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深夜問答

何とも気まずい昼食だった。

昼食そのものは、クロが一生懸命準備をしてくれていたので、

とてもとても美味しかった。


けれど―――


シロは悶えていた。

変なテンションで変な絡みをマイトにしてしまったことを、激しく後悔していた。

昼食のシチューを1口2口啜っては、頭を抱えて悶えていた。

傍から見ると、奇行以外の何物でもない。


クロはまだべそをかいていた。

1人の孤独感・恐怖感から泣き出してしまったが、

2人が帰ってきた後も、感情の波が収まらず、ずっとぐずったままだった。


マイトはそんな2人にかける言葉が見つからず、黙ってスプーンを動かした。

本当は料理が凄く美味しいこと、きちんとクロに感謝したかったが、

雰囲気的に言い出しずらかった。


ちなみに昼食は野菜たっぷりのホワイトシチューに卵サンド。

クロがしっかり下準備をして、野菜が柔らかく口の中でほどけやすくなるまで煮込まれていて、絶品だった。


折角、食事がこんなに美味しいのに………

マイトは大きなため息を1つ吐き出した。


■■■


食べては悶えるというおもしろいことを繰り返していたシロは、

食事が終わるや否や、クロの手を引いて立ち上がった。


「クロ!たくさん服買ってきたの!!着替えるわよ!!」


「?!」


クロはまだ了解してなさそうだったけどなぁ。

1人残されたマイトは、食器の片づけを始めた。

女性の着替えは長そうだし、皿洗いくらいやっておこうか


案の定というか、予想通りというか、

2人は丁度皿洗いが終わる頃、着替え終わって登場した。


「じゃーん!どうよ!!」

シロの方は自信満々にポーズを決めて現れた。

メイド服がよく似合っている。


「ああ、とてもよく似合っているよ」


「うっ………そうストレートに褒められると、やりづらいんだけど」

シロは恥ずかしそうに腕を抱くと、後ろを向いてしまった。


「クロハ?」


「ああ、クロもとても可愛いよ」


マイトが素直に褒めると、クロはニコニコと嬉しそうに笑った。


「というか、2人ともメイド服にしたのか?ほかの服じゃなくていいのか?」


「これから仕事をするから、メイド服に決まっているでしょ?」

シロは「何を当たり前のことを………」という顔をしているが、

家事=メイド服っていうのは偏見ではないか、とマイトは思う。


「メイド服に決まっているなら、何で時間かかったんだ?」


「下着、可愛イノ多クテ、選ブ時間カカッタ」

クロが何でもないことのように即答してくれた。


………そうか。下着選びに時間かかったのか………


「見ル?」

クロがスカートの裾をつかんで、捲り上げようとする。


が、

「「ダメ」」

マイトとシロの声がシンクロした。


シロは慌ててクロのスカートの裾を抑え、マイトは後ろを向いて目を背けた。


「「そんなことしちゃいけません!!」」

再び、マイトとシロの声がシンクロした。


クロはよくわかっていない様子で、首を傾げた。


■■■


その後、掃除に、洗濯、風呂の準備に、夕飯の用意と、順調にメイド業務をこなし、

メイドとしての初日が終了した。


「寝間着モ可愛イ………」


クロは新しい寝間着に袖を通すと、寝る前だというのにテンションンが上がりっぱなしだった。


無邪気に喜ぶクロを、シロは優しい眼差しで見ていた。

素直に喜んでいるクロの姿を見ていると、自然とシロも嬉しい気持ちになった。


一通り喜んだ後、真面目な顔をしてクロはシロに向き直った。


「シロ」


「ん?なぁに?」


「マスターノコト、好キ?」


「んぶふぅっ!?」

変な声が出てしまった。


「いやいや。あり得ない!あり得ないわよ!!あいつは人間よ!

………確かに親切だし、優しくしてくれるけど、

けれどあいつは人間!だから好きじゃないし、好きになることはないわ!!」


「ソウ…」

クロは悲しそうに一瞬目を伏せると、強い意志をもってシロを見つめ返した。


「ワタシ、マスターノ事、好キダ」


―――!!


