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地平線が続く世界で ~俺TUEEE、にはなりませんでした!~  作者: 夜桜月霞
1……『本日は晴天なり。しかし我が航路には暗雲立ち込めております』
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 杭の尖端の反対側は返しになっている。逃れようにもできない。


 そして2体目も同じだ。武器を無力化して甲板に串刺しにして動きを封じる。


 どうやら敵もバカではないらしい。私から間合いをとり始めた。


 それも予想済み。


 私は杭を脇に挟み、けん銃を取り出して回転弾倉の中身を入れ換える。通常入っているのは私の指くらいの大きさの金属の杭。取り換えたのは何の変哲もない円筒の金属塊。本来であればこれは非殺傷用の弾頭だが、相手はすでに死んでいるのだ。殺す事より”吹っ飛ばす”事を優先した方が良いはずだ。


 再装填を終えると、まず2発。ダブルタップで確実に仕留める。銃口から飛び出た弾頭は、音速を上回る速度で飛び出し、ミイラの胸に2発とも直撃する。弾頭のエネルギーは体を突き抜けることなく敵の体を吹き飛ばす力へと変わり、後方へ押し飛ばした。


 よろけたミイラは艦橋の壁にどんと背をぶつける。私はその個体へ向けて杭を投射した。エネルギーを乗算するだけだ。杭は当然のようにミイラを貫いて艦橋へ縫いつける。


 作業は単純だが面倒だ。


 簡略化はできない。すでにこれ以上ないほど簡略だから。


 だが数が多い。非常に多い。多いのは、とても面倒だ。


 ポケットの中身を大盤振る舞いしていいものでもない。全力を振り絞って勝ち取った勝利なんて、自殺でしかない。


 最善は努力をせずに怪我や損耗がないまま勝利する。次善は三割程度の努力と損耗で勝利する。それ以外は総じて最悪といっていい。


 そうだとも。そもそも串刺しにして縫い留めなくてもいいではない。思考の柔軟性が欠如していたようだ。


 私はポケットの中の熱の塊をひとかけら取り出しながら、手近なミイラに杭を打ち込んだ。


 一度ポケットに入れたものは、私の触っているモノを伝播して取り出す事ができる。そうして私はミイラで松明を1本こしらえて見せる。


「ねーさん、ホント燃やすの大好きだよね」


 けたけた笑う旅娘は、今でも猛烈な速さで男と剣劇を打ち合わせている。そんなことしているのにこっちも見えているとか、この娘は蜘蛛か何かか。


「火はいいぞ。この世界の構造物は大体木造だからな。よく燃える」


 都市部は石づくりだがな。それでも基本的に乾燥しているこの世界では、火は大敵だ。なにせ消火するための水が少ない。火災が都市部で起きると、基本的には消火ではなく火を広めないようにするのが通例だ。


 松明になった串刺しミイラ。内側から高温で焼かれて、身もだえ苦しんでいる。それもそうかあの性悪旅娘のことだから、痛覚は絶対に奪っていないはずだ。


 私はその哀れなミイラを艦橋へ押し込んだ。真っ暗だった船内がぼうと赤く照らされた。


 狭く埃臭い室内にはあちらこちらに塵が堆積している。何十年も前の肉のミイラやパンだったカビの塊などが散乱している。


 ゾンビとなり人間の三大欲求を満たすことができなくなった彼らは、それでも生に焦がれて人間と同じように食し、犯し、眠ろうとしたのだろう。ぐるりと見渡した艦橋の中には、やはりミイラ化したドレスを着た死体があった。ボロボロに切り裂かれたハンモックもぶら下がっている。


 こうしてい見ると哀れな連中だ。しかしそれは当然なのだ。”裏切っては恐ろしい仕返しがある大魔女”を裏切ったのだ。自業自得だ。


 曲刀を構えたミイラが3体、上の階と下の層から出てきた。松明の光に一瞬だけ慄くようすが伺えたが、すぐに切っ先をこちらに向けてきた。


 だがそもそもなぜミイラを松明にしたかというとだ。


 内側から燃やされ続けるミイラは、助けを求めるように仲間にしがみついた。炎が乾燥肉とぼろ布と化しているので簡単に燃え移る。さらに触れている事で、私から直接中へ熱量の塊をお見舞いした。


 暗いからよくわかる。口や眼窩から炎のゆらめきが噴き出していた。ミイラランタンだ。


 2体目の”炎感染者”は武器を捨てて、激痛から逃れるように下層へ向けて飛び降りて行った。そうだ、いいぞ。その調子だ。


 さらに1体、熱量を感染させると、同じように下へ飛び込んでいった。


「さてさて、この煙突がある船の秘密を暴いて、燃やしてしまおう」


 煙突があるなら、必ずあれがあるはずだ。


 ミイラたちを燃やしながら私は彼らが逃げる先へ進んでいく。


 甲板下の層は、大砲や砲弾などが雑然と並んでいた。ここに火を点ければ一瞬だが、私の命も一瞬で消し飛んでしまう。それは勘弁してもらいたい。私は大砲の後端に掛けてある縄を一束引っ掴んで雑のうに押し込んでおく。


 賊の船でも基本的な概念は一緒のようで、上下一気に貫通した階段などはない。


 不意打ちを危惧しながら階段を下りたのだが、どうやらミイラたちは私に恐れをなしているようで、近付くと近付いた分だけ後ずさる。地獄の苦痛も100年続けば慣れるという事か。そして新たな激痛に対して恐れているのだ。


 なんだ、まだ人間的な所もあるじゃないか。


 私はにっと思わず笑みをこぼしながら、自分の足元の床板を叩き割った。


 所詮は木材。砲弾の衝撃と100倍にした私の重量で簡単に割れて砕ける。


 一気に最下層までたどり着けるかと思ったが、私の体は階層を1つ抜けるだけで止まった。


 私の優秀な体は、着地の瞬間、”抜けない”事を察して、身体を破壊するエネルギーすべてを回収してくれた。おかげでぺしゃんこにならずに済んだ。


 下の層は、床が一面鋼板で覆われていた。足の下の感触からするに結構な厚さがありそうだ。


 ぐるりと見渡すと、燃え盛るミイラ松明たちがある1点で消えている。穴だ。下に降りるための為の穴があり、それは何らかの方法で無理矢理こじ開けられたのだろう、淵がボロボロになっている。


 私はミイラを追いその穴に飛び込む。


「ほら、あった」

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