予期せぬ敵対
ビルから舞い降りた、俺より少し年上とおぼしき獅子の令嬢はこちら側をじっと見つめている。見つめている、というよりは観察されているという方が正しいかもしれない。
よく見ると、彼女の左手から炎がたぎっているのがわかる。多分さっきのあれを焼き尽くしたのも彼女で間違いないだろう。
「あらあら、ずいぶんと珍しい出で立ちだこと」
身なり通りの、上品な言葉使いだ。彼女は何でかひどく訝しいと言いたげな目で俺をじっくりと観察する。
暫くすると、左手の炎が野球のボールみたいな形状へと変化を始める。あれ、もしかしてヤバい状況なのでは…?
「ひとつ!お訊きしてもよろしくて?」
「…はい?」
でかい声を張り上げてその獅子の令嬢は何か言い出した。なんだ、イキナリ?
しかし、片手にどう見ても熱々の炎の玉を手にして質問してくるってことは、質問次第じゃあ…
俺は周囲に散らばる黒い灰のようなものをチラリと見て、嫌なイメージが頭のなかを駆け抜けてゆくのを感じる。
とりあえず、当たり障りのない対応をしないと俺もあんな炭焼きよりも酷い有り様になるのは火を見るより明らかだ。…火なだけにってか?くそ、くだらねぇこと考えてる場合じゃない。
「あ、えっと、なんでしょうか?」
「あなた、〈タタリ憑き〉ですわね?」
「…は?たた、えっ?」
ここに来て新単語だと?ヤバい、そんなの知らんぞ。初耳だ。
「〈タタリ憑き〉ですわ。ご存知なくて?」
「あ、はい。申し訳ありません」
とりあえず、頭下げておく。でも眼だけはあちらを捉えておく。彼女は指を顎に添えて一考する素振りを見せる。
「そうでしたか。失礼しましたわ」
と優雅に礼をする彼女に、ほっと胸を撫で下ろす。
「…とでも言うと思いましたか!?この俗物ゥゥウウ!!」
──その直後に彼女は雄叫びとともに俺の真横に炎の玉をピッチャー顔負けのいいフォームでストレートめに投げ込む。
当然俺の表情、及び心境は呆気に取られていた。ええ?何今の?
「とぼけないでくださいまし?このわたくし、獅子王文珠を謀ろうなどと青いわ小童!!」
「謀る⁉嘘なんて言っていないぞ⁉」
「お黙り小僧!クサイ臭い振り撒いておいてぬけぬけと!今宵のディナーの肉を焼くための炭にしてくれる!お情けで懺悔の時間をくれてやりますわ!」
くそ、慈悲深いんだか残虐非道なのかどっちかにしろよ!しかし、そんな文句垂れたところで意味はない。
それにしてもあの金髪ツインドリル、何にあんな腹を立てているか知らないが、話し合いの余地はなさそうだ。なら仕方ない。選択肢はひとつ!
「…しゃーなしだな。強行突破だ!」
コンドルくんのアクセルを全開にし、前方の金髪ツインドリルに突っ込む。
「んなっ!?」
「どけよぉおおお‼」
間一髪のタイミングで金髪ツインドリル─シシオウは飛び退く。そして俺は空けてくれた道を全速力で走り抜けてゆく。




