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夜の帳を引き裂く銃声。それも10や20じゃない、100や200ほどだ。
第3艦隊に乗艦していた艦乗騎士と船夫は小銃で武装して、甲板に隠れていたのだ。
そして夜闇に紛れて現れた賊を、一斉に銃撃した。
星々の弱弱しい光に照らされた港の中に立ち込める黒煙火薬の煙と、濃厚な血の臭い。むせかえる地獄の臭い。
さらに甲板に出された約120センチ口径の臼砲が、『地平線の月光号』を砲撃した。一撃で船体が叩き折れ、黄色い大地へ崩れ落ちる。
「動力繋げ! 全艦離岸一杯!」
甲板からの怒号にも似たアンドリュー艦長の命令。船夫たちが速やかに指示に従って巨大な戦列艦を動かし始める。
そして号令は投光器を使い、各艦に素早く伝達された。
体に感じる慣性。桟橋から船を出す。
「全艦展開! 敵艦隊を包囲しろ!」
各艦は指示通りに操船し、鶴翼に広がった第3艦隊の戦列艦と駆逐艦が、夜の大地に身を潜めた賊の船を包囲し順次砲撃を行っていくのだろう。まだ床を転がる私には知る由もないが、もし私が艦長ならそう動くから、間違いはないだろう。
「……取れた」
”摩擦を無くしている”のに全然ほどけない結び目がやっと解けた。
それから私は大慌てで服を整えて外へ出た。
「絶対に敵船を近付けるな! 賊は乱戦に馴れているから、船内に入られると面倒だぞ!」
アンドリュー艦長の指示のもと、一糸乱れない操船と砲撃が行われる。
まるで無線とレーダーで連携されているのではと思わせるほど、見事な動き。いやはや、さすがは勇名をはせる第3艦隊。練度の格が違う。
「あ、駆逐艦は新型のカノン砲乗っけてるみたいだね」
旅娘が双眼鏡を覗きながら声を上げた。敵艦の中で明らかにおかしな燃え方をしている船があった。りゅう弾を撃ち込まれて燃えているのだ。
「お前。後で覚えてろよ……」
こんな所で能天気に物見遊山か。
からから笑う旅娘は、先ほどの事はまるでなかったかのように、忙しなく周囲を双眼鏡で覗いている。
「ほらほら、あれはよくある、挨拶? みたいな?」
瞬く間に駆逐されていく賊の船団。第3艦隊をもってすれば、街を脅かすような賊の船団とてひとたまりもない。
「各艦。警戒を厳にせよ。昭光装置全力で灯せ」
もう危険はほとんどない。掃討戦が始まった。
艦乗騎士が銃をもって丘に上がっていく。些細な怒号は、残存していた伏兵を殺しているのだろう。
「何も心配いらなかったか」
それもそうだ。
ふと肌寒さに私は肩を震わせた。
顔を上げると、深い霧が立ち込め始めていた。
ソローン諸島は夜明けの時間帯に霧が立ち込める事がある。
だが夜中に霧が出ると云うのは、あまり聞かない。
嫌な霧だ。