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闇の中でこそこそと動くものがあった。
『地平線の月光号』の貨物室から次々と出てくる人影。
船夫ではない。かといってその船が取り扱う商品《奴隷》ではない。
それに気付いたものは、それほどいない。ゆうに20はいるその人々は、速やかに灯台と岸壁の砲台を占拠していった。
「次は、軍艦だ。火を点けろ」
闇夜に紛れたその人影は、腰の小物入れから火打石を取り出し、火矢の穂先に火を点ける。それを一際大きな戦列艦に向けて撃ち込もうとした瞬間。
「撃て!」
新月の夜空の下、鋭く放たれた号令。劈く小さな破裂音。