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世紀末を旅しよう  作者: 隼理史幸
未来は灰と深緑に彩られる
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終わりに至る記録

それから幾ばくかの時が経ち、ワシにも孫が産まれた。男の子で、名を以呂波という。妻に先立たれた身としては、とても喜ばしいコトであった。


だがその誕生を祝福したのはワシだけで、あの子の両親はそうではなかった。成長する以呂波を見ていた両親の瞳は我が子を見る目ではなく、さながら査察官のように厳しいモノであった。


ワシと妻の間に産まれた娘─以呂波の母親は妻の美しさ、ワシの頭脳を受け継ぎその才覚を生かし科学者としての道を順調に進んでいた。


だが、なまじ高い能力をもって産まれたが故に、ワシはおろか産み落とした妻ですら気づかないほど、その内面は蓬莱山よりも高いプライドと、マシーンのように計算的、打算的な女であった。


それは彼女の夫も同様だ。彼は何処かのエリートとして生を受け、それに相応しい能力や実績を持つ一方で、目的の為なら他人を蹴落とすことを能面のような面で行える輩でもあった。


そんな互いに完璧さを持つ者同士の間に産まれた以呂波を、彼らは特筆するべき能力を見出だせないとわかった途端、その目を変貌させる。


間違えた。失敗した。あの子らはよくそんなコトを口にしていた。あらゆる面を完璧にしなければ気が済まん彼らにとって、優秀な血を受け継いだ筈のサラブレッドが、わが子が拭い難い汚点に見えるのだろう。ワシは、それがとても恐ろしく思えた。


完璧をつくる。その盲信に取り憑かれたあの夫婦の間にまた一人、嘉留太(カルタ)という子が産まれた。以呂波にとって弟に当たるその子は、まるであの夫婦の理想が形になったようであった。


類希な頭脳と美貌、身体能力。親の言うことは素直に聞き、そして人を惹き寄せるカリスマ性。文字通り絵に書いたような子で両親はたいそう彼を可愛がり、嘉留太は愛情という肥料で彼らの思い通りに育っていった。


ワシはその二人目の子供に言いようのない違和感を抱いていた。ワシはロマンチストを自称するが、同時に現実も知っている。


先程ロマンチストを自称しておいて夢がないコトを言うが、世の中うまくいかんコトばかりだ。例えばワシがすばらしい理論をおっ立てたとしても、常人にはなかなか理解をされん。子供は大人の思い通りになど動かん。だからこそ面白い。思惑通りに行くのも行かないのも。


故に思う。あまりにも理想的すぎる。人間にはプラモデルみたいに組み立て説明書などない。ましてや自由意思のある生き物だ。仮に肉体と頭脳のスペックが完璧にできたとしても、それら全てが思い通りに成長などするはずがない。


それこそ、外側から内面まで一から十まで、オーダーメイドで願望通りに造りでもしなければ叶わない。そう思ったワシの頭のなかで、ひとつの可能性が導きだされた。


願望通りの、理想の子。正直言ってまさかと思い、そんなコトを一瞬でもよぎった自分の頭を疑う。しかし有り得るのかもしれない。やったことは無いが、理論上絶対に不可能ではない。


ワシはすぐにその子が産まれる前、誰かに会っていないか問いただした。するとあの夫婦は肝心なところははぐらかしつつも、一年半ほど前にワシの友人のひとり─名を六木(ムギ)といい、あの隕石の島の調査に携わった人間のひとり、彼とただ一度だけ会ったことがあると答えた。


よもや、と思った。線が繋がる。繋がってしまう。繋がって欲しくない。ワシは見誤ったのだ。それが最悪の、致命的見落としであるなどとは知らずに。

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