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地平線が続く世界で ~俺TUEEE、にはなりませんでした!~  作者: 夜桜月霞
1……『本日は晴天なり。しかし我が航路には暗雲立ち込めております』
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 まだ何もない。松明が消えるまでに船が通りかかる事を祈るばかりだ。


 30分ほど経ち、いよいよ日射病を覚悟しないといけないかと思っていた頃、ついに来た。


 地平線の先、カゲロウが登る中に現れたのは巡洋艦の艦隊。


 贅沢を言えば、連合王国の国章を付けている事を願っていたが、そうも言ってられない。


 鉤爪の双頭鷲を掲げるのは、帝国の軍艦だ。


 敵国ではないにしろ、友好国ではない。本国同士が離れているが、植民地の領土問題やらなんやら小競り合いが絶えない相手ではある。


「鉤鷲じゃん! やだーッ!」


 とはいえ贅沢を言える身分ではない。拒絶反応を示す旅娘は放っておくとしよう。


 向こうから見えているかは分からないが、私は精一杯手を振って見せた。


 ほどなくして帝国の船が私たちを拾いに来た。覚えておいてよかった帝国語で事の経緯を当たり障りないよう編集して伝えると、艦隊旗艦への乗艦が許可された。


 そのまま倉庫に押し込まれるのかと思ったが、船夫は着いて来られよと言って私たちを船内へ通した。


 帝国の船も基本的には連合王国と同じ足の生えた帆船だが、諸国の船と違い帝国の軍艦は実用性一点張りで、手すりや格子窓などに装飾が全くない造りをしている。なので外観はのっぺりとしていて特徴らしい特徴はない。


 艦内も飾り気はなく、娯楽性のかけらもない。こんな船に乗って何日間も航行に出るのだから、乗組員たちの正気を疑う。それに艦名も数字だけで、ニックネームなどない。


 この旗艦の名前は18001らしい。船首の横にペイントされていた。はて、帝国の船はすべて名前に法則があったはずだ。見た所戦列艦ではないし、大きさから察するに巡洋艦だ。そうなると頭の2桁の数字は12のはずだ。18というのは聞いたことが無い。まして001という事は新造の一番艦である。


 そして何より神経質なほど整理整頓のなされた艦内は、船特有のすえた生活臭がなかった。この船の乗組員は人間ではなくサイボーグなのかもしれない。


 規律が軍服を着ているような印象しかない船夫は、教科書通りのきびきびとした動きで私たちの前を歩き、艦内を通り甲板へ出ていった。敵に乗艦されてしまった時の事を考え、この世界の船は大概一本道で動けないようになっている。非常に面倒だが合理的だ。


 私たちを案内する船夫は、艦内に入れただけでも驚きだが、なんと艦橋にまで進んでいく。さすがに緊張感が肌を撫でた。操舵をする船夫たちが横目で睨む様にこちらを見てくる。そりゃ、怪しいよな。それに船の上には女がいないから、そりゃもう色々大変だろう。


 差し渡しで8メートルほどの艦橋。それが3階建てとなっていて、最上部は艦長と提督の私室である。最初の1階は操舵室。入口から一番離れた所に2階へ上る階段がある。兵士はその階段を上がる。おいおい、どこまで行く気だ。


 2階は展望台となっている。艦隊と進行方向を確認するための測距儀や望遠鏡などがある。そして中央部に上へ登るはしごがあり、兵士はそこも登った。マジか……。


 最上層は一部屋しかなかった。どうやらこの艦隊は提督と艦長が兼任のようだ。決して広くはないが、船上で唯一プライベートを保てるエリアだ。


 室内には簡素な机と椅子、それと簡易ベッドがひとつずつ。膨大な量の航路図や資料が本棚に押し込められていた。


「ご苦労。下がれ」


「了解!」


 敬礼してはしごを降りて行く船夫。


 とんでもない所まで連れて来られたと、少しだけ生きた心地がしない私。


「おや、お偉いさんの割に、臆病じゃない」


 私の後ろに隠れていた旅娘が小さな声でつぶやいた。黙っていて欲しいものだ。


 椅子に腰かけていたのは、30代と思しき青年だった。


 よく焼けた肌と艦隊司令官然とした、一部の隙もなく着込まれた制服。胸には無数の勲章が略式ではあるが掲げられていた。


 刈り上げられた金髪と濃紺瞳は帝国人にしては珍しい組み合わせだ。軍人然とした鋭い顔つきは冷血な印象が強い。どこかの艦隊旗艦の艦長とは180度違う印象。


「手短に行こう」


 低い地鳴りのような声は割と好みだが、人としては苦手な部類だろう。私は堅物な人間とはあまりそりが合わない。


 鋼鉄でできていそうな大きな両手を机について、ゆっくりと立ち上がるとその身丈は狭い室内では圧迫感を感じるほど大きい。2メートルはある。肩幅もあるし、地上戦では間違いなく無双しそう。


「私はソローン諸島警備艦隊司令官、アイゼン・フィン・ガルベル」


「お初にお目にかかります。私は」


「いや、名乗らなくて結構」


 そう言って彼は壁に掛けられていた制服を手にとり、私に渡してきた。

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