32
瓶詰め肉と硬く焼いたパンを貪り、簡単な夕食を終える。元々食事に頓着はしない性格だったけど、さすがにここまで代わり映えしない食事をひと月も続けると、心がやつれて行きそうだ。
空の瓶をパンが入っていたバスケットに放り込んで、私は立ち上がって掘っ立て小屋の外へ出る。
「あ、ねーさん。あたしの分もよろー」
「働けニート!」
「にーとってなんぞー?」
なぜか旅娘の分も外へもっていき、甲板に居た船夫へ渡す。その船夫はまるで恐ろしい物を見る目で怯えていた。そりゃ、魔女は見るだけで呪われ、言葉を交わせば災厄が振りかかる。そんなのと近づきたくない。そんなわけでそそくさと去って行った船夫。
私は踵を返して掘っ立て小屋に戻った。
戸を閉じると、ランタンの光が消えていた。
何事だろうか。と思った矢先。手を強く引っ張られて床に引き倒された。
「ふあ?」
「ふふふ。ねーさん、油断したね」
闇に目が慣れて来た。
目の前には不敵な笑みを浮かべた旅娘の顔。私の腰の上で馬乗りになって、上半身はしなだれてこちらを覗き込んでいる。
くすんだ金髪が垂れて私の鼻先をくすぐる。若干澱んだ緑色に縁どられた金の瞳が細められていた。
「なんの真似?」
「ちょーっと、ムラムラしただけですがー?」
この前の仕返しのつもりか?
「今放せば、側舷に叩き落とすだけで勘弁してやる」
「それ死ぬやーつ」
からから笑う旅娘。
「死んじゃうなら、この場でたのしーこと、しーちゃお」
にやりと人を食ったような笑みを浮かべて、彼女の顔が私の首筋に噛み付いてきた。
「いた、ちょ!?」
押しのけてやろうと思ったら、手首を縛られ後ろ手に回されている。いったいいつの間にやったのだ。私にすらわからないって。
「前開きの服なんて着ちゃってさー。ねーさんも、その気なんでしょ?」
熱っぽい声でささやきながら、ぷちぷちとボタンが取り外されていく。手つきが妙になれている。
噛んだ痕を唇でくすぐられる。ぞわりと背筋がむずがゆくなる。
完全に開け放たれると、旅娘は「おぅ」とうれしそうな歓声を上げた。こんなことならサラシをしっかり巻いたままにしておくべきだった。そうか、取ったからこの色欲狂いが目を覚ましたのか。なんてこった。
「ねーさん、良い体してんねー。傭兵よりお抱えの情婦の方が稼げるんじゃない?」
えへへとだらしなく笑い、顔を胸元に埋めて私のをむんずとつかんだ。余計なお世話だ。
「ド変態め……」
「そう言うなら、お得意の魔法で抵抗すれば?」
膨らみの肉には唇、歯、舌の3つがじゃれついてくる。左手は自由気ままに突き崩し、ゆすり、しぼりならが山頂のつぶてを指先で弾く。
別にそれで快楽が芽生えるとかそんな事はない。ただくすぐったくはある。
「ほらほらー」
くりくりと人差し指が丘の天辺をいじり始めた。無意識に鼻から息が抜けて、変な音が出た。
「お、可愛い声。直接攻撃が一番有効かー」
このクソアマ。蹴っ飛ばしてやろうかと思った矢先、突然やつはばっと顔を上げて上半身を離した。
いや、なんだよ。こんなタイミングで止めるな。クソ恥ずかしい。
「な、なに」
真剣そのものの顔。いや、まるで獲物を狙う獣だ。今まで見たこともない旅娘の顔にぞくっと背筋が寒くなった。
「……」
そして旅娘は音を立てず立ち上がると掘っ立て小屋を出て行った。
「え、ちょ!? まて、これ取ってけ!」
私は肌をむき出し、後ろ手に縛られたまま放置された。ふざけやがって!