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今回の戦いはひとり対軍船4隻というあり得ない対比だ。単純に考えると軍船一隻あたり500名から700名ほども乗組員がいるからざっと2000人強。1対2000と聞くと背筋も凍る戦力差だ。
甲板で強襲を待っていた僧兵が100人。きっと甲板の下にその倍の銃兵がいるだろう。まずはこの100人を倒す。
ある程度の乱戦だとむしろ少数の方が有利になる場合がある。なぜなら数が多すぎて対面しきれないのだ。
私はエネルギーをたっぷり乗算した長槍を振り回した。敵にぶつかった瞬間、相手の質量と足の裏の摩擦力を奪い去る。そうすると面白いように人が飛ぶ。まるで前世で流行った戦国時代アクションゲームのようだ。
もはやこの戦力差だ。考えは不要。片っ端からフっ飛ばして、船外へ叩き落とす。鎧や武器で防がれても、私にはチートがある。切り殺したり、超技術で漫画やゲームのような見事な剣捌きを披露する必要はない。フっ飛ばせばいい。
そうして瞬く間に甲板上の100人を船外まで叩き落とした頃には、乗り込んだ船の艦橋から警告の鐘がけたたましく打ち鳴らされていた。
それを聞きつけて下層から銃士が次々と出て来た。私しかいないと見るや躊躇なく発砲する。
甲板上は発砲煙で真っ白になる。それもすぐに風に流されて消える。
敵はやったかとこちらを窺うが、残念ながら無傷。
放たれた弾丸は私に触れた瞬間にすべてのエネルギーを奪われ、甲板に力なく転がり落ちる。
「残念ながら効かないなぁ」
私はにやりと不敵な笑みを浮かべると、相手方から次々と悲鳴と絶叫が上がる。
「何を恐れる事がある! われらは神の地上代行者! 常に神の」
艦橋の上から派手な法衣をまとった男が叫んでいる。私はその男めがけて落ちていた弾丸を拾って投げつけた。
きっとこの男も味方を無視して追跡しろと命令した1人だ。許してやれない。
私が投げた弾丸は音速をゆうに超え、男の下顎から上を消し飛ばした。
身を乗り出して叫んでいた彼の身体が、手すりを乗り越えて甲板に叩きつけられる。
その瞬間、船上は完全にパニックのるつぼとなった。
この船の最高指揮官が殉教。次席指揮官が出てきて何か叫んでいるが、もはや誰も聞く耳を持たない。
よしよしと頷いて、私は甲板に出ていた大砲を勝手に使い、隣でこちらの動向を見守っていた敵船を砲撃した。次々とだ。
すでに装填された大砲は準備万端。それを扱う船夫は私から逃げ出したのか、はたまた私が吹っ飛ばしたかは分からないが、今や扱う者がいない大砲を使って好き放題だ。
10台の砲を撃ったが、ほとんど直撃だ。砲兵として転職も悪くないかもしれない。
しかし敵もいい加減見切りをつけたのだろう。砲声が聞こえ、私が乗っている船が大きく揺れた。残りの2隻がこの船めがけて撃ってきた。
近付きはしない。射程距離ギリギリで撃っている。
とはいっても、この世界の砲の精度は高くない。それに砲兵術が確立されていないから当然照準というものも雑だ。ナポレオンが覇権を握っていないから、仕方ない。
2度目の衝撃で、船は粉砕された。
私はというと、自分の体重を無くした事で、1回目の砲撃で空高く舞い上がっていた。
質量は限りなく0に等しい。
100メートルほどの上空まで飛ばされた私は風を掴むとそれを操作して、残りの2隻の真上まで移動する。
あとはくすねておいた砲弾を、敵船めがけて落とすだけだ。
質量は元々の重量より10倍に増やし。加速度も加算。音速を超えた砲弾は、空気の圧縮熱で真っ赤に赤熱しながら船に直撃した。
前世でもそうだったが、地上を行く機甲兵器というのは、上面が弱点である。
重力で加速された砲弾は、水平装甲をたやすく突き崩す。
私が落としたふたつの砲弾は、3隻目の船を真っ二つに叩き折るのに十分な威力を発揮して見せた。
そこで私は自分の体重を戻して、残りの船に着地する。
「さあ、教会の僧侶諸君。魔女狩りはいかがかね?」