目覚めの時は来たりて
…機械の音が聞こえる。目を開けて見れば、白い天井が広がっていた。以前もこのようなコトがあった気がする。
横たわる身体の動作を確認する。鈍さと重さはあるが、まあ問題はない。半身を起こして思いきり延びをして筋肉の具合も確かめておく。
ふと、気がつけば、腕に管のようなモノが繋がれていた。産まれて十五年間入院した記憶が無いため憶測だが、どうやら点滴かそれに類するモノのようだ。
ひとまずは布団から出て、近くに揃えてあった靴を履き立ち上がり周辺を見渡す。本当に病室のようだ。現代に帰ってきたのか、と思い窓から外を見てみれば、やはり地平線まで廃墟であり、事態は変化なしのようだ。
「おや、ようやくのお目覚めかい」
背後から声を掛けられ振り向く。そこには赤茶色の髪をした、美しい顔立ちの少年が立っていた。
よく見れば彼の尻から丸みのあるしっぽ─おそらく狸のモノが生えていて、頭部にも人間のものとは別に耳が生えている。
「君は?」
「おっと、失礼。紹介がまだだったね」
狸の少年はしっぽをフリフリしながら俺に歩み寄る。顔はニコニコと人当たりのよい柔らかなモノを浮かべ、声は明るく陽気さと同時にどことなくミステリアスさも兼ね備える。
「ボクの名前は、そうだね。<ファミリア>って皆は呼ぶ」
「皆が呼ぶ?」
「固有名詞が無いんだ。この名が一番通りが良い、といったところさ」
飄々としたやつ、というのが第一印象だった。ファミリアと名乗る彼は「よろしく」といった感じで手を差し出す。俺はその手を握り返し、自分もまた名乗ろうとする。
「よろしく。俺は…」
「亀鳴以呂波、だろう? 蛇杖から聞いているとも」
蛇杖…あの僧侶のような方か。彼を呼び捨てにしているコトに若干の疑問を覚えつつも、わざわざ自分に握手まで求めてきた意図を聞くこととする。
「不躾ながらひとつ訊かせてもらいたいが、自分になんの用で?」
「なんの用? そうだね。とても大きな理由だ。君に伝える事項があると彼等…いや、『あの人』が言っていてね」
<ファミリア>の柔らかな口調と眼差しに真剣さが混ざる。
「『君に、元居た時代へ帰る方法を伝える』。そう言っていた」
「っ‼ なんだと⁉」
思わず声を漏らす。帰る手段があるというのか。というより、もっと重要な点がある。帰るのが『場所』ではなく『時代』というのなら、俺が本来ならここにいる筈の無い存在であるとその人物はわかっているのだ。
「<ファミリア>、と言ったな。それは本当のコトなのか?」
「本当だ。ボクは嘘を吐かない。少なくとも彼等、特に『あの人』の言うコトには」
嘘ではない。少なくとも嘘を吐く輩には出せない雰囲気が、この一見すれば荒唐無稽なコトに強い説得力を持たせている。
少しばかり混乱してきた。<ファミリア>の言う彼等、主に『あの人』はいったい何者だ? 俺はこの世界にはさほど詳しい訳ではない。しかし、こんな荒廃した世界でそんなことを把握しているとは思えない。
そも、タイムマシンの製造できる技術など俺の知る限り爺さん以外はあり得ない。爺さんの頭脳は人類の数十年以上はゆうに先を行っている。
いや、この世界は現代から数百年経っている。もしかしたら爺さんの没後、技術が流出した可能性もゼロではない。
「…どうすればいい? その方法を教えてくれ」
──行動するしかない。自然とそう口にしていた。何かをしないと。ただまごついていていいことなんて何もない。
その言葉を聞いた<ファミリア>は初めから予定していた答えを待っていたかのように口許を緩め、小さく頷いた。
「good。いい返事だ」




