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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
未来は灰と深緑に彩られる
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謎は謎を呼ぶ

「うまい‼」


がつがつがつがつ……と、食堂の席に着くやいなや、俺は叫ぶ腹の虫のためにテーブルに並べられた肉や魚、緑黄色野菜を次々にプレートに乗せては文字通り貪り食らう。その様子に、マイオさんとキョウギさんは目を丸くしていた。


「…よう食うな自分。2週間なんも口にしとらんだけあるなぁ」


いや、正直二人と同じく、自分自身も驚くほど飯を食らっている。ここまで身体が栄養に飢えた経験は今のところなかったからな。


目の前に映る食物を一通り食らい尽くすと、ふうっ…、と一息つき、椅子の背もたれに寄りかかる。


「腹一杯。満足したぜ」


今の俺の表情は物凄くご満悦なお顔になっているだろう。マイオさんがニコニコしながら口を開く。


「スッゴい食べっぷりだね。そんなにお腹空いてた?」

「ん、まあな。しかし誰もいないな。君ら以外は住んでいないのか?」


辺りを見回しながらそう訊く。食堂は意外と広めで、ちょっと規模の大きいホテルバイキングでも催せそうだ。俺を含めた3人しかこの場にいないため余計にそう感じる。


「いや、他にもここで暮らしてるのはいるよ。今日はたまたま皆出払ってるだけ」


そう答えるマイオさんに、俺は軽い相槌を打つ。そこへタイミングを見計らっていたキョウギさんが口を開く。


「ほな、腹一杯のとこでそろそろお話訊かせてもらってエエかな?」


キョウギさんは俺をどこか怪訝な顔で見る。…まあ、確かに自分は端から見れば怪しい異邦人なのはわからんではない。


実際、ここに担ぎ込まれる前にはよくわからない高熱にぶっ倒れていたんだ。もしかしたらなんか悪いバイ菌でも抱えてるんじゃないかと疑ってるのか?


それに、実は過去からやって来ました、なんて話なんかどうやったって信じてもらえる気がしない。


いや、仮に信じたとしてこういうのはSFとかじゃデリケートな問題だからな。迂闊にその時代の人の知り得ない情報を吐くと何かよからぬことになるのは火を見るより明らかだ。


さて、どうするか。──少し考えをまとめた後、答える。


「──実は、俺自身あんな熱出して倒れた理由自体よくわからないんだ。質問を質問で返すみたいで悪いけど、倒れていた2週間の間のことを教えてくれるか?」


それを聞いたキョウギさんは、何か訝しみつつ口を開く。


「なんやはぐらかされた気ぃするけど、まあエエか。答えたる」

「…ありがとう。助かる」


俺は軽く頭を下げて礼をする。あっちはお礼されると思っていなかったのか、少し戸惑っていた。


「や、自分意外と素直やな。こほん、…んでだ。とりあえず自分のここ2週間の間のことやったな。飯の前にポロッと口にしてもうたが、自分危篤状態だったっちゅうんがあらましや」


…やっぱり、そうだったのか。耳にしたときはまさかと思ったが。俺は少しだけ目を伏せる。キョウギさんは続ける。


「一応、ここに運ぶ前に医者に診せてもろうたけど、もうちょい遅けりゃくたばっとったで。感謝せいや」


医者…?こんな退廃的な世界でも医者はいるのか?いや、それよりも今は俺の身体にあった出来事のほうが大事だ。


「そんなに、危なかったのか?」


そう訊くと、マイオさんは真剣な趣で言う。


「そりゃそうだよ。実際診てくれたお医者さんも5日前までは確実に死ぬと疑わなかったくらいだよ」

「?ちょっと待って。それって5日前まではそのお医者さんも匙を投げるくらいは危なかったってことだよな?何があったんです?」


俺の問いに、2人は顔をつき合わせて困惑の表情をする。あっちもよくわからないのか?しばらくして、キョウギさんが話を再開する。


「ワシらもようわからんのだけど、自分の乗ってたバイク、おったやん」

「?コンドルくんのことか?」

「ほぅん、あれそんなダサい名前なん?…まあ、そいつはどうでもええ。そいつも自分と一緒に運んできたんやけど、5日前に急にそいつからようわからん光がビカーッと自分にすっ飛んでの、それからっちゅうものみるみる回復していったんや」


ちょっと待て。なんだそれ。まるで意味がわからない。自分の表情にも出ていたのか、マイオさんも困り顔だ。


「ありえない、って顔だね。ボク達もさっぱりさ。あのあと興味を持ったジュウくんが独断と偏見で勝手に君の…コンドルくん?それを解析のためにバラしたんだよ」

「…はあ⁉」


俺は思わず声を荒らげる。その声にオカッパは眉をビクリと動かす。


──ええ?ちょっと、何勝手にとんでもないことすんだこのド変態!俺はキョウギさんに思いっきり睨み付ける。当の本人はびびって肩を跳ねあげた。


「ちょっ、やめえやその目!ワシ美少女に睨み付けられるんなら本望やけど男にガンを飛ばされても嬉しくないわ!」

「知るかアホウ。お前の性癖など毛ほどの興味もない。勝手にバラしたからにゃ何か分かったんだろうな?」

「酷!ワシ命の恩人やぞ⁉そんな口の利き方はないんやないの⁉」


そう捲し立てるオカッパに、マイオさんがジト目で冷ややかな口調で言う。


「ジュウくん何もしてないじゃん。ボクが運んできた鼻血だらだらの君をみて失神してただけの癖に」


マイオさんの発した言葉がオカッパの胸に突き刺さる。俗にいう快心の当たりというやつだ。


「あー、もう勝手にバラしたことはいい。情けないことに俺にはバイクの知識なんてないし、もし壊れたとしてもひとりじゃあいつを修理できないからな」


俺は肩をすくませる。それに俺は付け加えるように言う。


「とりあえず、俺がこうして何事も無く喋っていられるのはあのバイク、コンドルくんが関係してるかもって話でいいのか?」

「まあ、そうなるなぁ。ワシもバラしてみりゃ何か分かるんかと思っとった。せやけどあれがピカーって光った理由はさっぱりや。仮説も満足に立てられん」


うーん、なんだかな。タイムスリップしている身ではあるのに自分の乗ってきたタイムマシンのことはわからないことだらけだな。

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