再会とこれから
その前に、と俺はファミリアに意見を述べる。彼はそれを聞き入れ「案内をする」と言ってこの施設内を導く。
彼に連れられてやって来たのは、何やら機械の唸り声で騒がしい部屋だった。半開きのその部屋に入ると、そこは退廃的な外とは打って変わって近未来的なコンピューターが羅列した部屋だった。
辺りを見回してみると、部屋にいた何人かの人影を見つけ、それらの全てに見覚えがあった。彼等に向けて、おもむろに口を開く。
「お、おはよう」
…我ながら素頓狂な台詞を口走ったものだと思う。三秒程の沈黙の後に、皆が驚愕の声を上げた。
「えっ、キミ…えっ⁉」
最初に反応を示したのはマイオさんだった。その次には「嘘やん⁉」とキョウギさんが、無言ながら目を見開いているダジョウという僧侶風の方。
そして何故か簀巻きにされているライオンドリルの俺に襲いかかった女性、名前は…シシオウだったか。とかく彼女だけ吠えながらエンガチョのポーズを取る。
「ふむふむ、やはりみんな驚きのようだ。ま、ボクもだが」
ファミリアの姿を視認した途端、シシオウ…さんは芋虫みたく這いながら俺に対する敵意剥き出しで威嚇を強める。
「⁉ 離れなさい下郎! ぶち殺しますわよ!」
敵意どころか殺意込みで口から炎をたぎらせる彼女。だがダジョウさんに「やめろ」と一喝されあえなく鎮火を余儀なくされる。
「再会、嬉しく思うぞ少年。よもやまた患者としてまみえるコトになるとは思わなんだが」
「はい。その節はどうも。それと、ふたりも」
「お、おお。なんや元気そうやんけ」
「う、うん。久しぶり、かな? 少し変わった、のかな?」
戸惑いに似た様子のふたり。俺のとなりのファミリアは「水を差すようで悪いけど」と前置きしてからダジョウさんに向けて言う。
「ボクを呼んだね。用はだいたい察せられる。彼のコトだよね?」
無言で首肯く。それを見てファミリアは何処からか取り出したUSBメモリを取り出したかと思えばこの部屋のコンピューターのひとつに挿入して、キーボードを弄り出す。
「まずはこれを見てくれ」
「…? 映像ファイル?」
「そう。とある人物が記録を映像として遺したモノさ。ところで、キミは自分の身体がどうなっているか理解しているかい?」
どうなっているか、だと? 首を傾げて返事をすると、簀巻きにされているシシオウさんを指差して言う。
「質問を変えよう。そこに簀巻きにされている彼女に殺されかけた理由を把握しているかい?」
「…いや、知らない。なんで彼女が殺意を抱くのか、皆目検討がつかない」
だろうね、といった様子でファミリアは自分の尻尾をいじりながら俺に向けて教鞭を振るう。
「かいつまんで話すと、今この世界にはキミが生きていた時代にはない、生き物には有毒な成分─ウィルスが漂っている」
<ウィルス>というワードに、思わずたじろぐ。ファミリアは説明を続ける。
「ウィルスといっても、ボクらにとってはキミの時代でいう風邪の菌と同レベルの扱いの代物さ。なんてことのない。けど、君にとってはそうじゃない」
「…この世界ではありふれていても、俺には例の無い未知の危険な細菌、ってことか…?」
「そういうこと。飲み込みが早くて助かる」
なんとなく、理解はした。あの謎の発熱は、ようは俺の知らない全く経験の無い環境によるものだったらしい。
でも、なんかおかしい。この世界において俺の昏睡の原因は風邪みたいなもんだとしたら、彼女─シシオウさんが殺そうとする理由がわからない。
「なぜ殺されなきゃいけないのか。それは彼女の役割みたいなものでね」
「役割?」
「キミは此処に来てすぐにこの世界に充満するウィルスに掛かり死にかけた。ウィルスは感染しても何事もなく生還するのと、そのまま衰弱して死亡するの2パターンあるのさ。発熱は感染の合図だったんだ」
衰弱して死ぬ。思い返しても背筋が冷え込む。そうなったかもしれないと考えただけで心臓が止まりそうになる。
「もし後者の場合だったら、肉体がグズグズに溶けて、正直形容もしたくない程のおぞましい姿に変貌した挙げ句、厄を撒き散らす存在と化す。そこのおバカさんが殺そうとしたのはそのためさ」
「おバカさんとは何ですか!」と憤慨するシシオウさんをガン無視して説明を続けるファミリア。
「でもキミは肉体的に異常は見られない。いや、『異常はあったが治った』と言うのが正しい」
「治った? どういうことだ?」
俺は疑問を口から溢す。少し前にマイオさんとキョウギさんから聞いた話では医者も匙を投げる有り様だったと聞いたのを思い出す。つまり、俺は篩から落とされる存在の筈なのだ。それがなぜこうして生きているのか、その疑問が首をもたげる。
「その疑問に答えるのがこのデータさ。キミの身に起こった異変の回答が生の肉声として刻まれてる。…スタート」
カチリ、とキーボードを弾く音ともに映像ファイルが再生を始める。真っ暗な画に甲高い荒波の音が十秒ほど流れると、ひとりの人物が映し出される。それは、俺もよく知っている人だった。




