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山中に

「んっしょ!はぁ、はぁ、どうしてこなった?」


女子高生の位置を調整して道なき道を歩く。

何度目かの自問自答をしながら感覚の消えた足を無理やり前へと進める。

なんどもなんども捨てようと考えた女子高生。

呼吸音と心音が聞こえる限りどうしても捨てるという選択を取れそうにない。

だってそうだろう?勇者くんに言われたんだよ!


『頼む!』とね


武にしてみれば美咲を頼むと言っただけでこの2人の存在は認識していないのだが今の賢治は美咲のことなどすっかり忘れてこの2人を逃がすように頼まれたと思い込むまで極限状態にある。

辺りはすでに真っ暗で明かりは頼りないLEDライトのみ。

よく考えれば懐中電灯があるはずなのだが頭の回っていない賢治はその小さな明かりを頼りに吹雪の山を歩く。


「暑い」

「はぁはぁ暑い」


女子高生2人が呻くように暑い暑いと言いながら服を脱ごうとしてもぞもぞと動き始める。

矛盾脱衣、極寒の中長時間いると脳がパニックを起こして寒さと暑さを誤認する現象と聞いたことがある。


「やばい!やばいやばい」


この現象テレビで見たやつだ!早く風除けできる場所に移動しないと!焦る気持ちとは裏腹に足取りはおぼつかない。

吹雪の中数メートル先が見えない。


ゴウ!


突風とともに雪の塊がドサリと落ち、目の前数メートルの地面がひび割れ


ドシャー


上から落ちた雪を起点に放射状に雪崩が起きる。

積もった表面の雪が舞い上がり押し固められた硬い雪が斜面に沿って勢いよく滑り落ちる。

轟々と音を立てながら滑る雪が木々をへし折る音が響き渡る。


「ぶはぁ!は、はぁ、はぁ。死ぬかと思った」


背中に冷たい汗が流れるような錯覚に陥る。

幸いなことに自分の立っていた場所が雪崩に巻き込まれなかった。


肝が冷えるとはこのことか!

すでに身体の芯から冷えてるけどな!?


すぐ目の前の雪が無くなりぽっかりと空いた空間を覗き込む。

地面までおよそ2メートル強

まるで崖のようだ

この吹雪でそれだけ積もったと言うことだろう

雪がごっそりと無くなったことで現れる懐かしい土の色


「はぁ〜〜〜」


バクバクと高鳴る心臓が徐々に落ち着いてくる


「た、助かった」


そこには小さな洞窟があった。




斜度の緩い雪面を滑るように降りると洞窟の中に飛び込む。

まだまだ寒いがそれでも外よりは幾分かマシだ。

奥行きはどれだけあるのかわからないが高さ2メートル、横も3メートルほどだろう。

まだ安心するのは早い。雪が入ってこないようにできるだけ奥に進む。


慎重に慎重に。


もし熊のような動物が冬眠していれば狩られるしかない。


慎重に慎重に。


少し上り坂になった洞窟内を30メートルほど進むと直角に曲がった通路が現れる。

ここまでくると流石にわかる。自然にできた洞窟ではない。


「ええい!ままよ」


誰かが作った洞窟であってもすでに雪山を歩く体力はない。

ここで捕まれば抵抗などできないが先制攻撃ができればなんとかなるかもしれない。

そう考えこの先にいるであろう何かと戦う決意をする。


寒さですでに状況判断能力が無いに等しくおかしな思考をしているのに気づきもしない。ましてや今女子高生を装備してることも忘れ曲がり角を飛び出す。


「アァアアァァア、あぁ…はぁ、はぁ。なんだ?」


奇声をあげながら振り上げた拳をゆっくりと下げる。

そこには人はおらず石造りの引き戸があった。


「「暑い」」

「ちょ!動いたら危ないから!」


モゾモゾと動く女子高生。すでにジャージがめくれゴールデンタイムでもギリギリ大丈夫?な姿になっている。

下手をすると理性も吹っ飛ぶ状況だがどうにか気持ちを落ち着ける。


「ふぅ」


白い息を吐き出し少し気分も落ち着いたところで引き戸に目を向ける。

うっすら光った円環状の模様が描かれたそれは何か特別な意味が込められているのだろうと頭の中の仙人さんが訴えるような気がするが気にしない。

引き戸に手をかけると一気に戸を開ける。


ゴゴゴゴゴ


寒さで力が入らない。

たったの10㎝しかひらけなかった。

開いた隙間に手を突っ込むともう一度勢いよく開ける。


ゴゴゴゴゴゴゴ


半分ほど開いた。

うん、もういいや。

これだけ開けば入ることができる。

すでに警戒などないのは今更対処できる体力も残っていないためだ。


開き直り?ええ、そうですが何か問題でも?


