表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
この世界の営みに目を向けよう
57/68

はじめての『おつかい』

「食材の調達、ですか?」

「ああ」


 暖簾を掛けてながら、今日のお手伝いの概要を聞く。今回はどうやらおつかいらしい。


「ところで、何処で仕入れるんです?」

「ああ。今地図を書いてやる。…一寸待て」


 そう言って奥村さんは何処からともなく細筆を取り出すと、それに口からふっと、息を吹き掛けるように墨を浸けていく。


 そして蛸足を使って筆の四刀流を披露するや否や、目にも止まらぬ速さで書き上げていった。その様に圧倒されている内に、本当に一寸の間に地図を書いてしまった。


「ホレ。……ああ、文字は読めるよな?」


 大丈夫です、と頷く。サッと契約書にサインを書くような気持ちで、まるでコピー機にかけたみたいに精巧な地図が突き出されれば、驚き以上に感心や尊敬といった感情を覚えてしまう。


 タコの墨で描き上げられた地図は、とても丁寧な字で書かれすごく分かりやすい。でも同時に、この地図を見て微かに違和感を覚える。


 生憎と、この地図が指し示す場所には見覚えがない。ここに来てしばらくするが、それなりに見取りは覚えたつもりだった。しかしこれは、まったく見覚えのない見取り図だ。


「…? これ、この街の地図、じゃないですよね?」

「ああ。そいつはここから西に行くとある、隣街のヤツだ。地上からの経路もちゃんと書いてあるぞ」


…マジか。これは少々骨が折れそうだ。しかし、この隣街の地図、見覚えはないが似たものを見た気がする。それこそ、現代の若者たちの街によく似た道なりだった。それがなにを指しているのかは流石に検討はつかないが。


 同じく渡されたメモに書かれたおつかいの内容を見る限り、それなりの量だ。一人で外から買ってくるのは、体育会系でもない俺にとっては二重の意味で荷が重い。


 よっぽど厭そうな顔をしていたのか、苦笑混じりにこっちを手招きする。彼女に連れられてお店の裏まで行くと、物置のような場所にたどり着く。


 そのど真ん中に何かが布を被せられ安置されていた。サイズはけっこうなもので、少なくとも大型バイクよりもでかい。なんだこいつは、と訝しんでいると奥村さんがその覆いに手をかける。


「安心しろ。あたしは無理は言うが無茶は言わん。そんなこともあろうと用意もある」


 そう言って覆い被さるものを取り払い、ヴェールの下を晒す。姿を現したのは、人間の科学力で作られたとおぼしき乗り物だった。少なくとも、俺の時代のモノとはさして変わりのないものだ。


「……なんですこれ? リヤカー……に原付がくっついてるような……」

「ちょっくらアホの獣之助に用意させたもんだ。纏まったツケの話を持ち出したら、喜んで一晩で拵えてくれた。はいぶりっど…とかいうので、あんまり臭いガス吐かないそうだ」


…なるほど。獣之助君が死にそうだったのはそういうことだったのか。自業自得とはいえ、同情してしまう。その苦労に報いるために、リヤカー付き原付に乗り込む。


 流石に大型バイクに比べると、控えめな馬力だ。エンジンの唸りが川のせせらぎに聞こえる。少なくとも結構なモンスターだったコンドルくんよか、パワーが抑え目なぶん扱いやすいかもしれない。


「おっと、あたしとしたら。忘れもんだ、持ってけ。」


 そう言って渡してきたのは、お弁当とおぼしき風呂敷と、映画とかで見たことがある砂漠を渡る時等に身につけるマント、それとイヌの付け耳と鼻、それと霧吹きだった。


「なんです、これ?」

「変装用だよ。ウチの領主含め、ここの奴らは基本的に異なる種にも寛容だが、他はそうはいかない場合がある。無用なトラブルは避けるが得策だ」


 具体的には? と喉元まで出かかったところで、あの獅子王文殊の顔が浮かんでくる。彼女と初めて会った際のトラブル。あれは流石に極端すぎる例なのだろうが、やはりイレギュラーを快く思わない人もいるみたいだ。


「…わかりました。──これで、おかしくないですか?」


 付け鼻と耳を装着し、霧吹きを一回掛ける。一吹きしただけでほんのりケモノ臭さが鼻を突く。目元をを被うようにマントを纏い、あらためてエンジンをかけ、アクセルに指をかける。


「それじゃ、行ってきます」

「おう、怪我しないようにな」


 手を振る奥村さんを背に、リヤカー付き原付は地下の街をゆったりと抜けていく。流石にだだっ広い地上に出るまでは安全運転、法定速度をキープの姿勢で行く。……この時代には法定速度はないだろうけど。


 人工の光が照らす地下を出て、本当の太陽が大地を焦がす地上へ。陽の向きを見るに、まだ昼にもなっていないことがわかる。地下で計測している時間はほぼぴったりらしい。


 遮るものが無くなった、樹海と化した廃墟が広がる地上で、俺は原付のアクセルを押し込む。ちょくちょく小さく隆起した部分を通るからか、不定期に、しかし頻繁に身体が少しだけ浮く。


……大型バイクを乗り回しといて今さらだが、齢十五の中学生である俺は、当然二輪免許どころか原付の免許も持っていない。


 今まではそんなもの欲しいとさえ思わなかったが、この風が吹き抜ける感覚は、普段心の奥底へ沈殿する思いが軽くしてくれる。もし元の世界に戻ったら、次の誕生日に原付の免許を取りに行くのも悪くない。


「……?」


 快適な原付の旅に、これから向かう街のことに思い馳せていると、ふと視界の端っこに土煙を巻き起こして動く何かが見えた…気がした。心なしか、そいつは金色のドリルだったようにも見えた。


───まだ疲れが残っているのか、はたまた昨日のことがまだ脳に焼き付いているのか。いくら獅子王さんでも、こんなところをうろついているとは思えない。


 そんな正体の知れない幻影を振り払うように、アクセルを押し込み速度を上げる。また小さい隆起した樹の根っこを乗り越えたからか、身体が少し浮いて心臓が跳ね股間に寒気が走る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