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胸糞悪いが、私の依頼主はドルテだ。そして彼の船と積み荷を守る事が今回の仕事だ。その為に乗組員も守る。故に敵は倒す。
遠慮は必要ない。
それにまだ僚船がいる。完全に全員が死ぬ事はないだろう。
私は進むべき方向へ視線を戻した。
「炎を見て集まるのは獣だけじゃない。教会の船が増えるかもしれない。警戒を厳にして!」
これから二日間は眠れない夜が続くだろう。
ローテーションや武装も考えないといけない。私は一人しかいない。かといって三日三晩をひとりで守り通すなんてできない。
頭を悩ませることばかりだ。
そんな事を考えていたら、艦橋から私を呼ぶ声が聞こえた。
「なにか?」
大声で聞き返すと、蒼い顔をした観測手が叫んだ。
「やつら! 味方を見殺しにして、追いかけてくる!」
私は思わず甲板から身を乗り出して、望遠鏡で後ろを確認した。
我々を追跡する船団は、轟沈した僚船の救出活動をせずにこちらへ迫って来る。まるでそこには何もないと云わんばかりの全速力。
「外道め……」
「人じゃない」
船夫たちは口々に吐き捨てる。
船乗りというのは、基本的に結束力が強い。
味方は見捨てないし、敵でも可能なら助けもする。
まして船が沈んだ時は、任務を放棄してでも助けるという。
「どうにも、船の上で生きる者として、習わしを教えてやる必要があるようだ……」
私は誰に言うでもなくつぶやいていた。
気にくわない。目的のための犠牲? 殉教者? いや、助ける者を助けない。見捨てているならそれは怠惰だ。
「そうだ!」
「なにが教会だ!」
「船の掟を知らない野郎どもにビビることはねぇ!」
船夫たちはなぜか異様なほどやる気が満ちていた。
「お、お前たち、本気なのか?」
怯えるのはこの船のオーナーであるドルテ。彼からすればこの隙にさっさと逃げたいところだろう。だが逃げるのは得策じゃない。いくら船体が大きく丈夫なカーゴシップと言えど、軍船相手に追いかけっこをして勝てるはずがない。荷を下ろすときには止まるのだから、その時に負けてしまう。
ゆえに、ここでどうにかしないといけない。
こちらの手の内はある程度読まれているだろう。見られてもいるはずだ。
だが、対策はされていないだろう。いや、できない。なぜなら魔法の対策は魔法しかないからだ。教会はどうあっても魔術の類を認めない。認めないからこそしらみつぶしにしている。
それに、なにか対策をされた所で、私は負けない。
「この先に島があるらしい。そこで待ち伏せる」
私の言葉に船夫たちはアイアイと景気よく返事を返してくれた。
それに不安しかないという顔のドルテに私は小声で耳打ちした。
「ここで討たねば、荷を下ろす時に一網打尽にされます。それに士気が高い今が機会です」
「……分かった。しかし、何か秘策でも?」
「私、魔女なんですよ?」
知ってましたか? というと、言葉に詰まるドルテ。
原因のひとつでもあり、打開する方法でもある。
「君に任せる。だが、絶対に荷を守り切ってくれ」
「お任せください」
私がそういうと、彼は不安をこらえきれないという顔で艦橋へ登って行った。
とはいうものの、どうしたものか。