 振り向いた私が見たのは、胸から金属片を生やした、旅娘だった。


「にげ、られ、る、と、おも、おもうな、よぉおおおっ!!」


 ごぽっと血の塊を吐き出した旅娘は、驚くように目を見開いてゆっくりと振り向いた。


 そして弾かれるように、彼女の体は吹き飛び、甲板に叩きつけられて私の足元まで赤いあとを残しながら滑ってきた。


「お、おい!? 何やってんだバカ!」


 思わず胸倉をつかんで持ち上げた体は、まったく力が入っておらず、虚脱しきっていた。


 さっと私の顔から血の気が失せた。


 彼女の胸元は、たしかに切り開かれている。一撃で心臓を破壊されたのだろう。グロアニメのように噴水のような出血はしていないが、それでもだらだらと全身から絞り出された血液が風穴からこぼれ滴る。

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