メイドを雇う
翌朝、マイトはいつも通りに目を覚ますと、ホッとしたような残念なような、どっちとも言えない気分となった。
拘束もされてない。
怪我もない。
二度確かめてみたが、何ということはない、いつもの朝だった。
一昨日の晩、マイトは二人のエルフを自分の屋敷に連れて行き、介抱した。
エルフからすれば、マイトは憎っくき敵国の人間。
直接エルフ族を攻撃した兵士じゃないと言っても、エルフからすればただの言い訳だろう。
恨み辛みから寝首を掻かれても、何ら不思議ではない。
それに―――
「まぁ俺は、それ以上に酷いこと、しているからなぁ」
今回の戦争で王国が開戦に踏み切ったのは、マイトが新武器を開発してしまったことが原因だ。
エルフ族にとって多くの同胞を死に追いやった武器を造った男。
この事実を、あのエルフ少女二人が知ったら、どう思うだろうか。
「まぁ、別に殺してくれた方が良かったんだけどな」
彼の願いは、未だ叶わない―――。
■■■
客間に寄ってみると、既にエルフ少女二人は起きていた。
自身の体より大きな服を着ているというのは、扇情的な気分を抱かないこともない。
「おはよう。体調はどうだ?」
「ええ。もうすっかり良くなったわ。
アナタに感謝を」
クロは無言で頷く。
「おいおい、俺は敵国の人間だぜ?感謝なんて」
「人間は嫌いよ。人間は見ただけで八つ裂きにしたくなる。
でも、アナタには恩がある。それだけよ。」
「………俺の首が繋がっているのは、だからか?」
首を擦る振りをしてみる。
「わたし達はエルフよ。一宿一飯の恩がある相手の寝首を掻く真似はしないわ」
「そうか………」
本当は殺してくれた方がよかったんだけどな、とマイトは心の中だけで呟いた。
マイトの僅かばかりの憂いには全く気付かないまま、シロは言葉を続ける。
「受けた恩を返せないのは残念だけど、わたし達はもう行こうと思う」
クロも追従して頷く。
「行く宛はあるのか?」
シロは無言で首を横に振った。
クロも無言で首を横に振った。
見事にアクションがシンクロしているのが少しおもしろかった。
「特にどこか急ぐ場所がなければ、暫くはここにいた方がいい」
「どうして?」
「ここから一番近い町に、王国の兵士がまだ居座っている。」
シロとクロの表情に、緊張が走る。
「街道、馬車、船、どれを選んでもラーストの町は必ず通ることになるし、
迂回して山道を通っても、見つからないとは言い切れない。
特に急ぐ理由がなければ、暫くこの家で身を潜めていた方が安全だ」
「………ドウシテ?」
クロが口を開く。今日初めてクロの声を聞いた気がする。
「いや、どうしても行くというのであれば止めはしないが。その場合は、せめて俺特製の認識阻害術式を組み込んだ外套を用意しよう。これがあれば町中でも安心して行動できるはず」
クロが首を横に振る。
「………この娘が聞きたいのは『この家から出て行かない方がいい理由』じゃなくて『アンタがそこまで親切にする理由』が知りたいのよ」
勿論わたしもだけど、とシロが補足する。
マイトは顎に手を添えて何と答えようか少し悩んだ。
「………昨日のクロには言ったが、単なる暇つぶしとせめてもの罪滅ぼしだ」
「ヒマツブシ?」
「罪滅ぼし?」
「暇つぶしは、まぁここには1人で住んで長いんだけど、毎日同じことの繰り返しでね。普段と違うことがしたくなったのさ
罪滅ぼしは………『種族が違うから』というだけの理由で戦争を仕掛ける王国の考え方が嫌いでね。
エルフ族には申し訳なく思っている。
だから、せめて偶然出会った君達二人の安全は守りたい。」
「………驚いた。人間の中にもエルフみたいな考え方の奴がいるのね」
「ココイル、迷惑ジャナイ?」
クロが心配そうな眼差しを向ける。
「ああ、全く問題ない。
落ち着くまで暫くいるといい。」
クロは嬉しそうな表情をすると、シロに向き直り、シロの目をじっと見つめた。
シロは諦めたように溜息を一つつくと、マイトの方に向き直った。
「じゃあ、お言葉に甘えて暫く厄介になるわ。」
「ああ、自分の家だと思って過ごしてくれて構わない」
「それと!」
ビシッと人差し指指を立てた。
「ただ世話されるだけなのは、エルフの誇りに反するわ!
だから、この家にいる間はこの家のメイドとして働くわ!」
「は?」
クロも無言で頷いている。
クロは頷いてばっかりだな………
「いや、別にそんな気を遣わなくても………」
「あなたの料理より、美味しいの作れるけど?」
ぐ
マイトは言葉に詰まる。
確かにマイトは料理が上手くない。
料理に限らず、家事全般が苦手だ。
自分でも自覚している。
正直、自分の料理はあんまり好きではない。
もし、これから美味しい料理が食べられるなら、願ったり叶ったりだ。
「俺も俺の料理、あまり美味しくないと思ってる。
だから、美味い料理を作ってくれるなら、ぜひお願いしたい」
シロはにっこり微笑むと、恭しく一礼した。
「かしこまりました、ご主人様。」
「ご、ごしゅ?!
いや、普通に名前で呼んでくれたらいいよ」
「そうは参りません。只今より、わたしはご主人様に雇われた、この家のメイドでございますので」
クロはとてとてとマイトに近づくと、マイトの服の袖を遠慮がちにつまんでみた。
「マスター、ワタシ、ガンバル」
「こっちは『マスター』か。
………もう好きに呼んでくれ」
長年一人暮らしをしてきたマイトだったが、
こうして、住み込みメイド2人を雇い、3人の生活がスタートしたのであった。
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