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ここはどこだろうか。
薄暗くて、よく見えない。
「あ、ねーさんおきた?」
能天気な声。首を巡らせると、旅娘がいた。
「ここは……?」
ひどい頭痛だ。吐き気もある。
「どっかの部屋。あたしも頭に袋被されてここに連れて来られたからわからない」
ミイラが部屋に押しかけてきて、突然倒れた。
ああそうか。窓から挟撃されたのか。最悪だ。
不意打ちだったからか、衝撃を奪えなかったようだ。頭を殴られて昏倒して、拉致か。
視界は徐々に闇に慣れて来た。もう一度見渡すと、鍾乳洞の中の牢獄だとわかった。
そして私の斜め向かいの壁に手足と首を鎖で縛られた旅娘がいた。
怪我はないようだ。
改めて自分の状況を確認すると、どうやら椅子に座らせられている。手は後ろで縛られて、足首も椅子と固定されている。特に外傷はないようだ。服にも目立った乱れはない。
さてこんな事をされる筋合いは、ないと思う。いや私を人質にして取引でもするつもりか。だとしたら私は確実にトカゲのエサだ。私ごときでは何の取引にもならない。
「状況が最悪に近いってのはよくわかった」
「さすが。察しがいいね」
旅娘が軽口混じりに笑うと、私は嘆息してどうにか脱出できないものかと拘束が解けないか試みてみるが、ダメっぽい。縄で縛られているだけなら、縄の摩擦力を奪って解くこともできる。だが鉄の枷に鋲で止められているのでそれもできない。
脱出は難しそうだ。
何かないかと見渡していると、牢の外から誰かが歩いてくる足音が聞こえた。数は、4人か。
「やあ、ご機嫌そうじゃないか」
松明に照らされた人影。先頭、というか中央の男のしわがれ声が牢の中に響く。
その姿を確認した瞬間、牢の中が明らかに寒くなった。私はその寒気で全身に鳥肌が立ち、顎が震えてカチカチと歯が音を立てた。
何が起きたと思えば、旅娘だ。
殺気や憎悪、黒い影が見えるんじゃないかって程。男に向けて狂気的な笑みを向けていた。その有り余る気配が、私の体感温度を下げさせている。
「おかげさまで上々だよ。早くお前をズタズタにぶっ壊して、あたしの船で引きずりまわしてやりたいところだ。”副船長”」
一番最後の言葉を強く言うと、男は声を上げて笑った。
「この状況でよく言えたものだな! ”元船長”」
「は、船長気取りかな? それにしては噂に聞く黄昏の乙女号は、一回も警笛を鳴らしていないようだけど?」
けらけらといつもとは違う毒々しい笑みを浮かべた旅娘は、ひどく挑発的だ。
「黙れッ!」
それに腹を立てたのだろう。男は牢を足蹴りして、唾を吐き出しそうな気迫で怒鳴りつけた。全然関係ない私がすくみ上るような気迫だった。
「そこまで言うなら、貴様がカギを差し出したくなるようにしてやる」
男は少しだけ冷静さを取り戻して、松明を部下、というか後ろで控えていたミイラに渡して牢を開けて中に入って来た。
「はん。誰がお前に渡すか。目先の事しかわからないような小心者で、器の小さいお前には過ぎている。宝の持ち腐れだ」
嘲笑うが、男はまさかの私の方へ来ると、ククリの様な鉈を取り出して私の顎に切っ先を当てた。
え、私完全関係ないけど。え?