シロは、心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。


「………いや、だってあいつは、あいつは人間よ?」


「知ッテル」


「私たちの敵、なのよ?」


「マスター、違ウ」


「もし私たちの味方になってくれるとしても………寿命だって」


「知ッテル、デモ」


クロは一拍、大きく息を吸い込んだ。


「ソレデモ、ズット一緒ニ生キテイキタイ」


シロは、心臓が早鐘を打つのを感じた。

焦りと同様で上手く思考できない。そもそも何で焦っているのかすら、自分にもわからない。


「へ、へぇ、そうなんだ。私はいつか時がきたらエルフの里を再建しに行くわ!

一応仕事はするけど、外に出て安全ってなったら、すぐにでも出ていくわ!」


シロは自分の声が震えているのがわかった。

この緊張感の正体は何だろう。クロが一緒に来てくれないことに対する不安だろうか。


クロは物悲しそうな目でシロを見つめた。


「シロガマスター、好キジャナイナラ良カッタ。

ワタシ、シロニ遠慮シナクテモ、イイ?」


―――!!


シロは、心臓にナイフを突き立てられた気がした。


「い、いや………クロの言ってること、意味わかんなし。

私は………私は人間なんて、大嫌いだから!!!」


最後に大声をあげると、シロは布団に包まって隠れてしまった。


クロは何か言いたくて、でも言葉が見つからなくて、

少し逡巡した後、部屋の扉を開けて出て行った。


■■■


マイトは久しぶりに、昔のことを夢で見ていた。


―――だってあの人、男としては全然魅力ないもの


―――収入源としてはいいわよ。あの人ほど便利な人はいないもの


―――バレないわよ。わたしは女優よ?演技するのが仕事なの


―――わたしに愛してもらえる演技を直にしてもらえるのよ?感謝してほしいくらいよ!


―――そうね、死んで財産だけくれたら最高だわ!!死んでくれないかしら?


最悪な気分で飛び起きる。

夢かと安堵するも、過去の出来事を鮮明に思い出してしまい、最悪な気分になる。


「久しぶりにこの夢見たな。やっぱり女の子と関わったせいか?」

誰に対してでもなく独り言を呟いた。


とりあえず、気分を落ち着けるために水でも飲もうとキッチンへ向かった。


キッチンにはすでに明かりがついていた。

先客がいたようだ。


「クロか?」


「マスター?」


先客はクロだった。クロも水を飲んでいた。


「クロ、悪いけど俺にも水、もらえるかな?」


クロは無言でこくりと頷くと、水差しからコップに水を注ぎ、マイトに渡した。


「ありがとう」

マイトは一気に水を飲みほした。


クロは無言で2杯目を注ごうとしたが、マイトが掌を向けて、無言で遠慮を示した。


「クロは………眠れなかったのかい?」


クロは無言で首を横に振った。


「今、モウ寝ル」


「そうか」

マイトは短く答えると、続く言葉はなかった。

しばらく無言で空のグラスを見つめていた。


「じゃ、お休み」


そのままマイトが部屋に戻ろうとすると、後ろから腰の辺りにクロが抱き着いてきた。


「クロ?」」


「マスター顔色悪イ………」


―――ッ!


気づかれたくないところに気づかれてしまった。


「暗がりだから、そう見えるだけだよ」


「マスター顔色悪イ………」


「………いや、だから、たぶん明るさのせいだって」


「マスター顔色悪イ………」


マイトは観念して溜息をついた。

クロの腕をふりほどくと、クロに向き直り、目線の高さを合わせて、クロの頭を撫でた。


「実はね、さっき悪い夢を見てたんだ。病気の類じゃないから、大丈夫だよ

………心配してくれて、ありがとね」


「ユメ、ドンナ?」


「………さぁ、もう忘れちゃったな」


そう嘯いて、今度こそ自室に戻った。

勿論、夢の内容は覚えている。

忘れたくても忘れられない、過去の悪夢だ。


自分の心を守るために、この感情を捨てると決めた。

―――それに、

「俺は彼女たちにとって、大罪人だぞ。赦してもらえるはず、無いじゃないか」


自室に向かう暗い廊下は、絶望に続く道程にも思えた。


――

―――

1人、戻るタイミングを逃してしまったクロは悩んでいた。

マイトは何か隠していることがある。

けれど、柔和な笑顔とは裏腹に、絶対に教えてくれないだろうという確信めいた直感を感じていた。


それが、とてもとても切なかった。


更新について嘘ついてすみませんでした。深夜のテンションで無計画なことをして激しく後悔しました。今後はもっと頑張ります。

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