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「艦橋側装填は!?」
「いつでも撃てます!」
艦橋に隠している臼砲へ駆け寄り、望遠鏡で敵船を確認。真っ当に考えればまだ遠い。遠いがもうすぐ絶好のチャンスが来る。
「もう少しだ。もう少し」
臼砲の仰角を微調整する。もう少しでいい。
船は真東へ向かって全速力で走っている。もう少し。
敵船はまだ間合いがある。敵も船の甲板に置かれている握り拳大の砲弾を撃てる中型滑腔砲を用意しているだろうが、互いに距離がありすぎるので撃たない。砲は一度撃つと再装填に時間がかかる。タイミングを間違えれば、致命的な失敗になるので撃てない。
「合図で撃て。4……、3……」
機会はもうじき。もうすぐ。
「2……、撃て!」
船夫が火縄を火口へ押し込んだ。
轟音。そして濃霧のような白煙が一瞬で立ち込める。
甲板を揺らして、斜め上に向かって撃ち上げられた砲弾は、ゆっくりと飛び上がった。
そして瞬き1回半の時間を使い、砲弾は2隻の敵船の間に着弾して破裂する。
風に対して斜めに進むこの船と、向い風で進む敵船ではこちらの弾道の方が伸びる。それにこちらは素人ながら弾道を計算して曲射しているから飛距離も伸びる。
この世界の風車は縦型風車が最もありふれている。縦型風車の利点は風に対してどの方向からでも風車を回す事ができる事。故に船を走らせる際に風向きを意識する事はあまりない。向い風なら船速が遅くなるし、追い風なら早くなる、程度だ。
「すごい! どうしてこの距離で!?」
驚くドルテに私はしたり顔で言いのけた。
「お教えしても良いですが、別料金ですよ」
「傭兵殿は、商売も上手い……」
ぐぬと呻きながらも、彼は今の出来事を頭に焼き付けている事だろう。
「生きてこれを脱したら、格安でお教えしましょう」
「……ああ」
ここで初めてドルテが笑った。
さて、次の手だ。
おそらくこれで相手は、こちらを警戒するはずだ。なにせ最大飛距離を超えて砲弾を送り込んでくるのだ。魔女の呪いを疑わずにはいられないだろう。これで少しでも足並みが鈍ってくれたら御の字だ。
「進路そのまま! 全力で走れ!」
私は艦橋に向かって叫んだ。
戦いは始まったばかりだ。
それからすぐに敵は戦術を変えてきた。
今までは四方に船を配置して囲い込み挟撃する戦術だったが、敵は前後に船を集結させ挟み込むつもりらしい。それぞれの船は、こちらに向けてまっすぐ迫る進路を取っていたのを変更し、進路を真横に変えた。
こちらの前方で待ち伏せし、側舷をこちらに向け始める。船は構造的に側舷が最も長い。船同士の戦闘では、大砲の数が勝敗を決める。その為側舷にありったけの大砲を並べるのだ。それの最たる例が戦列艦だ。横一列に並べた大砲。その列を階層構造で上下に積み重ねたものだ。私の知る限りこの世界で最も大砲の数多い、つまりは強力な船は連合王国の第3艦隊旗艦『暁の女王・ヴィクトリア二世』である。船体の巨大さもさることながら、近距離から長距離まで対応できるように複数種類の大砲を備え、巨船に見合う大量の大砲を備えた戦列艦だ。
そして今回の相手も、そんな巨大怪物船とは違うが軽戦列艦である。二層構造の戦列をもち片側だけでも20門の大砲を装備している。まともに殴り合えば、いくら大型のカーゴシップと言えどもひとたまりもない。
ここからが勝負だ。恐るべきは前方の3隻。後追う4隻は、追いついて来るまでにまだ時間があるから今は保留。
さて、どうする。