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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
未来は灰と深緑に彩られる
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零を、ここに。

ワシはあの事件の後、孫の以呂波の面倒を見ることとした。理由は帰ってきた以呂波を出迎えたのは抱擁ではなく無関心による不干渉だったからだ。


無事で良かった。弟への言葉をワシは少なくとも十は聞いた。夫婦の目は理想の息子たる嘉留太に向けるものは実に暖かで柔らかい。


その一方で見せるもう一種類の眼光は、我が老骨を凍てつかせる程の鋭く容赦の無いものであると脳裏に焼き付いている。


ワシですらそうであるから、以呂波にとっては如何程のものか想像できんくらいであろう。いっそ憎々しげに殴打と罵倒を受けた方がまだましであるとさえ思わせる。


この一件で以呂波はさぞ深い裂傷を心に刻み付けられたであろう。極端な話、彼が目の前で殺されたとしてもあの夫婦は今日の嘉留太の為の晩御飯を考えているだろう。


ワシはしわくちゃの手を差し出した。あまりにも痛々し過ぎて見ていられんかったのだ。助けてやりたかった。せめてもとできるコトはしてやらんと。どうせ老い先短い身、去る前に子供へなにか残してやるべきだと思った。


自分にできることをやる。寄る年波には勝てんのか、身体の節々はガタが来て動かすだけで壊れかけている。いずれぶっ壊れる身ならやり残しは全部なくして往生せねば。


以呂波と暮らすうち、ワシは面倒を見るつもりが逆に面倒を見られる場面が多いことにも気がついた。


気を回すのが得意なのだろう。最初の頃は今一愛想のよくなかったが、今では年頃らしい顔も見せるようになった。


またあの子は自分より可愛がられている嘉留太のことを、羨ましいとは言えど悪口を吐いたこと唯の一度もなかった。


あの夫婦には見えんし、知らんのだろうな。贔屓目かもしれんが。以呂波は本当に優しい子なんだと。


だからこそ、あの子の為に頭をもたげる懸念をすべて終わりにするために。繋がりそうな、繋がって欲しくない線を手繰り寄せ糸屑にしてゴミ箱に捨てなくては。


以呂波と暮らす一方で、娘夫婦のもとで育てられている嘉留太の身の回りは激変していった。


あの子は並外れた天才性とカリスマを余すところなく発揮した結果、歳が十もいかぬ身でありながら日本中で有名なキッズとしてニュースに取り上げられる程であった。


以呂波は彼を見て、子供ながらに怖いと呟く。ワシも同じ気持ちだった。あの子の両親は確かに優秀な遺伝子を持つだろうが、それを勘定に入れても異常ともいうべき万能だった。


ワシの頭脳が隔世遺伝したと考えればあながち嘘でもないだろうが、あまりにも敵がいなすぎる。


能力ではない、人を惹き着ける天性の魔性とでも言おうか。優れた人間に対する僻み妬みを全く耳にしないのだ。まるで信仰の対象と錯覚する。それほどに周りは嘉留太を崇めているのだ。


絵に書いたような理想の子。やはりなにか関係があるのではないかと邪推する。何よりあの日浮かべていた、ゾッとするような笑みが忘れられないのだ。


──時に2018年。桜が芽吹き始めた頃、ワシは朝のニュースを見て思わず卒倒しかけた。何処かの国が地図にない島を発見したと報道していた。その島はもう地上へ姿を現す筈のなかった。


ワシはすぐに当時の仲間を集める。由々しき事態だ。なぜだ。皆こぞって同じことを口にする。それはワシも同じだ。


なぜならその島を発見したというのが、例の天才キッズ嘉留太だからだ。もう無関係な杞憂とは言いきれん。ワシはすぐにその足で娘夫婦の家へ嘉留太が産まれる前後のコトを洗いざらい吐かせる為に赴くのだった。

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