転機の訪れ
───映像はここで途切れた。そして俺は、目にした内容に衝撃と困惑を隠せなかった。
「爺…さん⁉」
正直言って、なにがなんだかだ。爺さんもこの世界に来ていた? しかも、破滅がどうとかって。そんなスケールのでかい話に、身内が、爺さんばかりか実の弟まで関わってる?
しかも、弟が世の中を滅ぼそうとした理由が俺にある? 本当にわからない。なんでそんな行動に出る必要があったんだ。
「驚くのも無理はない。キミの祖父は破滅を回避するための行動を取っていた、おまけに弟が普通の人間じゃないなんて、なんて眉唾もいいとこだろう?」
「………悪い、ファミリア。少しだけ静かにしてくれないか。自分なりに整理したい」
彼はその言葉に首を縦に振り、口をしっかりと閉じた。周りのみんなも、俺に気を遣ってくれたのか、はたまた彼方も衝撃を受けているのか、どちらにせよ沈黙を保ってくれている。
まずは深呼吸。これを三回ほど繰り返す。精神落ち着きを取り戻した後、そして情報過多でごちゃごちゃとした頭の中を整理する。
───爺さんはこの未来にやって来ていた。理由は、いずれ破滅する世界を回避するため。その引き金は、俺の弟カルタだった。
彼は普通の人間じゃなかった。そして、アハンカーラとかいう鉱物で願望を自由に実現できる? いつから世界はファンタジーに片足突っ込んだ?
いや、獣人の皆さんを見ればファンタジーな感じはあるかもしれないが、その普通じゃない光景に慣れ始めている自分にも驚きだ。
思えば、爺さんにヘンテコなバイク渡されて未来にすっ飛んで来た段階で、常識で計れるなんて訳がなかった。
そのヘンテコバイク、もといコンドルくんは件の鉱物を用いて造られたシロモノで、未来にかっ飛ぶのはおろか、死ぬはずだった俺の命を救うに至る訳だ。
……いや待て。おかしくないか。まだ説明されていないことがある気がする。頭に電流が走る。稲妻の軌跡を辿ると、確かにひとつ聞いていない部分があった。
「……あれ、そういえばキミのお爺さん、結局どうなったの? 過去に返って来れたの?」
俺が口にするより早く、マイオさんに疑問を言われる。ファミリアは何故か言い淀むような、言葉を選ぶような素振りをする。
「本当に訊きたいかい? 後悔しないね?」
歯痒い。ハッキリと言ってもらいたい。ここまで衝撃的なモノを見せておいてその口ぶりはないだろう。そういった気持ちを乗せて俺は言う。
「あるわけない。俺は爺さんにあのヘンテコバイクを託されて未来へ来てる。無事に帰ってきたんだろ?」
俺が強い口調で言うと、ファミリアは「いや…」と否定の感情の籠った声を出す。彼は俺の顔をよくみつめて、声のトーンも変えて告げる。
「……結論から言うと、だ。あの人、キミの祖父は確かに現代に帰還した。ただし、情報だけ、だけど」
「……? どういうことだ?」
「さっきの記録を遺した祖父はもう存在しない。現代にいるキミの祖父に、ここで得た情報のすべてを託して消滅したんだ」
消滅、だと? 辺りのディスプレイに、自分が浮かべる驚愕の表情が映る。ファミリアは淡々と、しかし真剣な口ぶりで続ける。
「なぜそうなったのか、って訊きたいだろう。残念ながらヒトの体はあのマシンで時間跳躍する際の衝撃には耐えられない。だから此方で製造されたタイムマシンは、人間を一旦運びやすい情報に崩して、確実に目的地に届けるという仕組みなんだ」
「ちょっと待てよ? ばらばらにした情報は、もとに戻せるんだよな?」
「──残念ながら。アレは生物を情報に崩した状態から、再びもとの姿には組み上げるということは不可能なんだ」
───なんだと? 彼の発する言葉が何を意味するのかがわからない。いや、何となくだが頭は理解している。けど、心が拒否している。そんなデタラメあってたまるか、と否定を繰り返しているんだ。
「おかしい。おかしいじゃないか。お前の言うことが正しいなら、俺の知ってる爺さんはいったいどう説明付ける?」
「簡単だよ。元の時間軸より少し前の自分に情報を届けたんだ。そして、キミの搭乗してきたコンドルくんに繋がっている、ということさ」
「そんな、それが本当なら、俺だってここに立ってなどいないだろ? まさかとは思うが、俺はもう死んでるなんてほざくなよ」
「そんなことはない。キミは確かに今この世界で息づいている。それはひとえに現代の、キミを送り出した祖父の努力の賜物なのさ」
どういうことか、という顔が余程あからさまだったのか。ファミリアは先程の淡々とした口調から、より真剣味を強く帯びた声で告げる。
「キミはなぜ無事なのか。彼が乗り込んだタイムマシンは人間がそのままの姿で渡航できない、言ってしまえば欠陥品だ。だが、彼が遺したデータを受け取った過去の──キミの時代の祖父がそれの欠点を克服する策を編み出したのだ」
「克服する策?」
「さっき説明された通り、願望に指向性を持たせるためにアハンカーラ鉱石に『意思』を提起させることを考えたよね。それと同じで、キミの乗ってきたソレには『持ち主を絶対に生かす』という意思が組み込まれていたのさ」
持ち主を絶対に生かす意思。まさかと思った。俺があの、真っ暗な夢の中で出会ったあの子は、
「ちょう待って、じゃあなんか、死にかけてたコイツがピカーって光ったんは…」
「ああ、本来ウィルスで淘汰される側のイロハがこうして五体満足なのもその『意思』がキミを生かそうとした結果なのだろう」
「じゃあ、バイクの中のなんか空洞の部分があったっていうのは?」
「ボクらが知る限り、願望を抱える力も無尽蔵ではない。どこかで必ず限界を迎える。死にかけた彼を生かすことで時間渡航の力まで使い込み、消失してしまったのだろう。」
何か、欠けていたピースが次々にはめ込まれていく感覚がある。あの、赤い髪の子が口にしていた言葉がふと過る。
わたしのを、あげる。それって、やっぱりそういうことなのか……。
おもむろに自分の胸に手を置く。心臓が確かに脈打ち、肺が息を吸って吐いて、身体に空気を循環させるのがよくわかる。
俺はまだ生きている。いろんな人やモノに助けられて。どうして俺なんかが、という気持ちよりも、こうして今を息づいていることに何か意味があるのではないか、そう思うようにもなってきた。




