一週間
すらりとした髪の長くスタイルの良い女がどこかに電話をしている。
「はい、一週間後には戻りますそれまでは自由にさせて下さい、もし駄目だと言うなら...はいありがとうございます」
電話を切り、嬉々とした表情でこちらに向かってくる。
どこに電話をしていたかを聞くと、父親に電話していたと答えた。
何の話をしていたか聞くと、一週間の間は家に帰らないと言ったそうだ。
「どこか行く宛があるのか?」
そう聞いたのが間違いだった、桜はあるわけが無い、と言いながらこちらに寄ってくる、まさか...。
「白ちゃんのところに泊めてもらうね、そっちの方が私を研究しやすいでしょ?」
やはりか、薄々気付いてはいたが触れなかった。
事実、桜を助けるためには研究を進め、何かしらの対策を建てなければならないからだ。
「わかった、車が来ている乗ってから話をしよう、それと...おかしな事はするなよ桜」
「するのは白ちゃんかもしれないよ」
「ありえない、俺はお前に何も求めていない」
「酷いなぁ、少しくらい求めてくれてもいいのに」
早いものだ、そんな会話をしているうちに篝火家の研究施設についた。
「桜を頼む」
そう研究員の人に言っているのが聞こえた、やっぱり優しいな。
「よろしくお願いします」
それから研究施設で身体の検査をしてもらった、白ちゃんはずっとそばにいてくれた。
もっと、ずっとそばにいてほしい。
頭の中で声がする、聞き覚えのある声だ。
〝その男が欲しいのか?〟
頭の中で何かが私に問い掛けてくる。
〝その男が欲しいのか?〟
もちろんだ、問い掛けに答えようとすると目眩がした。
目を開くと白が、私を篝火家の誰もいない従者の部屋のベッドまで、抱えて連れてきてくれたようだ。
「悪い起こしたか、部屋の間取りは一度来たから覚えているだろ、遠慮せずゆっくり休め」
そう言い残し部屋を出ていった。
遠慮なく、お言葉に甘えて休もう。
ついさっきまで、自分でも嫌になるほど長く眠っていたはずなのに、眠気が次第に増幅して行く。
心身ともにだるい。
辺りを見回し、誰もいない事を確認すると、疲れたと小さく声を出す。
久々に弱音を吐いた、やはり疲れているのだろうか。
ふと今日の出来事を思い出す、白に泣きついている部分が、鮮明に浮かび上がってくる。
声に出せないような恥ずかしい叫びが、頭の中でこだまする。
「かっこ悪い事しちゃったな...白ちゃんの前では、強い自分を見せたいのにな」
腕を目元に当て、後悔したまな眠りに誘われた。
〝欲望に素直になれ、それが君の為だよ〟
白が桜を部屋に運びおえると、再び研究施設に戻ってきた。
「どうだ、何かわかったか?」
戻るなり検査結果を研究員に聞く。
「白様、それが奇妙な事に...」
反応したのは声の低い男、差し出された検査資料に目を通す。
異常が...全くと言っていいほどない。
むしろ、最高の健康状態だ、おかしい、あいつが助けを乞うほどだ、何か異常が無いと説明出来ない。
「注射...注射された薬物はわかったのか?」
「はい、ですが...」
渡された検査結果には、強い栄養剤とストレス緩和剤が混合した物と、強制的にアドレナリンを分泌させる精神興奮剤だった。
「普通だと、激しく興奮し疲労するだけのはずなのですが...あの方は本当に信用していいのでしょうか、あの方は月影の...」
持っていた検査資料を握りつぶす。
「それ以上言うな、あいつはあいつだ、それ以上でもそれ以下でもない」
どうしようもない怒りの感情を殺す。
「何か分かれば教えてくれ、頼む」
「わかりました、全力を尽くさせていただきます」
低い声を背に白は研究施設の部屋をあとにした。
自室に戻りコーヒーをカップに注ぐ、そのコーヒーを片手に椅子に腰掛ける。
湯気が立つコーヒーを口に含む、コーヒーの熱が口から喉に移動する。
ごくっと喉がいい音をたてる、ふぅ、溜息混じりの息でふと一瞬思い出す。
「君にあのバケモノが扱えるのかい?」
ほんの一瞬、一秒にも満たない刹那の瞬間に思い出し、さらには忘れる。
何だったのか、それはまるで曖昧な記憶が創り出した幻影、起きた状態から見る夢のような、それくらい不思議な感覚だった。
はっと我に帰り桜の状態を気にかける、1日目の結果は不良、何もわからないままいつの間にか2日目に突入していた。