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服を買う

私が行けば良かったと、クロは後悔していた。

最初は、美味しい昼食を作ってマスターを喜ばせたいと思っていた。

しっかりと仕込みをする為に、家に残って留守番することを選んだ。


けれど、1人ぼっちの家の中は、無駄に広くて、静かで、寂しく、怖かった。


マイトは「他人はこの家に絶対侵入できない」とは言っていたが、偶然、軍の兵隊に見つかって、この家に乗り込まれたらと想像し始めると、心細くなって仕方なかった。

一度思いついてしまったら、怖い想像は、中々消えてくれなかった。


早く帰ってきて!


クロは静かに泣き出した。


■■■


「わたし、残れば良かった……」


シロはぐったりして、後悔していた。

家を出てから町までたった10秒。

歩けば半日かかる道程を、飛行魔法で急上昇、急降下してきたのだ。

マイトに抱えられていたシロは、途轍もない恐怖を味わった。


「あんな山道いちいち歩けるか。ほら行くぞ。」


マイトはシロの手を引いて歩き出した。


「なんでこの町の連中は、人が空飛んでても何も言わないのよ」


「不可視化の魔法で上書きしてるんだよ。家の場所がバレたら困るからな」


「………アンタそんな隠れるような真似して、何か悪いことでもしたの?」


「…………いずれ話す機会があれば教えるさ」


昔の映像がフラッシュバックし、マイトの中に苦い感情が浮かんだが、噛み潰して抑えつけた。


俗世から離れているとはいえ、生きていく為には色々な物が必要となる。


マイトは定期的に町に買い出しに来ているので、町の地図は頭の中に入っている。


衣料品の店へ、シロの手を引いて足早に向かう。

認識阻害の魔法が有効になっているとは言え、なるべく兵士に見つかりたくなかったからだ。


しかし、大勢の兵士が駐留している町で、完全に兵士を避けるのは不可能だった。


店に向かう途中、鈍色の鎧を着た男達をついに見つけてしまい、シロは恐怖で硬直してしまった。

顔面蒼白になっている。


マイトは握っている手を、さらに強く握った。

「大丈夫。大丈夫。大丈夫だから」

シロは顔面蒼白のままだったが、ゆっくり首を縦に振った。

不自由な左手だけは、シロに安心と勇気を与えた。


鎧を着た男達は、こちらには一瞥もくれず、どこかに歩き去った。


「俺は魔法にだけは自信があるんだ。

何があっても、いや違うな。

何も起きない、起こさない。

シロの無事は絶対に保証する。

だから、大丈夫」


シロは無言で何度も頷いた。


■■■


「いらっしゃいませ。………あら?お客様ご来店は始めてですか?」


妙齢の女性が応対してくれた。

服装に清潔感はあるが、化粧は濃く、香水の匂いも強い。


「最近この町に来たばかりでねぇ

ようやく住む場所が見つかったから、娘に服を買ってやりたくてね」


マイトはまるで老婆ような口調で話す。

それもそのはず。

今この女性店員の目に、マイトとシロは「老婆と孫娘」の姿で映っている。


「まぁまぁ!そちらの娘さんに服を?」


「ああ、後もう一人、留守番している娘の分もいただきたい」


「かしこまりましたわ!奥様の分はいかがでしょうか?」


「あたしかい?あたしはもう着飾るような歳じゃないさね。

でも、年頃の娘が僅かな換えしか持ってないというのは忍びない。

今日はぜひたくさん買わせてほしい。」


「かしこまりました。お客様。

宜しければ、私が見繕って差し上げましょうか?」


「それには及ばない。勝手に見させてもらうが、構わないかね?」


「どうぞご自由にご覧になってください!」


もし、試着することになって、外套を脱ぐような事態になったら最悪だ。


マイトはやんわりと店員を遠ざけた。


「ねぇご主人様。人間の服屋ってこんなに大きいの?」


店員に聞こえないよう、小声でシロが話しかけた。


「ここの店は他の店に比べても大きい方だぞ。」


「ねぇご主人様。凄くたくさんの服が有るんだけど?」


「そうだな」


「何着まで選んでいいの?」


「持ち帰れる量にしてくれ。あと、クロの分も買うからな」


「お金は?」


「雇ったメイドさんに対する、雇用主からの福利厚生だ。気にするな」


「さ、流石に悪いわよ」


「必要経費だ。好きな服を着て、気分よく仕事をしてくれれば、こっちにとっても有益だ。」


「本当にいいの?」


「本当にいいよ」


シロはハイテンションで服を選び出した。

