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ロタ島を出発してから3日後、暁の女王号を中心とした、臨時分権隊はホイエへ到着した。
ここは都市ではなく、居住地区である。森林島で伐採を行う木こりたちが住む島である。
住人が住むだけなので、大型艦船が留まれるような桟橋はない。よって小型艇でしか入港できない。
「悪いがもしもの時の為に、人員は裂けない。オレも今回は船から離れるわけにいかない」
申し訳なさそうな雰囲気でアンドリュー艦長に見送られ、私と旅娘は小型艇で島に向かう事になった。あと船夫が2人いるが彼らは小型艇を操船するための要員で丘には上がらない。
小型艇は2名の船夫を含めて5人しか乗れない。足は前後にひとつずつしかなく、風車も真ん中に1本だけであり、決して早くない。しかも地面から1メートルしか離れていないので、トカゲに襲われたらひとたまりもない。
「はっはー。これなら逃げ切れるねぇ」
にやにやと笑う旅娘。その肩を小突いた。
「黙れ。冗談でもそんなこと言うなバカ」
船夫たちは明らかに殺気立っている。当たり前だ。仲間を殺されている。それもよくわからない幽霊船の亡霊にだ。その状態で不幸を振りまくと云われている魔女と共に丘へ向かわないといけない。それで殺気立つなというのが無理な話だ。
島につくと、船ごとクレーンで丘に揚げられた。岸壁はどんなに小さな街でも最低で5メートルはある。戦列艦や商船、輸送船などは岸壁に沿って留められるが、こういった小舟はクレーンで吊るされて、街の中にいれてしまう。
「明日の昼までに帰艦するように」
私は船夫にそう言って、終始不愛想だった彼に敬礼しておいた。
「それまでは戻ります」
それまでに戻らなければ、裏切りとして報告されるというわけだ。
私は身を回れ右をして街へ向かった。その後をひょこひょこと旅娘がついてくる。本当にこいつの行動原理は理解できない。何かを探しているというのは分かるが、それが何かを絶対に教えたりはしない。
ロタの霧の夜には、見つけたと呟いて姿をくらましていたが、手ぶらで戻って来たあたりまだ見つかってはいないようだ。果たして探し物とはなんのことだろうか。もしかすると、幽霊船に関連しているのかもしれない。
などとどうでもいい事はさておいて、仕事に集中するとしよう。
ホイエはロタよりさらに南にあるので、日差しが強烈だ。
行きかう人々も焦げ茶色の日差しに強い肌をしている。そして慣れているからだろうが、男は上半身をむき出しで、ハーフ丈のパンツとサンダルという出で立ちが多い。
都市に比べれば閑散としているし、住人しかいないので露店があるわけでもないし、賑わうわけでもない。あと男手は極端に少ない。森林島に出稼ぎに出ているからだが。
この世界では、女性は肌が白い方が美しいという風習がある。未婚の歳若い女性はすっぽりと頭の先から覆う前世でいう所のインドやタイなどの南アジアの民族衣装に似た服装が主流。結婚後は動きやすい衣装で、刺繍のあるシャツとロングスカートになる。そしてこの地の女性はとにかく働き者で、大きな籠に洗濯物や買った食料を入れて頭に載せている。人手がないから本当によく働く。
私の頭にはいつものターバンではなく、大きめの布を庶民風に巻いている。服も暑いのでマントは被らずにカミースのようなロングシャツとワイドパンツ。結構浮いているが、下手に現地なれしているよりかは浮いている方がいい。
そして旅娘はいつものコートとつば広帽子。暑苦しい恰好だが、本人は暑い暑い言いながらもそんなに暑そうではないのが不思議だ。
さて、と。まずは市井にいくとしよう。主婦の井戸端会議というのは、意外に新鮮な情報が集まるのだ。
「それにしても、なんでおっぱいかくしてんのさぁ。もっとこう、色気たっぷりにさぁ。すけべぇな感じの踊り子とかぁ」
旅娘がニヤニヤ下卑た笑いを浮かべながら、私の腰に手を回してきた。このド変態め。
「うるさい変態。黙っておけ」
私の恰好はどちらかというと男性の恰好だ。胸もサラシで縛っているし、この世界の私はどうにも日焼けをしにくい体質らしく、結構白い。精々好青年に見えるように繕えばなんとかそう見えなくもないだろう。