部屋の中に入ると数段寒さがマシになった。

中には誰もいない。

まるで大理石をくり抜いたようなつなぎ目のない20畳ほどの大きな部屋。

机に椅子、台所、暖炉などがありこれらは全て石造りである。

とりあえず玄関の引き戸を閉めると石で出来た椅子に2人を座らせて他の部屋を調べる。

まずは玄関の正面にある部屋を調べるために木製の朽ちたドアを開ける。


ギシ、ドシャ


ドアノブを持った瞬間に崩れ落ちてしまった。

部屋の中は木製のベットがあるが朽ちて使い物になりそうにない。部屋の広さは4畳半ほどだろう。

ただの寝室のようでベット以外にはタンスのようなものが残骸として残っている。

次は階段を挟んで隣の部屋に入る。こちらも木製の扉が朽ちて崩れる。中は6畳ほどでこちらにも木製のベットが朽ちていた。何人で住んでいたのだろうか?

タンス類も木製のようで朽ちている。

次は入り口の隣の扉。こちらもドアは崩れる。

中には2畳ほどの空間に洗面台とドアが二つ。例のごとく朽ち果てた木製だ。

手前のドアはトイレ。しかも日本のタンクレスの水洗トイレのような形をしている。

試しに壁についてる青い石がはまったボタンのようなものを押してみると「ジャー」と水が流れる。

一体どこから水が流れてくるのか不思議ではあるが使えるなら使うべきだろう。


「てかこの家まだ生きてんじゃん!」


家の設備が生きてることに気がつくととりあえずボタンっぽいものを押して見る。

変な模様のついた場所に嵌った白い石を押してみると天井の模様から拳大の光る玉が現れる。


「ん?何あれ。魔法?」


とりあえず明かりも確保できることがわかるともう一度押して見る。

光る玉が天井の模様に吸い込まれる。

試しに2畳の部屋の同じような石が嵌ったボタンを押して見る。

ぽわっと淡い光とともに天井の変な模様から飛び出す。


「うん。ライトと呼ぼう。」


仕組みはわからんがまぁいいや。

トイレの隣の扉はお風呂だ。

風呂に入れるなら今の体が冷え切って低体温になった状況も好転するに違いない。

そう思って排水溝を閉じて赤と青の二種類の蛇口の赤いハンドルを回す。


ジャー


蛇口から湯気を立てて勢いよくお湯が出る。


「オォ!」


この距離でも熱いのがわかる。

もう一つ青いほうはおそらくただの水。青いハンドルをひねると湯気の勢いが少し衰える。


「オォ!!勝った!」


何に勝ったのかは定かではないが勝った!

なんだか自然と涙が溢れてくる。


「暖かい」


湯気が体を包み込み体がジンジンと温かくなる。

いても立ってもいられずお湯に手をつけてみる。


「あぁっちぃ!!」


思っていたよりも熱かったので大声を上げてしまう。

冷静になると冷え切った体なのだから当たり前だ。

よく見るとお湯が少し濁って埃のようなものが浮いてる。木製の扉が朽ちてた場所だ。当然水垢やら埃やらで汚れてても不思議ではない。

排水溝を開けてレジ袋を漁るとスポンジを見つける。食器洗い用だろうがこの際どうでもいい。スポンジを使って湯船を掃除するともう一度お湯をためる。

ためている時間ももったいないので洗面所も軽く掃除して水を流して次は女子高生2人をお風呂に入れる準備だ。

さすがにこのまま低体温で放置はできないのでまず体を温めて意識を取り戻してもらう。

合羽と上着を脱がせるがそれ以上は色々と問題もあるだろうからそのまま風呂につけると「あっ!」大声をあげて目を見開く。急にお湯につけてびっくりしたのだろう。


「うっ、ぐず、あっだがい」

「あ〜〜いぎでまずぅ」

「「ありがどうございます」」


泣きじゃくる2人がお礼を言ってくれる。


「どういたしまして。ところで俺も入っていい?そろそろ感覚がないんだよ。服着たままだし…ね?」


蒸気でちょっと温まって呂律は回るようになったが芯から冷えた体はちょっとやそっとではどうにもならない。


「はい、大丈夫です」

「ええよええよ。混浴やな〜」


さすがに命の恩人相手に断ることもなく一緒に入ることを許してもらえた。

湯船の大きさはさほど大きいわけではないが3人ならなんとか大丈夫。

服を着てるとはいえそこそこの密着度に若干悶々としつつもお風呂のありがたみを噛み締める。

お風呂に入りながらこの家?のことを少し説明する。正確な場所はわからないまでもどうにかどこかの洞窟内にあるこの家にたどり着いたことを簡単に説明するのだがよく考えると何もわかっていないことがわかっただけだった。説明を終えるとお湯を吸収した服が密着して皮膚が熱くなってくる。


