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航行は順当に進み、約束のドブロまでついた。
長い様だったが、それほど難儀はしなかった。それに伝説の怪物にも遭遇しなかったし。
「え、いたよ?」
「いや、出くわしてないだろ?」
「ずっと。斜め後ろにいたけど、ねーさんが教会の船蹴っ飛ばしたから逃げてったんじゃないかなぁ?」
そんな軽口を言う旅娘。
私たちは早々にドルテから金をもらい握手し、契約書を破棄すると手近な船へ飛び乗った。
あんな事があったのだ。メディッテ盆地の近くは危険だ。教会が血眼になっているに違いない。
ひとまず金を払って船に乗り、ドブロを離れて3日。そこそこ大きな街に着いた私たちは、まず港湾局へ向かった。
困った時は港湾局。それが船上傭兵の習わしだ。
そして港湾局に着いてドアを開けた私は、己のうかつさを呪わずにはいられなかった。
「おお、くそったれ……」
「お?」
私は額に手を当て、天を仰いだ。
港湾局の詰め所には、よく鍛えられた鋼の甲冑と、濃紺と紅い十字が描かれた騎士外套を着込んだ正規騎士が隊列を組んで待ち構えていた。それも1個班、8人だ。狭苦しい詰め所が余計に狭苦しい。
異端審問官ではないが、連合王国の王立艦乗騎士隊である。はたして幸か、不幸か。
「奇術師のアイニー・アストロだな。同行願おう」
「願おうなんて、拒否権ないくせに」
「え、あんた! あの奇術師の!? それは参った。なら、あたしはここいらでぇ」
「あ、こいつ、盗人なんで、一緒につれていって」
「おお……カミよ……」
手を組んで空を仰ぎ見た旅娘の襟首を、騎士団の厳めしいガントレットがむんずと掴んだ。
かくして私たちはこの町の連合王国王立騎士団駐屯所へ連れていかれた。




