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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
この世界の営みに目を向けよう
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※このあとスタッフが美味しく頂きました。

大体一時間くらい経って、ようやく爆発音が止んだ。料理でなぜ爆発音とチェーンソーの回転する音が聞こえたのか気にはなるが、それは後で聞くとして、今は────、


「さあ! 私の技巧、酔いしれてくださいまし!!」


自信たっぷり、歪みない満面のドヤァ、という効果音が聞こえてきそうなくらいしたり顔の獅子王さんが、カウンターに皿を載せる。この香辛料の匂いは────、


「ほー、カレーか。まあ、見た目はちっとばかし悪いが、パッと見た感じは、食えなさそうには見えねぇな」


確かに、妙に赤色が多い、さながら血の池ではあるが、それ以外はおおむね普通のルーの掛かっているライスカレーだ。ちらり、と獅子王さんのほうを見ると………


「────わくわく」

「………頂きます」


その期待を全開にした顔をされたら、食べなくてはいけないという使命感に駈られる。スプーンでひと掬いして、口に放り込む。


もぐもぐ。咀嚼。ふむ、確かに短い時間のうちにも手間はかかっていそうだ。いろいろ煮込んでいる。肝心のカレーの味は──────?


「───ーー!__! ̄ ̄ ̄ ̄!_!───━━!!」


舌が味を認識しようとした瞬間、言語化できない程のショックが全身を駆け巡る。強すぎるショックに目玉が飛び出るかと思った。


身体が口から食道への通行を頑なに拒否する。脳が痺れ、首から上が内側から弾け飛びそうだ。うまく言えないが兎角、それほどの異物感だ。


「どうした!? 急にきりもみ回転して飛び上がったと思ったら、床をのたうち回って!?」


なんだこれは。俺にはもう目の前の料理が正しく認知できない。というか、料理の定義がブレにブレて何だったのか、という哲学的なレベルになってきた。


───率直に言おう、まずい。まずい、まずい不味いマズイ。ひたすらまずい。辛いとかしょっぱいとか苦いとか甘いとか、言語学者だったとしても味覚の表現ができない、ひどい味だ。ひたすらまずいとしか形容できない。


食感もよくわからない。固いとか柔らかいとか、うまく形容できない。少なくとも米の歯ごたえとは認識できなかった。米がこんなにぶよぶよして気持ち悪いモノなんて知らない。


兎に角まずいのだ。自分の十五年の人生でもこんなにまずい料理ははじめてだ。地球一まずいと言っても過言じゃない。ざっと見たところ、鉛筆の削りカスとか、蝉の脱け殻とか、あからさまに食用に適さないモノは一切入ってない、ここのお店の食材だけで作っているはずなのに。


どんなに料理のド素人でも、同じように作ったとしてもこれより下は作りようがないだろう、殺人的な味だ。成程、こんなものを作れるとは、ある意味で彼女は天才だろう。


いや、本当にひどい。重ねて問うがこれは本当に料理なのか。悪魔的過ぎる。そもそも生物が食べていいシロモノなのか。彼女らの敵と言われてる例の<タタリ憑き>とやらを殺る新兵器ではないのかと邪推するレベルだ。ひょっとして、彼女は俺を殺すのまだ諦めて無いんじゃないのかと勘ぐってしまう。


端から見ていた奥村さんにも動揺が広がっていた。異常すぎる光景を前に、額に汗びっしょりで電子タバコを一服して落ち着こうとしている。


しかし、衝撃のあまりタバコを逆さまに吸おうとしていることに、俺が力を振り絞り、それとなく指摘するまで気がつかない有様だった。目もどことなく泳いでいる。こんな状況でどういう顔をすればいいのかわからないと言いたげだった。俺だって同じだ。なんなのだこれは。


先程まずいと言ったが、これは、毒ではない。劇薬か何かと間違える程に、ただまずいだけだ。さっきも言ったが、見たところ水銀とか明らかに摂取できないモノは何一つ使っていない。この料理、味が致命的な程悪い以外はおかしな点がない。つまりは純粋にマズさだけでこの惨状を生み出している。


───なんだそれは。調理の仕方ひとつでこんな味覚はおろか、五感全部が壊れそうなモノを作れるのか。くそっ、心なしか視界がぼやけてきた。ただの一口で食道が焼け爛れ、臓腑が蹂躙されていると錯覚するほど、身体へ重篤なダメージが入っている。


しかし、どれだけクソまずい料理でも、作ってくれたのであれば食べなくては。せめて、せめて一口ぶん、それだけでいい。それだけ飲み込めば──────!


「──────ごふっ!!」


ごめん。誰に向けるわけでもないが、謝罪したくなった。食材には罪はないから、せめて全部飲み込もうとしたけど、無理だった。胃に残っていたものも、ふにゃふにゃになった意識ごと、全部吐いた。

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