少年は自らを疎む
二人からいろいろと聞いたところで、一応の確認をとる。
「…んで、その後ぐっすりと眠り込んで今に至る…っていうことでいいんだね?」
「まあ大体そんな感じかな。よければ後で蛇杖センセにも挨拶に行くかい?」
「蛇杖…?ああ、もしかして俺を診てくれた医者の方かい?是非お願いしたいな」
そう答えると、マイオさんは微笑みながら了解の意味であろう親指を立てる所作をする。俺は頬を掻きながら言う。
「なんか、悪いね。色々世話になっちゃって。見ず知らずの自分にここまでしてくれるなんてさ」
その言葉に、2人は何故か凄く不思議そうな顔をしている。マイオさんは俺に優しく語りかける。
「当たり前でしょ?昔からお母さんに言われてたんだ。人との縁は大切にしろ、ってね。困ってるのを助けるのは当たり前だし、それが見ず知らずだろーと関係無い。そうやって縁が繋がっていくのって素敵じゃない?」
彼女は日だまりのような笑顔でそう言う。なんというか、それをなんの疑いも無いかのように言い放つ姿は、俺の眼にとても眩しく映った。
──俺は、その笑顔と反比例するように自分の中にある継ぎ接ぎの心にみしり、亀裂が生じてきたのを感じる。もう永久に見ることの無い、その顔とよく似たものを俺は知っているからだ。
その亀裂から吹き出てきた冷たい思い出に頭を擡げる。それを悟られないよう顔を伏せ、無理矢理心中に沈めてから言う。
「いや、だとしても礼を言わせてくれ。ありがとう」
「えへへ、どーいたしまして」
少し照れくさそうな仕草をするマイオさん。それを見たキョウギさんがムスッとした表情をする。
「あれ?ワシはありがとう言われんの?」
「だってジュウくん彼に何もしてないから当たり前じゃない?」
マイオさんにばっさり切り捨てられたあと、また少し怪訝な顔をするキョウギさん。が、すぐに持ち直してこっちを向く。
「あー、せやせや。まだ自分に訊きたいことがあってん。忘れてたわ」
「ん?訊きたいことだと?」
「そうや。あのバイク、コンドルくんやって?自分どこからあないなもん手に入れたん?」
…む、不味い質問だな。もしかしてあれがタイムマシンとばれたのか?
いや、まだ核心は突かれてはいないはず。単純にこの荒廃した世界ではバイクが貴重品なだけって可能性もある。
──よし。俺は一呼吸置いてその問いに答える。
「コンドルくんは、俺の爺さん…祖父から貰ったものなんだ。なんか爺さんなりに改造を施してあるとかは聞いたが詳しくは知らない」
その答えに、何かキョウギさんは感心したような顔になる。
「…そうなんか。せやったらその爺さん、とんでもないヤツやで。天才やって言葉じゃ片付かんモノホンのバケモンや」
「?そういえばボク何も聞いてなかったっけ。ジュウくん、あれただのバイクじゃないのかい?」
マイオさんがそう訊くと、キョウギさんはポケットからなにやらばっちい紙切れを取り出し俺とマイオさんに見せる。
それにはやや歪な書体の文字や図解で記されていた。汚い字だが、やはり日本語のようである。読み解くことはギリギリできそうだ。
何とかその汚い字を読み取ると、コンドルくんの解体記録が事細かに書き留められていることがわかった。
「ここ見てみい。あのバイク、車体のフレーム自体がバッテリーになっとる。こうすることで車体のバランスを損なわずに省スペース化しとる。このバッテリー自体もフツーのヤツとは比べモンにならん」
「ほ、ほぅ~」
…さっぱりわからない。とりあえず凄い改造をしてあるってことしか把握できない。キョウギさんはそんな俺に気付くこと無く続ける。
「他にも色々改造をしとるようや。ぶっちゃけ新しく作ったんのとさして変わらん。せやけど、そんなんは全部別のモンを隠す為のフェイクやとワシは思っとる」
「…っ!」
一瞬、眉が読まれたのかと驚く。が、2人は特に反応を示していないからそれはなさそうだ。俺は一応何もわからないふうの態度(実際わからないことだらけだけど)をとる。
「フェイク?どういう、ことだ?」
「あのコンドルくんのボディ、ガワだけやなくバイクとして構成しとるパーツ全部が同じ、とある物質で作られとる。実際ワシも興味本位にバラしてパーツ単位で調べとらんかったらわからんかったことや」
…どういうことなんだそれは?何か凄いこと位しかわからない。キョウギさんは少し考え込んでから、食事後の骨付き肉の骨が乗せられたプレートを手に取り説明を続ける。
「例えばや、ここに骨付き肉が盛られとるとしよう。見た目も食感もまんまお肉やけんど、実際に原材料を調べてみりゃ骨もお肉もそれとは全く違うもんでできとったらどうや?」
…え?それ、ちょっとまてよ。それってつまり…。俺の表情を見てからキョウギさんは説明を再開する。
「お察しの通りや。あのバイクは基本的なパーツのほとんどがとある物質──アハンカーラ鉱石を用い作られとる」
「アハン…カーラ?なんだそいつは?」
「自分が知らんのも無理無いわ。ワシも触り位しか知らんさかい。何でも21世紀に入ってから見つかった新種の鉱物やて、なんや他の鉱物とは異なる特殊な力のあるモンらしい」
「特殊な…力?」
まさかと思うが、タイムマシンとしての機能はその鉱石の力だってのか…?にわかには信じがたいが、あの爺さんがマジで実用化にこぎ着けたと考えてもまあ不思議ではない、のかな?
問題はそんなもん爺さんはいったいどっから仕入れてきた?って話になるけど…。俺の視線に気がついたのか、キョウギさんは手を振り否定のジェスチャーをする。
「ん?どこでそんなもん採れるなんて訊かんといてや。ワシも知らないんやから。とにかくあのバイクが光ったんとアハンカーラ鉱石の関連性はわからんかった。それより、もう一個分かったことがあるから聞いてや」
「?ジュウくん、まだ何かわかったことあるの?」
マイオさんはテーブルに身を乗り出す。俺も同じようにがっついた感じで訪ねる。
「せや。さっきもゆーたけど、ワシがコンドルくんバラしてパーツ単位で調べたやろ?その過程で1ヶ所だけようわからん空きスペースが確認できたんや」
「空きスペース?」
「そうなんよ。エンジン付近にな、明らかに何かが存在しておった感のある空白のスペースがおったんや。別段走行する分には支障は無いんけど、なんか気になっとって。ほれ」
そう言い、解体記録を指差す。確かに解体したのちにもう一度組み上げた際にも1ヶ所違和感の感じる空白が存在する旨の記述がある。
「ワシが思うに、多分ここには何らかのパーツがおったんや。けど何かの理由で取り外されてしもうたんやないかな?」
何らかのパーツ…ねぇ。この世界にやって来た直後の不調に何か関係が?しかし、確証が得られない以上考えても無駄かもしれない。
俺の顔をじっと見て、ふーんと言いたげな態度をとるキョウギさん。
「…その様子やとあのバイクのことホンマに何も知らんようやな」
「…ああ。さっきも言ったろう?アイツは貰い物で、情けないことに俺はアイツの修理すらできないって」
俺は自嘲気味にそう言う。…言ってて悲しくなる程情けないな俺は。この世界に来てからというものの見事にその時代の人におんぶに抱っこだ。自分自身はなにもしちゃいない。
はは…、と、乾いた笑いが込み上げてくる。俺はおもむろに顔を俯かせてしまう。




