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白い重圧となった日差しが、甲板を照り付ける。
頭上では巨大な縦型風車がごうごうと音を立てて回っていた。
風の動力はクラッチで外され、抵抗が弱まった風車は勢いよく回転している。
ここはロタ島より南西に一日半進んだ平野のど真ん中。艦隊を円陣に組んで全方位警戒をおこなっている。
確かに、作戦の成功率を上げるためには仕方のない事だ。
そして今ソローン諸島にいる艦隊で、一番戦力のあるのは彼らだ。だから仕方がない。
地平線から、ゆっくりとせりあがるように巨大な群れが近づいてくる。
連合王国所属第3艦隊。この地平線が続く世界でその名はどこまでも轟いている、最強の艦隊。そして私のかつての依頼主で、おそらく今は私の敵。
帝国の警備隊だけではどうしても手が足りない。なのでロタへ特使を出し、第3艦隊へ連絡をつけた。その会合が今この場所で行われる。
私は隠れていたいのだが、話しの信ぴょう性を持たせるためにも出席が求められた。
見つかって即死刑なんてないだろうか。なにせ連中は、私の死刑執行の許可証を日付未記入で持っている。法的にいつでも死刑が可能だ。国際人権団体に訴えたいところだが、今のところこの世界にそんな慈善団体があるとは聞いた事がない。
それから半刻もしないで、第3艦隊は帝国警備艦隊は合流した。
魚鱗陣で先頭に旗艦を配置した、無敵を自他共に宣う第3艦隊らしい布陣。暁の女王号の攻撃力や最新鋭の観測力を考えればそれは当然の陣形だ。
対して帝国艦隊は鶴翼に展開し、旗艦《18001》が待つ中央へ艦隊を招き入れる。
部外者である私でも、緊張で手が震えた。今戦火が開かれれば、両者に多大な損害が出る。
元より両国は戦争状態ではないにしても、冷戦下なのは間違いない。それの主力艦隊が太平野のど真ん中で会合するのだ、とても穏やかな気持ちで迎えるのは無理というものだ。
第3艦隊は列を乱すことなく、整然と陣形を円陣へ移した。帝国艦隊と並んで周囲警戒を行う。
そして暁の女王号は艦隊旗艦と隣り合い、乗艦の同意を求める信号を送ってきた。
「乗艦を歓迎する」
アイゼン艦長の言葉に、手旗信号手が彼の言葉を暁の女王号へ伝える。
並列し、つり橋を下ろしてきた。久しぶりに見る三人組が橋を渡ってくる。
「お呼びいただき、感謝する。連合王国第三艦隊、旗艦暁の女王号艦長のアンドリュー・バルセルナ准将、だ……」
目が合った。
相変わらずの貴公子然とした容姿。それが心底驚いたように目を見開いて固まった。
連合王国艦から降りてきたのは、当然のアンドリュー艦長と副長と戦術長の3人。アンドリュー艦長は驚いているが、残り2人は肩に掛けた小銃に手を伸ばした。
「待たれよ」
ずいとアイゼン艦長が一歩前に踏み出した。
「この者は我が艦の乗組員である。手出しは無用に願う」
きつ然とした言いように、こっちが委縮してしまう。
しかし、それではいそうですかと下がるような男ではない。
「それはできない。その女は我が連合王国で指名手配されている大罪人だ。早急に身柄を引き渡してもらおう」
アンドリュー艦長は無表情に、それでいて威圧感を十二分に出しながら言い放つ。
彼の後ろに控えた2人の歴戦の古強者たちが、手に己の獲物を携えた事で、事態はまさに一触即発。いつ派手な戦闘が起きるとも知れない状態だ。
無言の硬直。睨み合う両艦隊の司令官。
私はストレスで胃の中身を床にぶちまけそうだ。
「……もうよいか?」
「ああ、十分だ」