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地平線が続く世界で ~俺TUEEE、にはなりませんでした!~  作者: 夜桜月霞
1……『本日は晴天なり。しかし我が航路には暗雲立ち込めております』
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 島を背に一度隠れて、島を廻り込むか。いや、危険だ。そうすると敵船の側面に出る。待ち伏せされたらおしまいだ。


 そうなると、やはりやりたくはないが、オレツエー状態でひと暴れするしかないか。


「作戦を伝える! 船夫長と航行士を!」


 言うが2人はすでに私の近くに控えていた。ドルテと入れ替わりで甲板に降りていたようだ。


 ふたりに地図を広げて見せる。


「島の右方を通り敵船が見えなくなると同時に取舵。左回りに島を回り込んでください。その間に私は島を突っ切って敵船へ飛び移ります」


「な、なにを!? そんな事」


「その間に逃げるなんて、しないでしょうね?」


 怪訝な顔の2人。それもそうだろう。この状況なら逃げ出すという考えが一番最初に出てきてもおかしくない。


「ここで逃げて、助かる可能性がおありでしょうか? それに私は、味方を見捨てる輩がね、大嫌いなんですよ」


 私はにやりと笑う。


 前世の情景が、頭をかすめる。


『できないなら辞めてもらって構わない』


『代えはいくらでもいる』


 そう言って新人を入れては切って行く役員陣。


『営業なんだから、自分のケツは自分で拭いて当たり前。できないならいらない』


『彼だってもう大人なんだから、自分で自分の責任とれるでしょう』


 利益は搾取する。下手こいた新人は躊躇なく自己責任の下、切り捨てるシステム。


 それが嫌で、私にできる事はすべてやっていた。


『○○さんはお人好しすぎるんですよ』


『そんなことまでやってたら、自分がつぶれますよ』


 そう言う同期。見て見ぬふりをして自分の数字だけを求めて登って行く連中。


『鬱? そんなの自分が弱いからいけない』


『責任感がないからそんな仮病みたいなのになるんだ』


 突然来なくなる新人や同僚を鼻で笑う連中。


 大嫌いなんだ。


 そう言って簡単に同僚を見捨てる連中を、私は許したくない。


「船乗りの鉄則、でしたっけ? 私、それに賛成なんですよ」


 魔女というのは、裏切りを許さないといわれている。約束を破ると魔女メアリが来るぞ。とは子供の頃からよく聞かされる話しだ。


 船というのは一致団結しないと動かせない。故に裏切りや仲たがいというのは厳罰される。だからこそ船乗りに『魔女』という存在はよく効く存在だ。


 私は魔女と呼ばれている。転生してきたボーナスで便利な能力を授かっただけだが、それはこの世界では魔女として扱われる存在だ。


「私はドルテ氏と契約を結んだ。この船と荷を目的地まで運ぶ護衛をする契約だ。契約が結ばれた以上、私は、アイニー・アストロはそれを遵守し、契約を達成する。お判りいただけたかな?」


 契約書を見せた。そこに私とドルテの署名がある。船を護衛するというもの。


「あなた達の雇い主は、魔女と契約を結んだ。それだけで、私があの掟知らずを叩き潰す理由になるでしょう?」


 二人の男は顔を引きつらせていた。


 魔女は恐ろしい。そういう風に刷り込まれているのだ。


 曰く、メアリ・アン・リードリは約束を違えた街の住人を全員殺して崖に吊るしたという。体中に裏切り者に死をと呪詛の言葉を刻んでいたという。


 魔女の約束を違えてはいけない。魔女との約束は守らなければならない。しかし守れば必ず魔女も約束を守る。契約を完遂する。


『そこで見捨てて、彼らの人生どうなるんですか? 自分を助けてくれない社会を、誰が助けるっていうんですか? ピンチに手を差し出してくれる会社だから必死になれるとなんでわからないんですか?』


 かつてミスをした新人を切ろうとする役員に向かって叫んだ言葉だ。青臭い言葉だと思うが、私は今でもそれは変わらない。


 自分を助けてくれるから、必死にその人と戦えるんだと思う。


 まあ、この世界はみんな自分が生きるのに必死だから、そんな余裕は誰もないが。


 誰もないからと言って、私までそうする道理はない。


 むしろ私は恵まれているのだ。力がある。


「……わかった」


「君に従う」


 私はうんと頷いて、地図をもう一度広げる。


 私の考えた作戦を伝え、船は島のすぐ近くまで来ていた。


 さて、作戦開始だ。


 私は外套を脱いでハンモックに投げた。


「ねー、いっちゃうんだ?」


 ハンモックに揺られる旅娘。表情は見えない。


「まあね。そうでもしないと、ここから生きて出られないからな」


「フーン」


 表情が見えないし、声色も普段よりは少し落ち着いている。何を考えているのかは分からない。


「まあ、いいや。ねーさん強いからなんとかなるっしょ」


「何とかはなるな。でもこの船の協力がないと、生きては出られないから、そこだけは危惧してる」


 不安要素としては、乗り気だがやはり保身を捨てきれない乗組員たち。啖呵は切ったが、実際教会の軍船と真正面からケンカを吹っかけるというのは、生半可な覚悟ではできない。


「そ? なら、アタシがこの船の連中に”約束を守らせておく”よ」


 にやりと笑う口元が見えた。


 何を考えているんだろうか。


 よくわからないし、こいつがそんな力を持っているとは思えない。


 まあ、そう言ってくれるなら、こいつに任せよう。


「任せた」


「任された」


 顔を上げた旅娘。


 思わず毒吐きたくなるほど、可愛らしい笑顔だった。


 私はすぐに踵を返して外に出た。時間はもうない。

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