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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
この世界の営みに目を向けよう
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まずは形から

ファミリアはあと一週間は修理に時間を要する、と言った。そのため、暫くは此方で時を待つことになる。


「じゃあ、ウチ来る?」


というマイオさんの提案を受け、考えてみればこの世界の実状はとんと知らず、完全にノープランであったことを思い出す。


自分で言うのも何だが、本当に向こう見ずであったと痛感する。一人では何もできないあたり、まだまだ子供なのだと嫌でも思う。


そんなわけで、俺はマイオさんとキョウギさんのふたりに、自分達の暮らす場所まで案内され、そこで身を預ける事となった。


外に出てから気がついた事だが、俺が寝ていた場所は病院であり、しかも記憶が確かなら俺が産まれた病院だった。微妙に運命を感じ得ない。


ちなみに、ダジョウ先生は病院で暮らしている為、ファミリアは彼が元いた場所の『ライブラリー』なる場所で作業に戻る為、ここで別れる。


そこへ、先程まで簀巻にされていたシシオウさんにひとつ、提言される。


「ここで暮らす前に、私達の当主に挨拶をするべきではなくて?」


という事だ。実際、この辺りの統治する方に挨拶回りするのは、確かにその通りだと思う。焼いて食われないか、と言うマイオさんとキョウギさんのふたりも、心配なので一緒に付いてくることに。


「変な行動を取ってみなさい。灰塵も遺さず滅却して差し上げますわ! よくって?」


などと発言した直後、背後から鳴る錫杖の音で「うひぃ」と情けない声を上げた挙句半泣きになったが、これを敢えてスルーし病院を後にする。暫く淀んだ曇り空を行けば、十五分程で目的地にたどり着く。


「ここは…駅、か?」


だいぶ朽ちてはいるが、間違いなく地下鉄の入口だ。かつて終日異常な人口密度を誇っていた空間も、今や物寂しさを醸し出していた。


ついでに、その先の見えぬ薄暗さから、あたかも迷宮の入り口であるかに見える。実際、俺も一度迷った経験がある。


アホみたいに路線等の増改築を繰り返しているから、人工のダンジョンと言っても差し支えないだろう。


余程怪訝そうな顔をしていたのか、キョウギさんが小さく溜め息を吐きながら言う。


「なんや、そのビミョーそうな面は? ちと暗いが、バケモンなんぞ出えへんよ」

「──そう聞いて安心した。こういう時、大抵何かウロウロしてるだろうから」

「は? 自分らの時代、バケモンのさばっとったっんか?」

「創作の話だよ。現実ではそんなことないですって」


いや、所謂獣人って外見の方々とこうして話している事自体、マンガか何かだと思うが。約一名、口から火吐くし。まあ言うだけ野暮か。


「ここからは少し暗いからね。モンジュ、お願い」


階段を降りる前に、マイオさんが髪と一体化した翼から小さなランプを取り出す。意外と便利な機能だな、それ。


「はいはい、お任せあれ」


翼の利便性に感心する俺をよそに、シシオウさんは口からマッチ一本程度の火をふっ、と吹き掛けてランプに灯りを灯す。


すると暖かみのある灯りは暗がりをぱっと明るく照らす。マイオさんは先頭に立ちたがるシシオウさんにランプを預けて、自身を二番手、その後ろにキョウギさん、俺という一列で地下鉄の入り口を下る。


「いや、こんなこと言うんもアレやと思うけどな。エエか?」


と、薄暗い地下を降りていくなかキョウギさんが訊いてくる。幾分か軽い調子で言う口ぶりに、了承の意図で頷き用件は何かを聞く。


「ん。前から思ってたんやけどな。なんや自分、堅ない?」

「堅い? 何がです?」

「それや。なんや堅苦しい言い方。もちっと軽く話せんの?」


あくまで非難ではなく、ちょっとした疑問に小首を傾げるような、そんな軽めの口調での問いだった。


「質問に質問で返すようで悪いですけど、そんなに堅いですか?」

「うん、カタイ」


と、前を歩くマイオさんが即答する。あまりにも迷いのない一言にちょっと面食らう。


「そんなに、ですか?」

「ガッチガチだよ。昔、ボクが興味本位で作った北欧式チーズ並」

「その例え、度合いがよくわからないです」

「ヒトに向けて投げれば相手殺せるくらいはカタイ」


マジでか。そこまでひどいか。思わず真剣に考えるくらいは衝撃的なものだった。そこへ先頭を往くシシオウさんも話に入ってくる。


「まあ、相手を敬うのはよくてよ? 私のように、私のように!」

「ああ、あのおっぱいバカは放っといてエエわ。アホやし、尊厳0やし?」


なんでよー⁉ と地下にでかい声が反響する。コンクリートに四方八方を囲まれた空間は、なまじ静かなだけによく木霊する。


「んでだ、どーなん?」

「……わかった。えっと、キョウギ、君?」

「獣之助でええ。ああ、『ジュウくん』はノゾミちゃん専用な。コレ、幼なじみの特権ってやつや」


ドヤァ、と擬音が聞こえてきそうなしたり顔を浮かべるキョウギ君。しかし、当の幼なじみはというと、はぁっと溜め息ひとつした後、ややトーンを落として言う。


「えー、別に使ってもいいよ。そんなに拘り無いし」

「幼なじみやろ! なんかプレミアムな感じ大切やと思わんの!? さっきの大好きはウソやったんかい⁉ 」

「え? アレはジュウくん個人を指してはいないし、おまけに意味もライクミーであって、ラブミーではないよ?」

「ホワイ? そんな理屈通るかいな!」

「あと、以前からずっと言おうと思ってたけど、正直ジュウくん、異性としてはタイプじゃないから」

「───ごふっ!」


さっきとはうって変わって、まるで全幅の信頼を置いていた友人に、突然背後から心臓を串刺しにされたような、兎に角物凄い形相で受けた衝撃の大きさを物語る。


「──えーっと、元気出して。その、獣之助、君?」


俺はひとまず、彼、獣之助君に優しく声を掛けておく。その『ジュウくん』という呼称は今後封印しておこう。当人の何か琴線に触れるというか、なんというか。


「自分、意外にええやつやな」

「そう、かな? あんまりそういう風に思わないんだが」


そんなことはない、と手を振ると、謙遜するな、というニュアンスで返される。


「まあ、あらためてよろしく、獣之助君。それと、マイオさん」

「ボクも普通に名で呼んでいいよ」


異性を名前呼びするか。少し迷ったが、ひと息吐いてからまた呼び直す。


「──よろしく。望さん」


カツン。カツン。と石灰石造りの地下を足音が鳴らすなか、俺はそんな気安い感じを、ちょっとだけ心地よく思う。


「……ん? 私は?」

「あ、すみません忘れてました。じゃあ、獅子王さん。よろしく」

「え、オマケですか私。畏敬足りなくてよ?」

「そんなことは。……あ、ちょっと、足下気を付け──」


遅かった。ボンヤリと照らす先に何かの段差か、はたまた隆起したコンクリか。なんにせよ、その障害物に先頭を往く獅子王さんは思いっきり躓き、顔面からずっこける。猫のような鼻からタラリ、と鼻血が。ああ、超痛そう。

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