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2日目 シロ

金髪碧眼の少女が、まどろみからゆっくりと目覚めた時、辺りはすっかり暗くなっていた。


勿論、自分が眠っている間に、呼び名が『シロ』になっているなんて、知る由はない。


シロが目覚めて最初に見たのは、闇。

それから、自分がベッドに寝ていることに気がついた。


上体を起こし、周囲を見回すと、広い部屋の中だということがわかった。


最後の記憶は森で力尽きたところまで。

なのに、なぜ今こんなところにいるのだろうか。

どこ?

なんで?

どうなったの?

状況が全くわからず、恐怖が湧いてくる。


ふと、自分の側で、銀髪紅眼の少女が突っ伏して眠っていることに気づいた。

彼女の穏やかな寝顔を見て、ようやく安堵感が生まれた。


今の状況はわからないが、この娘と一緒なら多分まだ大丈夫だ。


シロは、眠っているクロの頭に優しく手を置いて優しく撫でる。

クロの銀髪はサラサラしていて、撫でていて心地よかった。


「………ゥ………ン?」


頭を撫でられていたクロは、すぐに目を覚ました。

そして、顔を上げてみると、そこには待ち望んでいた、目覚めたシロの顔があった。


「おはよ、あなたも無事だったのね?」


クロはシロの問いかけには答えず、無言でシロの腰に縋りつくと、安堵からか、静かに泣き出した。


シロはクロに聞きたいことがたくさんあったのだが、暫くクロのさせるがままになって、再び優しくクロの銀髪を梳かすことにした。


■■■


「人間の………家?」


クロから事情を聞いたシロの顔が強張る。


「わたし達は、捕虜になってしまったのね」


「捕虜チガウ。客人?」


「いや、わたしに聞かれても………

この家に住んでるの、エルフなの?」


「エルフジャナイ、人間。デモ変。」


シロは首をかしげた。

元々この友人は言葉足らずなところがあるのは知っているが、それでも理解が追いつかない。


「結局、わたし達は助かったの?助かってないの?」


「助カッタ?デモ信ジルナッテ言ワレタ」


「ごめん、何を言ってるかよくわからない………」


ぐぅと、シロの腹の音が突然鳴った。


「ゴハン、モラウ」

クロはすっくと立ち上がると、足早に部屋を出ていってしまった。


「ちょ、ちょっと!」

シロの静止は一歩遅かった。


1人取り残されたシロは、改めて部屋を見回す。

豪華な宿のような広い部屋。


ベッドが2台、テーブル、椅子は2脚。

テーブルの上には水差しとコップが1つ。

窓から月が見える。

ただのガラス窓で、鉄格子はついてない。


………確かに牢屋ではない。


暗い部屋に1人でいる事が少し不安になった頃、扉の向こうからパタパタと足音が聞こえ、無遠慮に扉が開かれた。


「アトスコシデ、ゴハンクル」


「あなたが作ってくれたの?」


クロは首を横に振る。


「人間」


「………毒とか入ってないでしょうね?」


「毒ナイデモ………」


「でも?」


「ショッパイ」


食べられるかなと、シロは不安になってきた。


それからシロは、再びクロに状況の説明を求めたが、全く要領は得られなかった。

シロは、何とかクロの言動を理解しようと努めていたが、扉のノック音がそれを中断させた。


クロはすぐに立ち上がると、何の衒いもなく扉を開けた。


「ちょ………!?」


いくら何でも警戒心がなさ過ぎる!

シロは抗議しようとしたが間に合わない。


クロはすでに人間の、男を招き入れてしまった。


料理のトレーを両手で持っている。柔和な顔の男がいた。


シロは冷静に男を分析する。

身長、体格。

―――兵士の体格じゃない。

武器。

―――所持していない。完全に丸腰だ。

さらに両手は丁度塞がっている。


………この人間だけなら殺せる。

殺したら、まだ逃げられる。


シロの目に殺気が宿り、鋭くなる。


頭の中でシミュレーションしてみる。

まず、毛布を蹴り上げて、男にぶつける。

急に視界が塞がれた男は慌てるが、その隙にベッドから跳躍し、男の背後に回る。

最後に男の首を後ろから羽交い締めにし、圧し折る。


………いけるか?

いや、やる!やってみせる!


シロが決意した瞬間だった。


「あー………お嬢さん。

たいそう立派な『もの』をお持ちなのはわかるが、男の前では隠した方がいい」


男の気まずそうな言葉に、完全に出鼻をくじかれてしまった。


そして気づいた。

自分が裸であることに!

下半身は毛布で隠れているが、

上半身は、もろだしだった。


さっきの殺気はどこへやら。

シロの頭の中は羞恥心でいっぱいになり、

声にならない叫びをあげると、毛布を頭からすっぽり被って隠れてしまった。


「クロ、俺は着替えさせろと言ったはずだが?」

テーブルの上にトレーを置く。

その後、マイトは空いているベッド、クロが眠っていたベッドに腰掛けた。


「脱グ、デキタ。着ル、難シイ」


「それはそうか」


マイトはしょんぼりしているクロの頭に手を乗せて、優しく慰めた。


クロはクロで、シロに恥ずかしい思いをさせてしまったことを申し訳なく思っているようだった。


「あー君!

食事は遠慮なく食べていいから。

あと、風呂。後でクロと一緒に入るといい。

着替えも用意する。男物で悪いがね」


「………クロって、その娘のこと?」


「ああ、本名は教えられないからクロと呼ぶことになった。

君のことは『シロ』と呼ぶようにも言われているが、呼び名はシロでいいか?」


「………そんな犬猫みたいな名前………

あなたも、敵国のエルフはペットくらいにしか思ってないのね」


「いや、単にネーミングセンスが無いだけだ。

こっちとしても、名前を教えてくれる方がありがたい」


「………いいわよシロで」

不承不承。


「あと、あなた!

捕虜に対して厚遇すぎじゃない?

おかしいでしょ!?」


「クロにも言ったけど、捕虜じゃなくて、客人のつもりなんだけどね………

じゃ、あとはクロ、宜しく」


クロが無言で頷くのをみて、マイト立ち上がって部屋を出ようとする。

シロは慌てて声をかけた。


「ちょっとちょっと!?

何出て行こうとしての!?見張らなくていいの?」


「ん?まぁ君の綺麗な裸体はずっと見てたいけど、

………見て欲しいの?」


「バカ!!!」


シロは隠れていた毛布から顔を出すと、上体を起こす。

今度は胸を、毛布でしっかりガードしている。


「そういうことじゃなくて!!

見張ってないと、わたし達は逃げ出すかもよ」


「どうぞご自由に」


「逃げるとき、家にある物、盗んで行くかもしれないよ?」


「どうぞどうぞ」


「逃げる前に、口封じにあんたを殺すかも」


「できれば、一瞬で。長く苦しむのは流石にヤだな」


「本当にいいの?」


「いいよ!じゃ、ごゆっくり」


そんなこと、何でもないというマイトの態度。

マイトは本当に部屋から出ていってしまった。


「ネ?変ナ人間デショ?」


クロの言葉に、無言で頷くシロだった。


訳がわからないのはクロの説明ではなく、あの人間そのものだと思った。



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