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瞬く間に轟沈した3隻の軍船。いや、彼らからしてみればすでに6隻の船を沈められた事になるのか。これが通常の軍隊なら、国家存亡の危機だろう。軍艦というのは非常に高価だ。6隻という船の数はひとつの国の国防力の総数であってもおかしくない。1個艦隊の数だ。
教会勢力は人類圏最大であり、最強最大の戦列艦であるヴィクトリア2世と7つの艦隊をもつ連合王国。船は皆小ぶりだが数は連合王国をしのぐ帝国。それらの総数をもってしても、教会の船は多い。お膝元とはいえ、メディッテ盆地だけで10個艦隊、それ以外の概要に14個艦隊を持つ。冗談のようだが、宗教というのはそれを可能にする。宗教を前にしてみれば、国や民族は些末事である。
さておき、いくらたくさん艦隊を持つ教会といえど、この損害は捨て置けない。兵隊はいくらでも替えが利くが、船はそうもいかない。新しく作るにしても、時間がかかる。
「アイニー・アストロ。貴様には魔女である容疑がかけられている。大人しく出頭するなら、慈悲深い法王猊下も貴様に対して」
「ああ、そういう100万回聞いたセリフはいらないですわ」
指揮官である司祭の言葉を遮り、私は仁王立ちになる。
「お前らからもらう言葉はない。ただ私はこの黄色い大地を行き交う船の上で生きる者としてお前らに云う」
甲板に並ぶ僧兵たちは動けない。何が起きるのか、見守っているのだ。
人というのは、生き意地が汚い。最後の最後まで、首が飛ぶその瞬間まで、自分は何とか生き残れないだろうかと考えている。それは私もそうだ。
だが、許せない。無実の子供までも魔女として処刑した彼らだ。今目の前で助けを乞う仲間すら見捨てる彼らだ。
私は、こいつらを助ける事が、できない。
「お前たちは哀れだ。宗教の名の下、人々を殺めた。黄色い大地を行く船の掟すら忘れた。故に、今一度掟に従い、お前らを処断する」
私は普段から少しずつため込んだ太陽の熱エネルギー少しだけ放出した。
一気に放つと、原爆もかくやという量まで溜まっているので、極僅かでいい。
放出されたエネルギーは一瞬にして船の2割を焼き尽くした。
もはや生きている者の方が少ない。
さて、迎えは来るだろうが。私のポケットの中身は空に近い。ここから歩いて近くの島や台地へ行くことはできないだろう。
あの船の乗組員たちが勇気を奮い立たせて、私を迎えに来てくれることを祈るばかり。
「おーい」
船が迎えに来るはずの方向からの声。あの旅娘だ。
私は目を凝らしてみると、島の影からゆっくりとカーゴシップが出てくるのを見た。船首部分で、旅娘がぶんぶんと大きく手を振っているのが見えた。
「ねーさーん! 迎えにきたぜー」
どうやらあの娘は、少しは役に立つようだ。
戻った私を乗組員たちは畏怖と恐怖と、悪魔を見るような眼で迎えたのは、暫く忘れられそうにない。いや、心なしか”私たち”を見るような眼だ。