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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
未来は灰と深緑に彩られる
33/68

未来から今を救うためにできること

ワシが目を覚ますと、辺り一面が乾いた荒野だった。つい先程まで海の上に浮かぶ孤島にいたワシはここが何処なのかを思案する。


フィールドワーカーの居ないなか、老骨に鞭を打ち地形を探索すると、ここがかつて海であったと結論が立てられた。


信じられん答えに首を傾げ、やけに広い空を見上げていると、ふいに途方もない熱に浮かされ、意識が朦朧としてくる。


その直後に鼻血が吹き出す。ギャグなのではと錯覚するほどの血の量に驚き、死にたくないの一言を言う間もなく意識を手放してしまう。


しかしワシは幸運に恵まれていた。次に目覚めてみれば幾ばくかの日にちが経っており、そして目の前のヒト達にいたく驚いた。


ケモノなのだ。ケモノとヒトが混ざった存在が闊歩している光景を見れば、嫌でも自分が何処か、途方もなく遠い場所に来たコトを思い知らされる。


出迎えたケモノ混じりのヒトたちもまた、非常に驚いた様子であった。なにせ、人間らしい外見のワシはむしろ珍しいとまで言われる始末だ。


同時に、ワシが眠っていた場所から見える世界はというと、それはそれは酷いもので、海は陸を大きく浸食し文明の象徴たるビル郡は呑まれて本来の姿を失っている。


有り体に言えば、ワシの知る、この星の人間らしい人間は、もはやどこにもいないのだと叩きつけられた気持ちだった。


悲しいことに、ワシにはなぜそうなったかは予想はできた。彼が十年以内に発生すると宣告された、生物を剪定するウィルス。彼らはそのウィルスに感染した上で進化を遂げた、というのが真相だろう。


そしてワシも、どうやら天秤の重いほうに置かれたようだ。肉体のガタが軒並み消えているのがよくわかる。そうとわかればこんなところでおちおち寝ていてもいられない。


そう意気込んでいたワシだったが、現代に帰る方法が無いと悟った瞬間、途方に暮れた。当たり前だが、一世紀どころか九世紀先までの未来まで飛ばされればいくら天才とはいえ頭を抱える。


ただでさえツルッツルに剥げた頭がさらに薄くなると思うと気が触れそうだ。いや、今さら散りゆく髪などに未練は無いこともないが、そんな事態よりもっと気にするべきコトがある。


なぜワシひとりの意思でこれだけの事態が起きたのかさっぱりわからなかった。以前はワシ一人だけでは小さな奇蹟を起こすことはできても、時間旅行となると中途半端な形─数秒前にまで戻る程度しか実現してくれなかった。


おまけに、帰る方法がわからないと来たものだ。これでは未来から何をしたところで何の意味もない。


とはいえ、行動する他に道はない。出来ることからせねば。早速ワシはこの数世紀の内に何が起こったのかを徹底的に洗い出すべく行動を開始した。幸い、現地の生き残った人々はワシに協力的で、過去の文明を保管している施設の存在を教えてくれた。


そこでワシはこの世界に至るまでの軌跡を知ると同時に、どう足掻いたところで避けようのない真実に触れることとなった。


ワシを待っていたのは、他でもない件の結晶体、『アハンカーラ』を用いて造られたコンピューターであった。


不可能を実現させる奇跡、過程をすっ飛ばし、願いという概念により生まれた世界最高峰の意思持つ演算装置。あらゆる事象を観測し人類の破滅を防ぐためのそれは、最早『神』と形容してもいい。


『神』はワシを見るなり、待っていたと告げた。肉の無い彼の物は、あるひとつの結末を覆す為の計算を続けていた。


『神』は自らの産みの親に冀われた。『色々あったが、みんな幸せになった』という締めの言葉を。


だが機械仕掛けの神は、演劇のようにすべてを丸く収めるコトはできなかった。幾ら計算を積み重ねても避けられない悲劇。荒廃は必然であり、ルートは違えど行き着く先は皆同じ袋小路。


あたかもそのエンディング以外を認めないかのように、抗おうとする運命は鸚鵡(おうむ)のように、ただ同じことを繰返し告げる。


──無駄だ。答えはたったひとつだ。例外はない。


同じ奇跡から生まれた故に、ひとりが引き起こした奇跡が絶対の真実であると誰よりも理解していた。


だが、例外は確かにあった。本来ならこの場に存在しない筈の人物。それを待っていたのだ。


神は言う。ワシのような人物、過ぎた力を悪用しない、過去の者をずっと待っていたと。彼の者は最悪をひっくり返す逆転の一手、叡智をワシに授けた。


しかし、それには代償が伴うとも言う。訊けばそれは、ある意味納得のモノだった。ワシは承諾し、未来から今を救うために──

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