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努力家に惚れた天才  作者: 水道水
第1章〜人間の欲望はやがて悪魔を生む〜
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交錯する光と影

声が聞こえる、聞き覚えのある人の声、聞いたことのある声、その声がノイズに掻き消される。

その声で目を覚ますと、気を失う手前の風景が目の前にあった。

私はどれくらい眠っていたのだろうか。

ふと目を前にやると、強化ガラス越しにこちらを観察している男がいた。

白衣を着た男だ、私が動いたのを見て安堵したようにも見えた。

「気分はいかがですか、桜様」

部屋の中のスピーカーから声が大きく鳴り響く、うるさい。

「最悪よ、今は何時で私はどのくらい眠っていたの?」

「そうですね、桜様が気絶なされてから...二十時間といったところでしょうか」

二十時間、ほぼ一日座って眠っていたのかと考えると嫌気がさした。

「わかりました、ここから出してください、入浴がしたいので」

そう言うと男は黙って部屋を開き、使用人が部屋に入り私に取り付けていた物を慎重に外した。

部屋から出ると、いつもとは違う感覚に陥った。

感覚が研ぎ澄まされているような気がする。

それが長時間眠っていたからなのか、ただ単に思い過ごしなのかもわからない。

「桜様、次も同じ週の日に薬を投与します」

私は聞き流すようにして部屋を出た。

早くお風呂に入りたい、白ちゃんに会いたい。

今考えられるのはその二つ、他はどうでもいい。


風呂から上がった桜は、替えの制服を着ると足早に道場に向かった。


道場の近くに来るといつも聞く白の声と、違う声も聞こえてくる、その声の主が白と戦っているようだ。


道場に入ると白と白の従者の女の子が本気で戦っていた、名前は織神織慧、篝火の保護施設で育てられ、恩返しのため白の従者を務めていると本人から聞いた事がある。

どちらも強い、特に彼女、織慧は多彩な魔法を使いこなし、白を攻撃している。

その二人の戦いを道場の端で見ていると、それに気づいたのか白が戦いをやめ、近づきこちらの顔を覗き込んだきた。

「何の用だ」

いつもならここで顔が見たかった等と適当な言葉を返していた、だが、なぜか声が出ず、覗き込んできた白の顔をじっと見つめた、なぜだろう顔が熱い。

「顔が赤いぞ、風邪か?」

その言葉で我に返る、感情が顔に出てしまっている。

いつもなら冷静に、顔に出さずに切り抜けられるのに。

「ん、いや、なんでもないよ白ちゃん」

「そうか」

気付かれていない、良かった。

「それよりまた強くなったね白ちゃん、それに織慧ちゃんも」

「はい、ありがとうございます桜様!」

織慧が過剰に反応する、嬉しかったようだ。

「おい織慧、今日の相手はもういい、帰っていいぞ」

「...?どうしたんですか白様」

「桜と話がある」

「はい、わかりました」

織慧はそう言うと道場から出て行った。

「...」

「...」

道場が静まり音が消え二人は無言で見つめあっている、白が少し怒っているようにも見える。

口を先に開いたのは桜だった。

「どうしたの白ちゃん、話ってなに?」

仲が良い桜と白には、今までに無い険悪な雰囲気だ。

白が怒っているような鋭い目つきで話始めた。

「お前...何を隠してるんだ?」

驚いた、気付かなければどうということは無かったが、嬉しかった。

「ふふ、やっぱり白ちゃんは私のこと解ってくれるね」

桜はなぜか顔を隠す。

「ふざけるな、こっちは真剣に...桜?」

桜の体が震えていた、隠した顔を頑なに見せない。

最初はふざけているのかと思っていた、いつもそうだったから、だが今回は違った。

「白ちゃんお願い、抱きつかせて...」

白はそのお願いを引き受けた、6才の時、桜が珍しく感情をあらわにし、泣いた時も同じ事をお願いしてきたからだ、その時は深く追求はしなかった、自分には力がなかったから。

だが今回は違う、桜はそんな俺を頼ってきてくれたから、何があっても桜を助ける。

「どうした桜、また泣いてんのか?」

「もう少し、このまま...」

桜が抱きついて離れようとしない。

「わかった、悩みがあるなら言え、俺がお前を助けてやる」

隠していた顔をゆっくり見せた、まだ目に少し涙が残っていた。

「一人で抱え込むな、俺を頼れ、絶対に助けてやる、約束だ」

そう言いながら白は指で桜の目に残った涙を拭った。

「ふふ、カッコイイこと言っちゃって、柄でもないくせに」

良かった、ほんの少し桜の顔に笑顔が戻った。

「かっこいいだろ?」

「うん、かっこいいよ白ちゃん」

元気づけるために冗談で言ったつもりが笑顔で返されてしまった、やりづらい、だが確実に調子を取り戻していた。

まず話を聞こう、それでないと話そうにも話せない。

桜に問いかけようとすると解っているという素振りを見せ、ゆっくりと話始めた。


「......これで白ちゃんに隠してる事は全部、どうしようもないけど、助けてくれるんでしょ、私の救世主さん」

「もちろんだ、お前の体を専門の施設で調べてもらう」

そう言うと、真剣な表情をして携帯端末を取り出し、誰かに電話をかけた。

ああ、俺だ施設を開けてほしい、そう話していた。

本当に助けの手を差し伸べてくれている、もうどうにもならないかもしれないのに。

白が携帯端末を耳に当てながら、こっちに来い、と手を曲げる素振りを見せた。

それに従い白の側まで行くと、携帯端末を渡された、何かの質問をするようだ。

篝火が所有、経営している研究施設の低い声の男が、身の回りの環境の質問や簡易的なストレスチェックを携帯端末越しに施した。

急ぎだからか低い声の男の後ろから微かに慌てている声や音が聞こえる、異常なまでに聴覚が研ぎ澄まされている、もはや人間では考えられない程に...。

「ねぇ白ちゃん、もし私がおかしくなっちゃったら......」


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