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単発雷撃魔法

慌てたクロに引っ張られて、マイトとシロは窓越しに外を見る。


窓の外には、遠くの方で真っ黒な「波」のようなものが蠢いていた。


「あれは『魔猿』だな?」


「マエン?」


「ああ。猿型のモンスターだ。

爪も牙も厄介だが、武器も使う。

動きも素早い。

森で遭ったら厄介なモンスターだな。


だけど………この数は異常だな」


魔猿は通常十数匹で1つの集団を作り行動している。

1匹1匹の戦闘力はそこまで強力ではないが、襲ってくるときは集団で襲ってくるため、

初心者冒険者や、中級~上級の冒険者でも注意を怠ると、あっという間に命を落とす。

魔猿の対処は、後手に回った時点で失敗。

迅速に探知し、1匹ずつ潰していくのが定石である。


その魔猿が、

―――窓の外には少なく見積もって1000匹はいる。


「嘘………でしょ?」

シロは絶句し、クロは怯えている。

戦闘して排除できるレベルをはるかに超えている。

もはや災害のレベルだ。


しかし、マイトは特に驚きも怯えもなく、興味なさそうに窓の外を眺めていた。


「マスター?」

心配そうにすがるクロ。


マイトはクロの頭を優しく撫で

………ようとして、ホワイトブリムが目に留まり、

そのまま撫でるとホワイトブリムがずれそうだなぁと思い直し、

代わりに肩を抱いた。


「心配いらない。この家には何重もの結界を張っていて、

探知も認識も突破も困難だ。

魔猿ならなおさらさ。

だから、何も心配しなくていい。」


「………町は?」

シロがぽつりと呟く。


「町はどうなるの?」


「………町には、軍がまだいるだろう?

猿くらい対処するさ」


「この数でも対処できるの?」


「猿を殲滅するか、猿に殲滅されるか、五分五分………もないな。

少なくとも町は壊滅する。

うまい具合に魔猿を退けても、町はボロボロになるし、

市民は避難、軍は撤退。その後奪還、というのが現実的な筋書じゃないかな」


「そう………」

シロは言葉が続かない。


「………なぁシロ」


「なによ」


「お前は人間の町が滅んで『ヨカッタ、ザマァミロ!』って思わないのか?

軍人が何人かでもやられたら、気が晴れたりしないのか?」


シロは反射的に振り返ってマイトの目を捉えて睨みつける。

シロの両眼には激しい怒りの色が映っている。


「バカにしないで!!私は下賤な人間とは違う!!

人の嘆きを喜ぶほど、私は堕ちてなんかいないわ!!」


「………そりゃ悪かった」


「あなたこそどうなの?

同族がこれから凄惨な目に遭うっていうのに、あんたは全然心が痛まないの?!」


「………シロ」


「なによ!?」


「やっぱりお前、いい女だな」


「な!?」

シロの顔が急速に赤くなる。


「あ、あんた!?

何言ってるのよバカッ!!

こんな時に口説いてるつもりなの!?」


「………いや、別に口説いてるわけじゃないんだが」

マイトは困ったように頭を掻いた。


「俺は人の生き死にについては興味が薄くてね。

でもま、確かに町が壊れるのは色々不便になって困るから、

………何とかしてみようか」


危ないから2人は中で待っていてと言い残すと、マイトはベランダに出て、それから飛行魔法で屋根の上に上った。


マイトの後を追って、シロとクロはベランダに出るが、屋根の上までは登れない。

ベランダから、屋根の上のマイトを見上げた。


「ナントカッテ………」

「あいつ………何するつもりなの?」


マイトはまず、左腕を空に向かって伸ばす。


―空気中の水分濃度、確認。

―水魔法で補正。閾値達成。

―創生魔法発動、対象:黒雲

―閾値設定。魔法式連続再生。


「あれって………」

「………クモ?」


マイトは今度は、右腕を魔猿の群れ、その中心に向かって伸ばす。


―前方の物体探知。識別対象:魔石

―風魔法発動。終了。

―識別対象数:1223、終了。


―閾値達成。魔術式連続再生終了。

マイトは左腕を下す。


「ソラ………」

「あんなに晴れてたのに、今にも雨降りそう」


―雷魔法起動。狙撃対象:魔石。

―経路作成。照準固定、動的指定、完了。

―魔法式、複写作成。複写魔法式数:1222。

―必要魔力数計算。閾値クリア。


―雷魔法発動準備完了。


「【単発雷撃魔法サンダー】」

マイトが右手で指をパチンと鳴らした瞬間、


空を覆わんばかりの激しい閃光が降り注ぎ、その直後地面を揺らすほどの轟音が駆け抜けた。


シロとクロはあまりの衝撃に、耳を塞いでその場に蹲った。


「耳痛イ」

「何が起こったの?」


2人は聴覚が麻痺し、平衡感覚も覚束ないが、

ベランダの手すりに掴まり、よろよろと起き上がった。


眼前には、黒焦げになった魔猿が、次々と黒い霧になって消える瞬間が映っていた。


モンスターと通常の動物の違いは、

モンスターは体内に魔石を持ち、魔石が魔素を集めて身体を作っていること。

魔石の種類によって、猿や鳥や猪など動物に寄せた形態を取り、生きている時は通常の動物のような行動をするが、死んだときは魔石を残してすべて消滅する。

ちなみに、生殖行動で増えることはない。魔素が集まり魔石となり、さらに魔素が集まるとモンスターが発生する。


あれだけ大量にいた魔猿はすべて消滅していた。

ところどころ雷撃魔法の余波で火があがっているところがあるが、それも振り出した雨で直に鎮火するだろう。


「危ないから、部屋の中にいろって言っただろ?」

マイトがベランダまで降りてきた。


そして、クロの肩に軽く手を置く。

「な、心配なかっただろ?」


「………本当にあんたって何者なの?

こんな大魔法、エルフでも使える人はいないわよ。

なのに、人間でこんなことできるなんて、おかしいわよ」


「前にも言ったが、魔法は少々得意でね。」


「………何よ?何言ってるの?

よく聞こえないわよ!!」


「………とりあえず中に入ろうか」


ちなみに、町に逗留中の軍は、魔猿の群れにまったく気づいていなかった。

だが、異常なほどに鳴り響いた大量の雷に騒然となったが、

最終的には「異常気象」ということで結論づけた。


たった1人の魔導士が、未曽有の危機を未然に防いだとは、知る由もなかった。



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