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晴れ時々、強盗日和。
蒼穹での中心で圧倒的な存在感を示す太陽は、容赦なくどこまでも続く黄色い大地を焼き付けるている。
そのカンカンに照る大地を、轟々と音を立てて歩いて進む中型商船。
左右2本ずつ、計4本のマストには大の大人が三人で抱えられる大きさの縦型風車が止まない風に吹かれて回っている。その風車に接続された4脚1ユニットの歩脚はマストと同じ数があり、全長40メートルの船を歩かせているのだから、中々圧巻の光景だ。それに諸事情により足は長く、甲板の高さは地上から約10メートルほども高い場所にある。
そしてその船に賊の皆々様が甲斐甲斐しく、生きるために仕事をしに乗船してきていました。
私以外の船上傭兵は瞬く間に殲滅され、行商の男手は反抗されないようにと首を掻き切られた。10分とかからずに船は制圧された。まったくこれでは船上傭兵も形無しである。
甲板に整列させられた私を含む乗船していた女性陣は、武装した5人の男たちに脅迫されている。彼らはどこぞの戦場跡から拾って来たと思しきぼろ装備だったが、それでも手際は非常にいい。賊が合法的かつ稼げるのなら彼らの組に雇ってもらう所だ。きっとその方が租税や組合費などの出費が抑えられて稼げるだろう。いや、いかんな。それではどう考えても違法である。
彼らは賊。許されていないからこそ強盗なのだ。許されざる者だからこそ賊なのだ。よって私は彼らと共闘はしない。共闘しないからには私は彼らを殲滅する。それが仕事だ。悲しいけど、これって生存競争なのよね。
生きていくのに必要なのは非情さだ。私もこっちに来てこの家業を始めたばかりの頃は人殺しに抵抗を感じていた時期もあったが、今は欠片もない。
小さな慈悲を持った瞬間に、後ろからごつんとやられる。そしたらマリア様もエリニュエスへ早変わりである。
さて同僚の傭兵たちは全員死亡している。
私を抜きにした男手の5人は、瞬く間に首を落とされた。中々の手練れだと思っていたが、相手の惰弱な装備を見て油断したのかもしれない。
先ほども言ったが行商の中にいた腕が立ちそうな男手は、すでに全員首をかき切られている。死体は甲板に転がされていた。頭上では早速死体の臭いを嗅ぎつけたのか、猛禽類が後を付けてくるくると旋回しながら飛んでいる。
残るは船夫だが、彼らを殺せばこの中型商船は動かせなくなるので、賊は手を出さない。賢明な判断に感謝したい。船夫たちも死にたくないので遠巻きに事の流れを見定めていた。賢明だ。私は聡明で思慮深い人間が、そこそこ好きだ。
さて一報て私たちというと、日差しのまぶしい甲板に横一列に並ばされている。右から奥方とその娘2人。たまたま隣の街まで向かうのでと同乗した旅娘が1人。
最後に私が1人。
女だけを残しているとなると、後はお愉しみと洒落込もうというわけだ。よくわかる構図である。そしてそんなものはこの世界ではありふれている。
「全員服を脱げ。持物は全部出せ!」
予想通りだ。賊の頭目らしき男がギラついた目で私たちを睨んでいる。
男の特徴としては、背は小さくどっしりとした体格。腕っぷしは立ちそうだ。二の腕の太さなんて私の太モモどころか腹回りくらいありそうだ。顔は髭だらけで、砂埃と垢で汚れきっている。この世界で風呂はそこそこの贅沢だ。街で日当の三分の一くらいの代金を払って入れるので、賊という商売をやっている者にはわりと縁遠いものだ。
ぱっと見は絶望的である。よくある結末ではある。この世界では”ありふれた”おしまいだ。
「さあ! 早く!」
刃こぼれしている長剣を突きつけながら喚いている賊の頭目。口では恫喝しながらも気持ちはこの後が楽しみで仕方ないようだ。そりゃあ、そうだよなぁ。
恐怖と羞恥と絶望で顔をゆがめる2人の娘たちと、1人だけどうする? と私の動向を伺う旅娘。奥方は死した旦那を見て硬直したまま動かない。
こうなっては仕方ない。本当に本当だが、人目のある所では絶対使うまいと思っていたのだが、今の所私は命の代替えができる物を知らない。なので能力を存分に使って、私の生命を脅かす存在を排除しようと思う。
私は無抵抗を示すように両手を広げて前へ出た。
「ねえ、旦那さん話を聞いてくださいよ……」
「黙れ! 言う通りにしろ!」
切っ先が付きつけられる。どうやら頭目のお好みは若い娘二人らしく、私にはさしたる興味がなさそうだ。いい趣味してるね。私もそれには同感だ。
「ですから」
剣が、振り下ろされた。私の頭をかち割るように。