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珈琲を飲みながら

二度目の就寝では、夢の続きを見ることはなく、

マイトは朝まで眠ることはできた。


ただ、目が覚めると眼前にクロの顔があって、たいそう驚いた。

後数センチ近かったら、キスする距離だ。

慌てて後ずさる。


「マスター、オハヨウ」


「あ、ああ。お早うクロ」


マイトは驚いてなんとか挨拶を返したが、クロの方はさも当然といった雰囲気で特に動揺もない。


「ところで、なんでクロは俺の部屋に?」


「マスター起コス、仕事」


「なるほど、起こしに来てくれたわけか。ありがとうクロ」


マイトの言葉に、クロは嬉しそうに胸を張る。

その様子を見て、マイトはなんとなしに「飼い犬みたいだなぁ」と思った。

クロに尻尾はないが、尻尾が嬉しそうにブンブン振れる映像が見える。


「だけど、自分で起きられるから、明日から起こしに来なくていいからね」


「………ソウ」

今度は一転して、悲しげに俯いた。

クロに尻尾はないが、尻尾が哀しそうにションボリ垂れる映像が見える。


「じゃあ、これから着替えるから」


「ワカッタ」


……

………


「クロ?俺、これから着替えるんだけど」


「ワカッテル」


マイトとしては「着替えるから部屋から出てくれ」というつもりで言ったのだが、クロは一向に部屋から出ていく気配がない。


「着替エ、手伝ウ。仕事」


静寂が部屋中を支配した。


「………あークロ?

気持ちは嬉しいけど、1人で着替えるから、先にダイニングに行っててくれ」


「………ソウ」

クロはまたも、悲しげに俯いた。

クロに犬耳はないが、耳まで哀しそうにションボリ垂れる映像が見える。

そして、項垂れたまま、扉をあけて出て行った。


「雇われた身だからって、気を使い過ぎなんだよなぁ」

マイトは見当違いのことをポツリと呟いた。


マイトがダイニングに行くと、すでに朝食の準備がされていて、

クロとシロが並んで椅子の前に立ち、マイトを待っていた。


「………そんなに厳格にしないでも、―――」

先に食べててよかったのに、と言いかけて、やめた。

下手なことを言うと「食事での同席を拒否している」とも捉えられかねないと思い浮かんだ。


「………そんなに厳格にしないでも、座ってて良かったのに」

そう言いながらマイトが席に着くと、クロとシロは無言で席についた。


■■■


「なんか変だ」


昼食後、自室に戻ったマイトは腕を組んで頭を悩ませていた。

変、というのはあのエルフ少女2人。


今日の朝から、クロはマイトにことあるごとに世話を焼こうとした。

いや、単純に接触を持とうとしたという方が正しいかもしれない。


朝食の間もずっと「料理を取り分けようか」「調味料を取ろうか」「味の好みはあるか」「食べ物の好き嫌いはあるか」「食後の飲み物は何を用意するか」、兎に角何かにつけて何かしようとしてきた。


まぁ、メイドとしては正しい姿のかもしれないが………


一方で、シロの方は終始無言だった。

会話に加わろうとしなければ、話をふっても「はい」か「いいえ」だけで打ち切られてしまった。

正直、怒っているのかと思うほどだ。


やたらと関わろうとするクロに、極力距離を置こうとするシロ。


………もしからしたら、知らずの内に俺は何かしでかしてしまったんだろうか。

エルフ少女のことで、本来やろうしてた仕事が全く手につかないマイトは、気分転換に珈琲でもと、キッチンへ向かった。


キッチン着くとシロがいて、既に珈琲を淹れていた。

珈琲・紅茶の類は、好きな時に好きに飲めと言っているので、構わない。


シロはマイトに気づき一瞥すると、何事も無かったかのようにマイトを無視した。

あの珈琲は自分シロ用なんだろうなぁ


「俺の分もあるか?」


マイトの問いには答えず、シロは無言で2つ目のカップを用意し、珈琲をなみなみ注ぎ、やっぱり無言のままマイトにカップを差し出した。


会話は拒否しても、依頼作業はしてくれるらしい。


「なぁシロ、俺、お前が怒るようなことしてしまったか?」


シロは一瞬びくりと肩を震わせると、無言のままカップの中を1点凝視していた。

その内、大きなため息を1つ吐き出すと、今度は大きく息を吸って、また吐き出した。

これは溜息ではなく・深呼吸だな。

シロは努めて冷静な声を吐き出した。


「いいえ。ご主人様は何の落ち度もございません。

ただ、エルフと人間は只今戦争中でございます。

私はエルフの1人として、人間と馴れ合うわけには参りません。

ご理解ください」


今度はマイトが無言になった。無言のまま、静かに熱い珈琲を啜った。


「やたら馴れ合おうとするあいつは?」


「エルフでも、個々人によって考え方は変わりますから」


シロも、静かに熱い珈琲を啜った。


「時にご主人様、他種族同士が、例えばエルフと人間がけっ………あっ………」


「けあ?」


「違います!!

エルフと人間が………そう!手に手を取り合うようなことがあると思いますか?」


シロは最初「結婚することがはあるか」次に「愛し合うことがあるか」と言おうとしたが、恥ずかしなってやめた。


「戦争が終結して、交易が開かれるかってこと?」


マイトにはイマイチ伝わらなかったようだ。


「違う!………いえ、それもあるけど、もっとこう―――」


「結婚して家族を作るようなことがあるかってこと?」


「わかってるじゃない!!」


顔を真っ赤にしてキレられた。


「いや、わかってたわけじゃないけど………」


「とにかく!ご主人様はどう思う?」


だんだんシロの調子が戻ってきたなと感じながら、マイトは再び珈琲を啜った。


「………人間側の勝手な言い訳だが、選民主義の考えをしているのは、人間側でも役人や軍の上層部だけだ。多くの一般市民は他種族だからといって見下してる奴はほとんどいない。

だから、本人達さえよければ、結婚して子供を産んで………っていう未来は、戦争がなかったらあり得たし、俺が知らないだけで、たぶんそういうことは今現在もあるはずだけどな。」


「ご主人様は?」



「ご主人様個人だったら、結婚するなら人間じゃないと嫌?エルフでも大丈夫?」


「なんだシロ、俺と結婚したいのか?」


「ばっ!!?ちがっ!!

何言ってんの!?そんなことあるわけ無いじゃない!!!

私は人間と結婚なんて、絶対お断りだから!!!」


シロは顔を真っ赤にして、あからさまに動揺した。

シロは肌の色が透き通って白い分、顔の赤さが明確にわかる。


「じゃあ、俺と結婚したいのはクロか?」


「………私が知るわけないじゃない。

仮にもし知ってたとしても、私が言うわけにはいかないわ」


「それもそうか」


またとちらともなく無言になり、それぞれ三度珈琲を啜った。


シロの方は何かを伺う様に、ちらちらと視線をマイトに向ける。

マイトは観念したように一度項垂れると、顔を上げ直した。


「俺個人っていったな?」


シロの長い耳がピクリと動く。


「俺個人は………結婚はしないよ。人間相手でも、エルフが相手でも」


「――え?」


「そもそも、誰とも恋愛をしない。」


「――え?」


なんで―?

シロが問いかけようと瞬間、クロもキッチンにやってきた。

だが、お茶を飲みに来たという雰囲気ではない。

慌てていて、顔も青ざめていた。


「マスター来テ!大変!!」


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