流星は零への軌跡を描く
時に2015年の立冬。ワシはすぐに六木をとっちめる為にヤツの自宅に乗り込むべく足を運ぶ。予想通りであるなら、こやつは『アハンカーラ』を相当量隠し持ってる筈であった。
概念を与えることで姿を変える結晶体。ワシらが研究を進めるうちにひとつわかったコトがある。それはコレに擬似的な人格を定義し埋め込むことでコントロールできる可能性だ。
この事は前から突き止めていたが、生命を定義できるのか、自意識を持たせた結果どうなるか。これらすべてが予測不可能であった為に敢えて謎のまま海底に沈めた。
ワシはそうすることが正しいと思っていて、皆も同意した。筈だったのだが。
思えば六木はあの島を沈めた後、何やら商いでデカイ成功を掴んだと言っていた。ヤツは確かに口の上手さはあったが、その時に気付くべきであった。
なんにせよ、六木はソレをやって富と名声を手にしたかもしれない。そして、しまいには概念を与えたコトで理想の人間まで産み出してしまった可能性まである。
ワシはなんとしても是非を問いただし、もしそうであるならばアレを人知れず消してしまおうと考えた。だが事態は予想外の方向に向かっていた。
六木のヤツは数日前に亡くなっていた。なんでも自宅に強盗が入り込み殺害され、後生大事にしていたでかい金庫を丸々奪って逃走したらしい。
不味いことになった。金庫の中身がワシの考えた通りなら由々しき事態だ。強盗がアレを唯の石ころとして捨ててしまえば御の字だが、もし本質を理解した上で盗んだとすれば大変なことになる。
しかし、ワシは唯の一般市民。警察機構の働きに期待する他なかった。結局『アハンカーラ』と嘉留太の関係性、六木の是非もわからぬまま、そうして手をこまねいているうち、ある日の事件が起こった。
その日はちょうど流星群が空を走るとされ、夜に近くの公園で星を見に行くと言った以呂波とそれに連れられた嘉留太が誘拐されたのだ。
ワシはすぐさま飛んでいき事の詳細を聞いた。彼らの両親はいたく動揺していた。カネは幾らでも払う。だから息子を助けてくれと警察に懇願した。
しかし一日と経たずふたりは帰ってきた。以呂波から話を訊けばよくわからないという。
曰く、自分は気を失っており気がつけば何処かの廃校舎に居て、犯人は何処かに消えて去っていた。彼自身そもそも誘拐されたという実感も薄いようであった。
ただ、何かの焦げた嫌な臭いが充満していたとだけ覚えているそうだった。対して嘉留太は、如何なる理由か口許を子供のそれに似つかわしくない、刃物のような冷たさを秘めた薄笑いを浮かべていたのをよく覚えている。
後でわかった事だが、誘拐した人物と先日六木の家の強盗は同一犯であることがわかった。二人のいう廃校舎を調べると彼の家から盗んだであろう金庫が発見された。
だが金庫自体は破壊、放置されており中身は消えていた。結局何が納められていたかは謎のままだ。
そしてもうひとつ、例の強盗兼誘拐犯はどこか。その人物は亡くなっていた。ワシ自身も信じられない話だが、流れ星の欠片─小石ほどの小さな隕石が二・三発は降りかかり死亡したらしい。
確たる証拠はない。だが、ワシは此処で仮説をひとつ立てた。嘉留太が望んだことで『たまたま』極小の隕石が燃え尽きず、地上の落下地点に『たまたま』いた犯人に当たった。
消えた金庫の中身、理想の子、『アハンカーラ』。繋がっているのか。はたまた全部無関係でワシの杞憂か。既に取り返しがつかぬ程の最悪な状況であることを、このときのワシは気づいていなかったのだ。




