そして、さよなら
「え、嘘」
体の何倍もの大きさの翼に視界を奪われた。ガラスすら破壊する翼で殴られたらたまったものではない。殺される──
恐怖でばっと座り込んだ私を、ゼロツーは軽々と飛び越えていった。私などには目もくれず、向かったのは一面ガラス張りになった開放的な壁。
「あぶっ……」
危ない、と言い切るより先に、ゼロツーはガラスに突っ込んでいった。同じように窓を粉々に粉砕して、ゼロツーは大空に飛び立って行った。
ように見えた気がした。
大きな翼は風を切ることなく、体は重力に導かれ下へと落ちていく。慌てて駆け寄り下を覗き込むと、地上に小さく赤い物が見えた。
「嘘だろ……」
失敗作とはいえ、殺してしまっては始末書では済まないだろう。どうすればいい? 動揺を通り越し、一周回って冷静になった頭でそんなことを考えながらエレベーターで下る。せめて、死体は早いうちに回収しなければいけない。
落ちたであろうと目星をつけた付近を探すと、ゼロツーはすぐに見つかった。血だまりに少女が一人倒れている。そこに覆いかぶさるように、バキバキと酷く折れた翼が力なく垂れている。
どう運ぼうかと肩に触れると、死んだと思っていたゼロツーはむくりと起き上がった。