少年は知らない閑話 4
「──で、なんの話だったっけ? ジュウくんが話の腰バキバキに折ったせいで忘れかけてるんだけど…」
「…そうだったな、話を戻そう。そのために獣之助に来てもらったのだ。例の件、アレの調べはどうなった?」
そう言われ、ムクリと立ち上がったジュウくんは懐から機械の端末─確か、USBとかいう旧人類の遺した情報が保管されているシロモノだったっけ。
センセはそれを受け取ると、白衣の中にしまい簀巻きにされているモンジュを米俵のように担ぎ上げる。
「ちょ、何をしますの⁉ 放しなさい!」
そんな米俵もといモンジュの言葉を完全に無視し、センセはボクらに向けて声をかける。
「よし、ふたりも少しばかり付き合ってくれ。君たちを呼んだ理由がもうひとつあるのでな」
「理由…センセ、どういうこと? 彼がそこのモンジュに怪我させた以外に何かあるの?」
「まあ付いてくるといい。そこですべて話そう」
センセはじたばたするモンジュを抱えながら部屋を跡にする。ボクとジュウくんもその後を追うように退室する。
ボクは部屋を出る前に、ベッドに横たわる彼を一瞥する。命に別状はないとはいっても、彼のことは大なり小なり気掛かりだ。けど、だからと言って何か出来る訳ではない。
「…お大事に」
ボクはそう小さく言い放ち、退室する。隣のジュウくんも多少は気掛かりな様子を覗かせていたけど、すぐにそれはいつもの調子の顔に戻っていた。
センセの後を付いていくと、ある一室にたどり着く。その部屋のドアを開くと、ケーブルで繋がれた機械に四角い媒体が複数設置されていた。
センセはやさしく抱えていたモンジュを下ろして、その機械─旧人類が遺したコンピューターの電源を入れる。ボクの隣にいるジュウくんはそのコンピューターを見て、興奮気味に言う。
「はぁ~、相変わらずスゴいなぁここ。こんな高性能のコンピューター、よう完動品で残っておったな」
「いや、元々は壊れていたさ。先代の『ファミリア』が修理をしてくれたモノを譲り受けただけだ」
「『ファミリア』が? 確かにこないなモン完璧に直せるヤツなんてアレくらいのしか出来へんわな」
ぐるりと一周しながら部屋中を見回すジュウくんをよそに、センセはコンピューターの電源を入れる。次第に辺りから機械の駆動する音が聞こえてくる。
「知ってのとおり、『ファミリア』は拙僧達の創造主たる『神』の使い─代弁者だ。力でいえばそこの獅子王の一族よりも上、事実上今の世界の頂点と言っていい。主な目的は旧人類の遺した失われし技術を発掘、収拾し管理することだ。これくらいの修理など造作もないのだろう」
「せや、同時に『ファミリア』はその『神』の代行者でもあるわけや。困っとるモンに対し救いをもたらすのも義務。せやからこないな場合になるんを予期しとったセンセの要望にお応えして管理する技術を貸し与えることもままあるんやろ?」
「そういうことだ。…よし、正常に起動」
センセはコンピューターが起動するのを確認した後、先程ジュウくんから受け取ったUSBを接続して、またコンピューターいじりだす。
しばらくしてUSBに保管されている情報がコンピューター側に出力され、部屋の壁にくっつけられた大きな画面にデータファイルとして表示される。
それを見てふと疑問が浮かび、ボクの隣にいるジュウくんに訊いてみた。
「そういえばジュウくん。あのUSB…だっけ? アレどこから拾ってきたの? あんなの今時なかなか掘り出せるモノじゃなかったハズだけど」
「ああアレ? そこのコンピューターと同じく『ファミリア』が管理しとる旧人類の技術保管庫『ライブラリー』から借りてきたモンでなぁ。 アイツが快方に向かい始めた頃にセンセーにお願いされとって、ついさっきようやく見つけた正確なデータや」
「データ? なんの?」
「そいつは見たらわかる。 ホラ、出てきおった」
ジュウくんがそう言うと、データファイルの中から次々と何か難しそうな記述が現れた。
ざっと見る限り円や棒のグラフだったり、それらに関係がありそうな、長々と並べられた活字で彩られた論文の幾らかがそのファイルの中身であった。
「ねえジュウくん。このファイルの中身、本当に一体なんなの? なんか、すごく重要なモノ…なの?」
ボクがそう訊くと、ジュウくんは頭をポリポリ掻きながら、いつになく真剣な声色でそれに対する答えを述べた。
「…せや。ワシらが唾棄する、〈タタリ憑き〉に関するデータや。ワシらは代々それが危険やゆうことしか聞かされておらんから、その実態はなんなんかは知らん。獅子王の連中も詳しくは話してはくれへんし。そんな時、ワシはセンセーにそれを探してこい言われてな。そいでこの場にそれを持ってきたっちゅう訳や」
…ジュウくんの言っていることはなんとなく理解した。でも同時によくわからないことも浮かび上がってきた。
「ジュウくんの言う通りにこれがその『タタリ憑き』に関連したデータだとしたら、何でみんなを集めて見せたの?」
「ああ、それか。そいつはこの場にいる全員が知っとくことが必要やて、センセーがな。お、説明会の始まりみたいや」
ジュウくんの言う通り、センセが壁に投射しているデータを指してこれに対する説明を行わんと、何処かから持ってきたのか声を反響させる機械─マイク、とか言うのを手にとり息を軽く吸い込み始めた。