「俺は一旦上がるから気にせずゆっくりね」


熱さに耐えきれなくなったのでそう言って風呂から上がると濡れたままダイニングへと移動する。

川を渡った時の濡れたバスタオルを使うわけにもいかず次元収納を漁る。どうせバスタオルはないと思っていたのだがキャラくじのバスタオルがあった。毎月いろんなキャラくじが催されるが今回は女性に人気のアイドルアニメのくじをやっていたようだ。他にも二つほどくじをやってたみたいだがバスタオルはアニメのものだけのようだ。しかも三等って言うね。

ビニールを破くとイケメンの描かれたバスタオルを使って体を拭いてリュックから着替えを取り出し着替える。本当にお泊りセットがあってよかった。

欲を言えば普通のバスタオルも欲しかったが妥協できる範囲内であろう。いや、探せばあるかもしれないよな。希望は捨ててはいけない。

とりあえず暖炉をつけようと思い朽ちたドアを使って火を起こす。もう用途もないのだから薪がわりにしても問題ないはずだ。

ドアの残骸を集めると適当に暖炉に入れてライターで火をつける。

カラカラに乾いた木材といえどそのまま火をつけるのはなかなか難しいようでうまく火がつかない。

次元収納に何かないかと探し新聞を一枚取り出し火をつける。今度はうまくいったようだ。

暖炉もつけ、寝床も見つかり一安心すると急にお腹がすいてくる。

レジ袋を通して次元収納を確認する。

コンビニといっても普通のコンビニよりも大型かつ新商品の売り上げテストをするような場所であっただけあって多種多様な商品があるので全部確認しきれない。しかも適当に詰め込んだために次元収納の中もまとまりがなく見つけるのも一苦労だ。カバンやらバスタオルはすぐみつかったのにな。

とりあえず小腹を満たすために目についたスティクパンを取り出し一本食べながら台所を確認する。

何をするにもまずはこの家の中を確認だ。火を使えるならできることも増えるためにその辺を確認する必要があるだろう。


ドア以外は全て石造りということで頑丈な作りになっており、よくわからない模様を気にしなければ最低限の料理が可能と言った出来だ。

一体誰が作ったものなのか気になるところだがありがたい限りだ。

よく考えるとこの床も石でできているのだが今は床暖房が効いているみたいに暖かい。(暖炉のおかげ)

今思い出せばこの家の玄関に10センチほどの段差があり靴を脱げと言わんばかりの石製の靴箱もあったぐらいだ。

もちろん日本人である俺は自然と靴はそこで脱いだし女性陣の靴もそこに置いてあるのだが無意識で行っていたことなので今の今まで何も考えていなかった。


「ん?てことは…いや、まさかな。」


一つ思い浮かんだ可能性を破棄しつつこの家の中を探索する。

まだ見ていない場所があるのだ。台所横に初めに確認した二つの部屋の間にある階段の先も見ていない。台所の収納も適当に開け閉めしながら穴あきのフライパンや鍋、歯の欠けた包丁があるのを確認すると台所横のドアを開ける。


ガラガラガラ


当然木製のドアは崩れるわな。

中は食料や日用品を保管するための棚と腐った何かに空の酒瓶。いくつかはちゃんと酒が入っているようだが飲めるかどうかわからない。他にもボロボロの布と薪があるので倉庫といったところなのだろう。


倉庫を出ると風呂場から微かに話し声が聞こえてくる。

コソコソと話しているが多分バスタオルや着替えをどうするか話しているのだろう。

いくら小声で話したところで間仕切りとなるドアがないのだから単語を拾えばなんとなく内容がわかる。

とりあえず次元収納の中にあるイケメンバスタオルを2枚、着替えは俺の寝間着として入れてたスウェットを提供しよう。

ゼミで古書を扱う関係上この季節は汗の類を極力排除したいのでこまめに着替えるように心がけているので着替えはたくさん入れてある。まぁ地球は夏だったしな。


「ここにバスタオルと着替え置いとくよ。といっても俺のスウェットだけどそこは我慢してね。俺はこの家の地下を見てくるから。あとコンビニ弁当とお茶置いとくから適当に済ませといて」


「はーい」と間延びした声を聞きながらリュックからスウェットを取り出すと続いて弁当とペットボトルのお茶に割り箸を用意して地下に降りていく。

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