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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
この世界の営みに目を向けよう
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自慢したくて

 深い森を往く烏綱さんの背後を必死に追いかける。鬱蒼とした樹木も大概だが、この人工の密林は気温がとても高くて、このままだと蒸し焼きにされそうになるのではと錯覚しそうだ。


「…どこに向かっているんですか?」

「んー? まあ、せっかくの客だからな。サービスも兼ねて、だ」


 どうにも煙に巻かれた感がある。この人、サプライズが好きなタイプだな。個人的には、さっきの茎の件もあって微妙に背筋が冷たくなる。


「着いたぞ」


 案内されたそこは、まるで熊でも眠っていそうな深く、暗い洞窟だった。滴り落ちる雫の音が不安を掻き立てる、如何にもといった感じだった。


「何を小鹿みたく震えているんだか。…ふん!」


 烏綱さんが岩の壁をぶん殴ると、パッと辺りが明るくなる。一瞬目が眩んでしまったが、すぐに彩度が調整されて、周りを確認する。


 どうやらの天井に備え付けられた照明が点けられたらしい。その明るさは、さながら格闘技のリングを照らすライトの如く熱さをもっていた。


 そうこうしている内に、手招きで合図しながらとっとと先に行ってしまう烏綱さん。マイペースだな、と肩をすくめながらもその後を追う。


 洞窟は随分入り汲んでいたが、分かりやすい案内板があちこちに設置され…ていたが、時々ダミーが混ざっており、何度か間違えそうになりながら、なんとか後を着いていく。


 大体十五分くらい歩いたところで、烏綱さんの足が止まる。その前には、やけに物々しい、核シェルターもかくやの分厚い扉が待ち構えていた。


 彼女はその脇にあった岩を押し込むと、制御盤らしきキーボードが出現し、それに慣れた手付きでパスワードと思われる文字列を入力する。


 すると、扉はまるで意思を持つかのように、その重量の如何程を伺わせるような地鳴りを立てながらひとりでに開き、来訪者ふたりを迎え入れる。


「さ、入れ。遠慮するな」


 そう言って招かれた場所は、外のジャングルと対比するかのように、未来感をこれでもかと表す、科学の粋を集めたミュージアムだった。


 何に使うのかわからない、なんか凄そうという感想しか残せないハイテクそうな機器が軒を連ねていて、せいぜい俺程度にわかるのは、どこかの科学博物館で見掛けたテスラコイルくらいだ。


 そんな、興味と感心が入り交じって部屋中を見回す俺を見て、さぞご満悦と言わんばかりのしたり顔を見せつける烏綱さん。


 その様子は身体を震わせて、感想を今か今かと待ちわびているようで、ともすれば小憎たらしいとも言える。とはいえ、素直に驚いているのも事実だ。


「…スゴい、ですね」

「だろうだろう? これがお前ら人間の科学の粋だ。誇れ誇れ」


 背中をパンパン叩きながら、さぞご満悦な様子の烏綱さん。機嫌を良くしたからからなのか、スキップ混じりに俺の手を引いて奥へと進んでいく。


「さて、せっかくだし、ちょっと面白いものみせてやろう」

「お、面白いものスか?」


 嫌な予感と期待が渦巻くなか、手を引かれるままシャッターの前に連れられる。彼女がボタンを押して、音を立てて上がる幕の先が露になる。


 肩を竦めつつ待っていると、上がった舞台に現れたそれに、俺は身体が跳ね上がるほどの驚きを覚えた。


「あっ、コンドル君!?」

「こいつ、そんなダッサい名前だったのか」


…ダサいとか言うな。否定はしにくいけど。兎も角、この世界に俺を連れてきた、爺さん特製バイク型タイムマシン、通称コンドル君が、今目の前に現れていた。


 獅子王さんに焼き鳥にされて久しくだったが、今のコンドル君はまるで新品同様にピカピカで、思わず涙ぐみそうになる。


「…泣くほど嬉しかったのか?」

「なっ、そんなことありませんよっ」


 指摘されて、慌てて顔をごしごしと擦り出す。また遠巻きに肯定してしまっている。学習しないな、俺は。


「…まあいい。ガワだけはとりあえず直ったから、フツーにバイクとして走るぶんには問題ない。機能復元と調整とかはこれからだから、まだ渡すのは待ってくれ」


 そうは言うけれど、こんなふうにちゃんと見た目だけでも直ってくれて、俺個人としては感謝しきれないほどだ。


 そういえば、とばかりに烏綱さんが手を叩くと、脇にくっついていた拳状のパーツを擦りながら、さぞ自慢げに語る。


「ああ、忘れるところだった。よかれと思って、両脇にくっついていた、この謎の鉄拳な。発射できるようにしといたぞ」


…なんだ、その有りがたみの分かりにくい配慮は。というかどんな用途に使えというのだ。機械のバケモンとか、男と女が物理的にくっついた奴にでも撃てとでも言うのかこの御仁は?


「…なんだその曖昧な面は。ちゃんと音声認識で飛んでいくし、自動で帰ってくるぞ?」


 いや、そんなのかなりどうでもいい。肩を落として、いかにも微妙そうな顔を浮かべる。というかロケット噴射で飛んでいくパンチの付いたバイクって、冷静に考えなくても頭おかしいだろう。


「ではなんだ? 男の子は飛ぶ鉄拳は大好物と過去の資料にあったが?」

「…いつの資料なんだ、それは」


 …俺は別段ロボットが嫌いな訳ではない。子供っぽいかもしれないけど、ガシガシ動いて暴れまわる機械のヒーローは素直にカッコいいとは思う。


 けれど、生憎現実にそんなギャグみたいなこと言われても、すぐにエスプリの利いた返しができるほど器用でもない。


「…今更なんですけど。何でこんなすげーものを俺に見せたんですか?」

「うーん、そうだなぁ…」


 珍しく考え込む素振りを見せる烏綱さん。というか、考えるほどのことだったらしい。


「強いて言えば、自慢?」


……さも当然、といいたげにあっけらかんとした顔を見せる彼女に、ついズッコケ掛ける。子供かよ、とツッコミかけそうになった右手と口を抑える。


「自慢…ですか」


 少しばかりマヌケに見えるかもだが、これに関しては鸚鵡返しで訊ねざるを得なかった。


「当たり前だろ? こういうのは、自慢しなきゃ虚しくなる。見せびらかす誰かがいなきゃ、研究なんて自慰と変わらん」


 まるでこの世の真理を口にしている、とでも形容できる最低な物言いだ。恥じらいとか、そういう情緒みたいなものを、このヒトには備えていないのか?


 ふと、俺の脳裏に記憶の一片が頭を過る。…以前、似たような事を爺さんが言っていた。…研究は世に出すためにするものだ。それは人も変わらない。誰かがいるからこそ、自分は『そういうもの』だと規定できるのだ、と。


 その一方で、自分に問い続ける事も大切だとも言っていた。他者からの気付きと、自らの内に湧き上がるもの、両方が大切なのだと。


…そう考えると、あながちこの動機も間違いではない…のかな? いまいち定まらない答えに首を捻りながらも、久方ぶりの相棒の御姿を拝見できて安堵の吐息を漏らした。

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