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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
この世界の営みに目を向けよう
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スイーツ反省会?

「……イロハはん、ひとつエエか?」


 問い掛ける声が聞こえる。俺はそれに力なく頷く。


「どうしてこうなったん?」


 ──ただただ首を横に振る。ごめん。俺の方が知りたいです。照らしつける蛍光灯がまるで刑事ドラマとかでよく見る取調室の明りに見えてくるようだ。


「取り敢えず、状況を整理するよ」


 もうひとつのボーイッシュな女の子の声が、説明を始める。そのまま木の椅子に腰かけて、こちらの是非を問わず話を続ける。


「あのあと、彼女を全力で追っかけてまかないを届けてあげた。ここまではいいね?」

「…うん」

「……で、落ちてきた祭りの飾り付けがあわやというところで助けた、と」

「……はい」


 そこまで言って、彼女はこちらに事の結末を口にするよう促す素振りを見せる。俺は肩をすくめ、ため息混じりに語り手として言葉を結ぶ。


「で、どういうわけか。彼女にときめかれた挙げ句、愛を囁かれた。」


 それを聞いて、暫くの間静寂が空間を支配する。そして俺に問いを投げ掛けた二人はほぼ全く同じタイミングで沈黙を破る。


「───チョロいな」

「────チョロいね」


 口を揃えてこんなことを宣う。あの子─獅子王文殊にそこまで安易なキャラクター要素をぶちこまれても正直困る。


「……ごめん、もう一回整理させて。キミはモンジュをなんだか放っておけなくなって、後を追っかけて行ったらたまたま振りかかった災難から救ってしまい、気がつけば彼女からホの字ということ。────はぁ」


 どういうことなの、という感情が籠ったため息が望さんの肺の奥底から深く深く吐き出される。それこそ吹き荒れる北風もかくや、という勢いである。獣之助君のほうも、俺の肩に手を置いて同輩の不手際に頭を抱えた様子である。


「──アホやアホや言うとったけど、ここまでとは流石のワシらも予想外過ぎたわ。脳ミソ筋肉だけやのうて、シュガーにハニーにホイップの三重構造のスイーツとまでは思わなんだ。すまん、マジで」


 肩を落し心底申し訳無さげに言う獣之助君。それは決して嫉妬などのマイナスな感情はひと欠片も含まない、その代わりに憐憫をたっぷりと秘めた目のまま、彼の次の言葉はまるでこちらを説得するような語り口だった。


「エエか。アレはアカン。逆襲は怖いが、とっととフッちまった方が身のためや」


 どうしてか。その問いに、彼はまるで戦地に赴く息子に対しての台詞が如く真剣さ、並びに御身への心配さを多分に含めて答える。


「───奴さんはわかっとらんようだけんど、自分の行動を『悪い』と思ったことが無いんや。それがどれだけヤバいかわかるか?」


 ゆっくりと、しかし深く頷く。彼の言葉が、何故か染み渡るように理解できた。昔、爺さんに教えられた事を思い出したからだ。失敗した。他の人に迷惑をかけた、悪いことをしたと思ったならば、次はこうしない、改善しなくては。そう思うことが進歩、成長なのだと。耳にタコができるほどしつこく言われたのだった。


『悪い』と思った事がない。それは即ち、自分の行動を絶対に正しいと確信しているからに他ならない。善意100%と言えば聞こえはいいかもしれないが、裏を返せば反省する機能が欠落している、ということになる。俺の態度がよほど気掛りだったのか、今度は望さんもこちらを心配して提言する。


「参考までに言うけど。ボクが知っている限り、モンジュは過去三回は恋をして、付き合った異性がいる。けれど、みんな一ヶ月も長続きはしなかった。どうしてかわかる?」


 首を横に振る。当然だ。彼女のプロフィールなど、会って数日の俺が知るよしもない。


「ワガママが過ぎる、とみんなは言う。けど彼女には悪気があった訳じゃないんだ。自分が良しと思う事をする。すべては相手の為を思っての行動。それは正しいとボクは思う。」


 そこまで言って望さんは「けれど」と否定のニュアンスを織り混ぜる。


「───ボクの言えた義理じゃないと思うけど。彼女、モンジュはさ、相手がどう思っているかは、考えていないんだ。」


 良しと思う行動しかない。それはある意味悪気がある行動よりも質が悪いかもしれない。どれだけ客観的におかしくても、相手が嫌がっても、それが正しいと信じていて、もし間違っていたのであればそれは相手の方。思わず胃がキュウっと締め付けられる気分になった。


「そこのジュウくんもよくエロ方面には暴走するけど、それでも多少は自覚のあるから自制は出来てる方だよ。でも、モンジュは違う。悪い子じゃない、のはホントだけど」

「───悪いことは言わん。アレだけは止めとけ。ホンマにアカンねんアイツ。せめてカラダだけの関係にしとけ」


 ───最後ので台無しになったが、彼の言いぶんも理解できる。というか、ソレが正しいと理性ではちゃんと把握している。けれど、だ。自分の行動が原因でこんなことになったのだ。それなりのケジメくらいはつけないと。


「ひとまず、どないするかね。今度会ったときの対策ゆーん、考えたほうがええな」

「対策……。弱点とか、弱味を握る、とか?」


 しかし、弱点か。会って間もない自分にも分かる、あの暴走特急のアレに対する弱味と言われても、いまいちピンとこないのが正直なところ。


「あっ、思い出した」

「? どないしたんノゾミちゃん?」


 電流走る、といった様子の望さん。これは期待していいのか? 食い入るように耳を傾ける。


「いや、弱点と言っていいのかわからないんだけどね?」

「なんでもええ。今回はマジに命掛かっとる。どんなショボいんでもかまへん」


 そうだなぁ、と望さんは頭をひねり、腕を組んで考え込む。十秒はたっぷり思案して、絞り出すように案を口にする。


「……口が、弱い?」


 ………はい? 思わず呆けた声が出る。本当に苦し紛れのプランだと言わんばかりに、彼女の説明は歯切れが悪い。


「他人に歯のブラッシングされるの、露骨に嫌がるの。歯ブラシ嫌い、かなアレ。結構前からあるけど、弱点、なのかな?」

「……えー、びみょーやな。尻尾握ったら力抜けるとかやないの?」

「そもそもの問題、そんなのしてたら腕食いちぎられそうなんだけど、その点どうなの望さん?」

「だから、弱点と言っていいのかわからないっていったでしょ?」


 ………どうやらダメなようだ。何かしらの具体案が出ないまま、会議は腹の鳴る音でお流れの雰囲気に終わりそうである。


「───兎に角、おたくのマシンを<ファミリア>が直すまで、諸々の決着をつけなあかん。その、死ぬなよ?」


 とりあえず思い付く限りの応援に、「ありがとう」と穏やかに返す。話が一段落したのを確認して、「よしっ」と望さんが席を立つ。


「ひとまず、一階に降りよう? 晩御飯の準備、手伝ってくれる?」

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