第零幕
♪面白くないなど言わずとも
全て伝わる影法師♪
何処からか流れてくる音色は何だか懐かしく感じる。
「ねえ、何かお願いごとはなぁい?」
いきなり声が聞こえたものだから、ビックリして辺りを見渡した。
(見渡すと言っても、何にもない真っ暗な空間であるため特にそれほどではないが。)
私のびっくりしている顔も無視して声の主は続ける。高い声から女の人らしいと分かる。
「一つだけ、一つだけ何でもお願い事を叶えてあげるよ!
あっ…でも、もう一つお願い叶えて!
は無しだからね!」
何処までも壁は無いのにこだましては闇に呑まれて行く言葉に
まだ五歳だった私に興味を持たせるのは充分だった。
サーカスの芸人のように派手な格好。顔には仮面をつけており、顔を見せる気はないようだ。
そして、キャラメルの様に優しくとろける声に何故か引き込まれてしまう。
「うーんと…
もう一人…もう一人自分が欲しいな‼」
その答えは五歳の子供として賢明だったと言えるだろう。
何しろうちは共働きで、やる気のないベビーシッターと共に時間を潰す日々を送っていたのだから。
「分かったよ!
香奈ちゃんのお願いはちゃんと叶うからね!
でも、この事は誰にも言っちゃダメだよ?
そうじゃないと、お姉ちゃんは悪〜い人に捕まっちゃうんだ。」
何故か私の名前を知っていた事には得体のしれない恐怖を少し感じるが、何より願いが叶う事が嬉しすぎてそんな事はどうでも良かった。
「うん!分かった!」
コレが全ての始まりと知らずに頁は捲られた
二◯◯一
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