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「入れ」
厳めしい、いかにも司令官の騎士らしい厳かな声が戸の向こうから聞こえた。ゆっくり開かれ私たちは中に通される。
赤い毛足の高い絨毯が敷き詰められた室内は、重厚な木目の調度品が並んでいた。
おそらく馬車一台と同じくらいの値段がしそうな一枚板から作られた机についているは、壮年の騎士。といっても今は連合王国軍の制服を着ているが。
階級は、襟を見る限り少将閣下様だ。これはとんでもない大物に呼ばれたものだ。
「アイニー・アストロ、であるか?」
口をふさがれているし、首にはエリザベスカラーみたいな枷がつけられている。頷けもしない。
「目で応えよ。肯なら縦。否なら横に視線を巡らせよ」
さいですか。
「よろしい。では貴様にひとつ、命を与える」
少将閣下は一通の手紙を取り出した。
連合王国王室の印璽が打たれた封蝋があるって事は、これは恐れ入った。まさかの女王陛下からの勅命である。
少将閣下は開封するとそれを広げて読み上げた。
「勅命。アイニー・アストロに以下の任を与える。任。南大平野ソローン諸島における不明船の討伐。以上」
不明船って、まさか幽霊船のことか? そんなアホな。都市伝説ハンターにでもなれと言うのか。この私に!?
そんな事の為にこんな大仰な事をやってのけるなんて、王室も余程暇と見える。まさか幽霊船の秘密の財宝が欲しいなんて言うまい?
「なお、同時にもう一通ある。それがこれだ」
そちらには封蝋はない。なぜなら私、アイニー・アストロの死刑執行の承諾書だから。ただし日付は書かれていない。つまりは、私がこの話に乗らなかった時、もしくは任務失敗の時はこれに日付を書き入れろという事だ。
最高の命令である。女王陛下万歳。末代まで災い有れ。
「選択の余地がない選択なんて、中々冴えた冗談ですなぁ」
こそっと笑う旅娘。お前もこの状況で笑ってるなんて、中々いい神経しているよ。
「して、どうする? アイニー・アストロ」
選択肢は実際ないも同然だ。私は瞳を縦に動かした。この時ほど呪いの魔法が欲しいなんて願った事はない。はずだ。