くれぐれも手を離すことだけはしないようにと、マイトが何度も注意するほど、シロは浮かれて楽しんでいた。


最終的には、普段着を5着、寝間着も5着、そしてクラシカルタイプのメイド服が2着、これがクロの分も同数で合計24着となった。


「別にわざわざメイド服を着なくても」

とマイトはぼやいたが、

「こういうのは形から入るのも大事なの!」

とシロに押し切られてしまった。


流石に一度に買う分としては量が多い。しかし、


「この分だと下着も可愛いのがいっぱいあるかも!」


そう、他に下着も必要なのだ。


「ねぇ早く下着の方も………」


言いかけて、シロの動きが止まった。表情が固まっていた。


マイトは溜息をついた。

「気づいた?」


終始ずっと手を繋いでいるということは、つまり「手を繋いだまま、マイトの目の前で下着を選ぶ場面が来る」ということだ。


家を出る前にマイトが言えなかった言葉だ。


シロは顔を真っ赤にした。


「ねぇ、この買い物の間だけ手を離すことってことは?」


「外套の効果は、家出る前に見せたでしょ?」


「あなたフード外して待ってなさいよ」


「俺だって正体隠しているんだ。外せないよ。」


「じゃあわたしが顔を出せば」


「外に兵士がうろついているんだ。それだけは絶対にやめなさい。」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


声無き絶叫を上げるシロだった。


■■■


「だから連れてきたくなかったんだ」


マイトはぐったりして後悔した。


あの後、シロは自分で下着を選ぶことを放棄した。

マイトの前で下着を選ぶことは、どうしても恥ずかしくてできなかったのだ。


けれど、元々はマイト1人が買いに来る予定だったことを思い出すと、開き直ってマイトに選ばせた。


今度困ったのはマイトの方だ。

シロ本人がいる前で、シロ本人の下着を選ぶことになる。


マイトが下着を手に取る度に、シロは「ご主人様はそれをわたしに着させたいのですか?」とか「ご主人様がお望みでしたら、恥ずかしいですけどわたし、着ますね」とか、からかうように悩ましいセリフを耳元でささやき続けた。

ただの八つ当たりだった。


ただ、効果は抜群だった。

しまいにマイトは身動きできなくなり、どれも選べなくなってしまった。

「そんなに言うなら、買うの辞めようか」と言ったが「ご主人様が下着を着けるなと仰るのでしたら、わたし、そのように従います」と潤んだ瞳で返されてしまってはどうしようもなかった。

意を決して、いくつか選んだが………まぁ多くは語るまい。

無難。そう、無難なんだよ。


レジの前に大量の衣料品を積まれて、店員は驚いていたが、その代金として大量の金貨を積まれたときには更に驚いていた。


「あのお客様?持ち運びはできますでしょうか?」

商品は全部、木箱に詰めてもらった。

木箱で2箱になってしまった。

大量購入特典ということで、箱はサービスしてもらえた。


「大丈夫大丈夫。あたしゃこう見えて魔道士でね」


マイトは木箱に指で魔法陣を描くと、木箱は宙に浮かび上がり、マイトが動くと、箱は従順なペットのようにマイトを追尾しだした。


「何ですかその魔法は?見たことありません」

店員は三度驚いている。

驚かせてばかりで申し訳ない。


「あたしのオリジナル。詳細は秘密さね。」


軽く会釈をし、シロと一緒に店を出た。

勿論、2つの箱も後を追ってくる。


「ご主人様って、ホントに何でもできるのね?」

シロは呆れた目で、追尾してくる2つの箱を眺めていた。


「…………何でもはできないさ」

また昔を思い出して、苦い感情が込み上げてきた。


「料理とか?」


「確かに料理は苦手だな」

シロの言葉で、少し苦さが和らいだ気がした。


「料理といえば、クロが準備して待ってるからな。早く帰ろう」


「うん!」


店を出て歩き出すと、また鎧を着た男達を見かけた。


シロの動揺を察してくれたのか、マイトは手を握る力を少し強めた。


シロも改めてマイトの手を握り返した。


「ねぇご主人様………ありがとう」


「ん?だから必要経費だって」


「じゃなくて、それもだけど、ありがとう」


「ん?まぁどういたしまして」


シロは思った。

人間は嫌いだ。でも―――

仕事が落ち着いているときは、更新回数を稼ぎたい。

思いの外長くなったので分けました。

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