キミの模様は何?
「んでだ、その肝心のバイク、コンドルくんやっけ? それ、今どないしてるん?」
……思い出した。今俺がなんでこんな所にいるのか。その理由を。降り注ぐ火炎弾の直撃で見るも無惨に大破していたような。そも、襲ってきたのは…。
「───ヒューっ、ヒューっ」
滅茶苦茶下手くそな口笛吹いて誤魔化す、簀巻きにされた金髪ドリルの少女。キョウギさんが両の手の指をワキワキさせながら、彼女に一歩詰め寄る。
「…もうひと揉み、イってみよか?」
「やめなさい婬獣!」
シャーッ、と物凄い威嚇を放つも、ぐるぐる巻きにされて自由が制限されているため、以前と比べて正直怖くもなんともない。
「そうだったな。そこの阿呆が勘違いして彼を全力で殺しに行った結果、件のバイクは大破した。これでは先程の論も泡沫と消える」
「わ、わたくしは悪くありませんことよ!?」
「黙れ。貴様、少しは自重することを覚えろ。あわや無辜の民を殺めるところだったのだぞ?」
むむむ……と悔しげに唸るシシオウさん。心なしか耳がぺたんと垂れて、しょんぼりとした心境を表しているようだ。
「安心してくれ。あれの残骸は回収した。今現在、『ライブラリー』に残された技術でなんとか修復している」
ファミリアが俺を安心させようとしているのか、そんなことを言う。彼の目は嘘を吐いているのではないことを無言で教えてくれる。
しかし、だ。そんな希少物質で造られたモノを簡単に修復できるのか? 信用していない訳じゃないけど、ほぼスクラップ寸前ではなかったか?
「そこのところ、やはりキミのお爺様は流石だ。アレはバイク型にすることで偽装も兼ね、ある程度は修理も代替パーツで補えるように設計してあった」
「! 本当か⁉」
「無論100%純正のアハンカーラではないから、願望達成能力の質は落ちるが、時間跳躍は可能だろう」
帰れる。この目で見なければ納得できないだろうが、それならば願ったり叶ったりだ。
だけど、そこに一個だけ何かが燻ってる。そんな気持ちが拭えない。どうして爺さんがこんなとこに放り込んだのか。そこだけはイマイチ納得がいってない。
俺の表情を伺っていたのか、ファミリアはひと言、問い掛ける。
「キミは、どうする?」
どうする、って。どういう意味だ? 首を傾げてみると、今度は分かりやすく少しだけ噛み砕いて話す。
「キミはこの終末まっしぐらの世界に訪れた理由を知った。だが、ここまでキミは自分自身の意志で行動していない。レールの上を歩いてるだけだ」
「……」
「もしタイムマシンが修理されるとして、キミはただ帰るかい?」
「帰る……か」
…思えば、ここに来てから散々である。何度死にかけたかわからない。できればとっとと帰って、大分遠ざかってしまったいつもの退屈で、だけど平穏な日常に戻りたい気持ちが確かにある。
けれど、だ。何か意味があるのではないか、と思ってしまうのだ。さして優秀でもない俺に、爺さんは何を思いアレを託した? そんなことを考えている自分の耳に、マイオさんの声が届く。
「ねえ、イロハ…クン。突然だけど、キミは、お爺ちゃんは好き?」
マイオさんが一歩前に出て俺に訊く。とても、真剣な面持ちと声で。そんなのは決まりきっている。俺は一息整えてから答える。
「当然。大切だ」
「うん。ボクも、ボクを育ててくれたお父さんやお母さん、大好きだよ」
「…そう」
「それだけじゃない。センセも、ジュウくんも、そこのモンジュも、ファミリアも、みんな。みんなが大好き」
だから、と彼女はひと区切りをつけて、少し肺に息を取り込んで、また真剣な、その大きな目で、俺の目をまっすぐに見つめて、再開する。
「だからさ、思うんだよ。ボクはみんなから温かいものを、なにか意味のあるもの貰った。ボクはみんなに何をしてあげられるのか。それを考えなきゃ、って。それはキミも同じだと思う」
温かいものを、か。ふいに、昔の記憶が涌き出てくる。授業参観の日、爺さんは休まず来てくれたこと。貰ったことのない、初めてのクリスマスプレゼントの為に、妙な研究に没頭した挙げ句、ビルに風穴開けたこと。
「答えは、見つかったのか?」
「……まだなんとも。けど、考え続けてる。そうすることが大切だと思うから」
「そうか。すごいな、マイオさんは」
「何言ってるの? キミもだよ」
「…俺も?」
「そ、考え続けて。どうすれば良いかじゃなくて、何をしたいか、考えて、考えて。どうしようもなく困ったら、誰かに聞いて。行動して、またひとつ、何かと関わって。そうして、縁は繋がっていく。自分という、誰のものでもない、ひとつの織物の模様が編まれていくんだ。とボクは思う」
にぃっ、と笑顔で語るマイオさんの表情に、声に、思わず釘付けになる。カチリ、と自分のなかに新しく、何かの部品がはめ込まれる。
「……ありがとう。なんか、それ以外言葉が思い付かない」
どういたしまして、とマイオさんは少しだけ笑顔の中に照れ臭さを交えて言う。
そういえば、あの夢の中に現れた子供。あの子にも諭されたっけな。二度も迷いを誰かに晴らしてもらうなんて、我ながら情けなく思う。
そんな俺を、マイオさんはむず痒そうな様子で笑み、なるほどね、と何か合点がいったように言う。
「なんとなく、だけど。キミのお爺ちゃんがそんなにすごいものを託したのは、少しわかったかもしれない」
「…? どういうことだ?」
「アレって、どんな願いも叶えてくれるんでしょ、ファミリア?」
「──まあ、そうだね。手にした者の善悪関係なしに、ね」
「ん、確信した。だったらきっと、キミなら絶対に悪用しないって、信じてたんじゃないかな?」
「そう、か?」
「そうだよ。だって、嘘つくのへたっぴだし、人が嫌がるようなことは死んでもしないクチでしょ?」
「せやな。あとは性格がヒネとるのと、誤解生みやすい口と、頻繁に医者の助け受けるくらいか、悪う点は」
さっきまで沈黙を保っていた筈のキョウギさんまで参加する。そんなどこか微笑ましい渦中に居て、存外悪い気がしないの自分がいた。




