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地平線が続く世界で ~俺TUEEE、にはなりませんでした!~  作者: 夜桜月霞
1……『本日は晴天なり。しかし我が航路には暗雲立ち込めております』
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27

 出航から18日が経ち、やっとこさソローン諸島の玄関口、ロタ島に到着した。


 ロタ島はソローン諸島第2の都市としても機能する大きな島で、最も船が留まれる港である。


 そこに艦隊を二手に分けて停泊する事となった。1か所に集まると、他の人に迷惑になるという最もな理由を述べられたアンドリュー・バルセルナ准将の人格には素直に称賛する。図体がデカい強力な組織は、総じて胡坐をかいたクズがトップにいる物だと思っていたのだが、彼は違うようだ。


 物見甲板の手すりにもたれかかりながら、私たち2人は荷の積み下ろしを行うのをぼうと眺めている。普段ならこのタイミングで街へ出て情報収集を行うのだが、今回はそうもいかない。逃亡の可能性と言われてしまえば、船から降りる事も許されない。退屈に拍車がかかる。


「退屈だぁ、たいくつだ、たいくつだぁああ」


「黙れバカ」


 旅娘はつまらなそうにダークというアコースティックギターに似た楽器をつま弾き始めた。可もなく不可もなくという何とも言えない腕前だから余計にウザい。


「丸々5日も練習してるんだから、ちっとは上手くなれよ」


「えー、うまいじゃん? ほらー」


 ぼろろんぽろろんと微妙に粒のそろってない音色を立てて見せる彼女。


「ってかさ、音合って無いんだけど?」


「え? あってるよー?」


 いや、合ってない。半音とは言わないが、ずれている。


「いや、ずれている。少し低いな」


 突然の声は、相変わらず艦橋からの声。


 アンドリュー艦長だ。艦橋の手すりに肘をついて身を乗り出した彼はこっちを興味深そうに見ていた。


「あれ? 下りないんですかい?」


 私の疑問に、くいと片方の眉を上げて肩を竦めた。


「特にやることもないからな。それより、ちょっと」


 と、いきなり艦橋から飛び降りる御仁。


「ちょ!? あぶ」


 驚く私を差し置いて、艦橋の物見台から飛び降り、そして掘っ立て小屋の縁を蹴って、私たちのいる物見甲板に降りてきた。


「あぶない! 危ない! 怪我しますよ?」


「ああ、大丈夫だ。こんなのはよくやる事だから」


 それより、ほれといって旅娘からダークを取ると、ペグを回してチューニングを始めた。といっても一発だったが。


 一度鳴らして、ほらできたと渡してきた。


「弾ける? もしかして弾けたりする?」


 と、目を輝かせる旅娘。ちなみに帽子があるから角度的にアンドリューからは彼女の顔は見えていないはず。


「ん? まあ、いちおうな」


「弾いて弾いて!」


 受け取らずにぐいぐいと押し戻して持たせた旅娘は、ぱんぱんと手を叩いてリズムをとり始めた。


 暇だしいいかとつぶやいて、颯爽と演奏を始めた。なんだよイケメンかよ。


 そして弾き始められたのは町の酒場でよく弾き語られる旅人の歌。


 アップテンポで風と旅を愛し、まだ見ぬ冒険に心躍らせる旅人の歌である。歌詞といいダークの音色といい、完璧だ。途中でボディーを叩いてスラム奏法入れるあたりセンスを感じて止まない。


 聞いていて心地よいし、気分が高揚する素晴らしい演奏だった。


 一曲を余韻をもって終えると、知らずに手を叩いていた。それは隣のやかましい小娘も同じようだった。


「すばらしい! すばらしい! さすが最強艦隊の艦長さん!」


「それは関係ないけどな」


 ほれと返してきたダークを受け取り、旅娘はまだ感動したと言っている。


 それほどの腕前だった。転生してからこっち、まともな音楽に触れてこなかったら、余計に感動的だ。


「うますぎる。軍人さん辞めて、ダーク奏者になれるよきっと!」


 旅娘の掛け値なしの褒め言葉。これはお世辞ではないと思う。というかこの娘がそんな器用な事ができるはずがない。それに私だってそう思うから間違いない。


「はは。ありがとうよ」


 影が見える笑いは、なるほどお家の事情というやつか。


「いい曲を聞かせてもらいました。魔女ごときの賛辞で大変恐縮ですが」


 純粋に素晴らしい演奏だった。それだけは間違いない。前世でもまず聞けない腕前だった。一時弾いて見た系の動画やプロによる本気の遊び的な動画にハマっていた私は、言ってはなんだがそこそこ耳が肥えているつもりだ。それでも納得の腕前である。


 そこで照れくさそうに軽く咳払いした彼は、そうだとつぶやいた。


「あんたら、情報収集に協力してもらえないか?」


「情報収集?」


「どうにもここはキナ臭くてな。住人は軍服を見ると距離を取るのさ」


「ああ、なるほどね」


「ほほー。でもあたしらだけだと、逃げちゃうかもしれないぜ」


「はは。そうだな。ならオレも一緒に行こう」


 そして彼は平服に着替えると、私たちを監視するという名目で一緒に街へ降りた。



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