獅子の令嬢は廃墟に君臨する
蛇杖という者の後ろ姿を見届けた後、俺もこの湖畔を跡にする。
ややゆっくりめに、コンドルくんを唸らせスピードをのせていく。少しばかり振り回され気味だが、ほんのちょっぴりだけは感覚が掴めてきた。
しばらく走らせていると、またしても辺りの風景が森と廃墟が混ざりあって複雑なコントラストを作り出している。
「…本当にどうするかな」
樹木が絡み付くビル群を見上げながら、エンジン音に紛れそんなことをまた呟く。
だけど、さっきまでとは違い今はそこまで途方に暮れてはいない。今しがた会ったあの人(人って言っていいのかわからんが)、蛇杖という者の説法を聞いて少しは胸に閊えていたものが取れた気がしたからだ。
…もし、あの二人に再び出会うことになったら、そのときは素直に謝っておきたい。それだけは言える。
──ふいに、何かの臭いが鼻をくすぐる。何だかわからないが何かを焼いた臭いの気がする。
でこぼこの道を走るコンドルくんにブレーキをかけ、ヘルメットのバイザーを開け辺りを見回す。
すると、俺のちょうど目の前ビル群の一ヶ所から赤い炎が黒煙とともに立ち込めているのがわかる。正直気にはなるがそこに向かおうという気はあまりない。
こんな文明の進化を止めたような世界で、火をおこしている場所なら現地人は間違いなくいるのだろう。だが、なんというべきか、鼻を通り抜けてゆく臭いが気がかりなのだ。その臭いは…
「この臭い…いい臭いなんかじゃない。とてもクサイ…肉を焼いた臭い?とても嫌な感じだ…」
鼻をつまみながら臭いの正体について考察を続ける。が、そんなことをしているとその黒煙の立ち込めている場所から燃えたぎる何かが落下していくのが見えてしまった。
「──っ!?」
それは、俺から5m程先の前方の地面に叩きつけられる。ぞくり、と背中が一気に冷たくなるのを感じた。
「ひっ、人…⁉」
丸焦げになってほとんど炭のようになってしまっているから、元がどういう姿や顔だったのか判別出来ない。
だが、かろうじて手足がそれぞれ2本ずつ生えていることから、〈それ〉がかつて人の形をしていたことが想像できた。
「──うぇぇぇえっ!」
…想像してしまった。そのせいで思わず胃の中の色々なものが逆流して、口からその厭な感情とともに吐き出される。
既に丸焦げの〈それ〉に向け追い討ちをかけるように、炎の玉が数発飛来し直撃させる。
それと同時に熱気を帯びた余波が襲い来る。二酸化炭素で形成された煙も立ち込めてくる。
「うわあっ!熱っ!」
思わず目を閉じる。煙を吸わないよう咄嗟に口と鼻をふさぐ。露出している肌からも強い熱気を感じる。
暫くして熱の余波と煙が弱まってきたのを見計らい、恐る恐る目を開ける。
「なっ⁉嘘だろ…⁉ひっ、人が、消えちまったっ⁉」
炎の玉が撃ち込まれた箇所は小さなクレーターが形成されており、その周囲に僅かな黒い灰のようなものを遺すのみで、遺骨らしいものは確認できなかった。
また胃の中が逆流する感覚に見舞われる。それと時を同じくして、さっきまで炎がたぎっていたビルの一角から何かが飛び降りてくるのが見えた。
それはあたかもテレビの中の忍者みたくビルの壁を走り抜けてゆく。そして俺の少し前の方に舞い降りた。
「…獅子の、令嬢…?」
質量の暴力とでもいうべき金髪ツインドリルにライオンを思わせる牙と爪、脚に尻尾をもち、豪華絢爛とまではいかないもののかなりゴージャスな身なりの令嬢が姿を現した。




