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忍の里


 FEを飛び立ったヒロ達は、そのままMDF航行に入った。

 目的地は惑星タウ。太陽系から12光年のクジラ座にある惑星だ。

 この星は地球型ハビタブル惑星として、300年程前に発見された。

 発見当時、一部の原始生物のみが存在する惑星だったが、フロンティア精神を持つ人々や、気候変動などで移住が必要になった惑星の人々が移り住み、現在は人口5億人規模の惑星になっている。

 FEの機械化技術を使った開発が進み、惑星にはいくつもの都市が形成されていた。

 少し前までは民族紛争などで治安が悪かったが、現政権が、民主的にリーダーシップを発揮し、治安が良くなっている。


 気候は温暖で果物などの植物がよく育つ。

 開発途上の惑星で、若年層の労働人口が多く人件費も他の先進惑星に比べて安価だ。

 最近ではユニバーサル企業の誘致が相次ぎ経済が順調に発展している。

 また各惑星のリタイア組の老人も、温暖な気候と生活費の安さから、移住してくるケースが見られるようになった。


 イガ・コミッティ本部はこの星のニュージャパン市にあった。

 ニュージャパン市は、MEのジャパン市からの移民が多く住む都市だ。

 周辺の地域にはME出身の人たちが多く住んでいて、ニューアメリカ、ニューチャイナといった都市があり、独自の文化圏を築いていた。

 実はかつてのイガ・コミッティ本部はMEのジャパン市にあった。しかし過去のアトロス軍との戦いにより、本部は壊滅してしまった。

 幼いヒロ、マリーを含む、僅かな生き残りが逃げ延びたのがこの惑星タウだ。

 各惑星に散っていた忍の者達もそれぞれ連絡をとり、ついにタウのニュージャパン市、オンミツ区にある隠れ里に本部を設置した。

 イガ・コミッティ本部はカモフラージュのため、学校の中にその母体をつくった。

 学校には、オンミツ体育大学と付属の幼年部、初等部、中等部、高等部があり、体育専門の教育機関として忍びの技術を伝えていた。

 入学は広く門戸が開かれていたが、一般受験者の場合、学費が高額なことに加え入学試験でも高い身体能力を求められたため希望者はほとんどいなかった。


 ヒロ達の乗るスティングレイは、惑星タウに到着し大気圏に突入していた。

 ヒロとマリーは里に入るにあたり、ビューティ、ゴンザ、FR550の三人に里の規則を厳守することをお願いした。イガ・コミッティの組織、歴史など、その存在に関係することは一切秘密であることを約束し、五人の乗るスティングレイはニュージャパン市の外れにある森に降り立った。

 ビューティはこの機体が発見されないようステルス状態のままにし、上空からはただの森に見えるように、機体上部の表面に森林パターンの光学迷彩を施した。


「あー、この空気。里に戻ってきたって感じがする!」

 ヒロは地上に降り立つとすぐ大きく息を吸った。

「そうね。私も久しぶり。さ、老師に会いにいきましょう」

 マリーも喜んでいる。


 ビューティが船の後部ハッチからエアカーを出して出発した。

 しばらくしてヒロ達の乗るエアカーはオンミツ体育大学に着いた。

 パーキングにエアカーを止め、マリーを先頭に、五人は学長室のある建物に向かった。

 受付で学長のハットリ老に面会を求めたところ、会えるとのことだったので、そのまま学長室にゆきドアをノックして呼びかけた。


「老師。マリーです」

「おお、マリーか! 入れ」

 ハットリ老の明るい声が、みんなを部屋の中へ呼び入れる。

 ハットリ老は、イガ・コミッティの最高評議委員長であり、表の職業はオンミツ体育大学の学長を務めていた。

 若かりし頃は銀河系最強の忍者といわれ、うわさでは今もその腕は衰えていないと聞く。


「ヒロ! よく帰ってきたの。元気にしとったか?」

 マリーはここに来る途中、既にハットリ老にヒロを連れて里に戻ることを連絡していた。

 ヒロを見たハットリ老は、そうかそうかと終始ニコニコ顔でヒロを出迎えた。

 ヒロはビューティとゴンザをハットリ老に紹介し、覚醒した時からこれまでの経過を説明した。

 惑星グリーゼの消滅で覚醒したこと。その時に百億もの意識を感じることができたこと。

 その後、アトロスの手下と思われる敵や、ジェネラル・マーティに突然襲われたこと、それをビューティが救ってくれたことなどを話した。

 マリーは、ビューティがリチャード卿からヒロ保護のため送られたロボットであること、また、リチャード卿はサー・アトロスを憎んでいて、彼の目的がアトロスを倒し、銀河に新たな秩序を築くことだと付け加えた。

 老師はしばらくビューティを静かな眼差しで見ていたが、敵ではないと判断したのか、すぐにニコニコ顔に戻りヒロに話の続きを促した。

 ヒロは、マリーとの再会のあと、FEのマチュアンカにあるミス・アリスの研究所に行き、聖竜剣を手に入れたことを伝えた。


「老師、これです」

 ヒロは、背中の鞄からからドラゴンブレードを取り出してハットリ老に見せた。

「なんとドラゴンブレードとな!」

 老師は、ヒロの手からドラゴンブレードを受け取り刀を出してみる。

 さすがに銀河随一と唱われたのニンジャ・マイスター。真剣も使い慣れている。


「間違いない。これは本物のドラゴンブレードじゃ」

「ここを見よ。ここに刻まれているのは梵字じゃ。キリ・オウ・サと読み、それぞれ神通、瀑流、影像の意味を持つ。この文字が輝く時、全ての悪を打ち砕くという伝説の剣じゃ」


「ヒロ、かつてお前の父、タケル・オライオンが使っていた刀ぞ」

「え、お父さんが?」

「お前の父はこの刀を持ち奴と戦った。じゃが破れたのじゃ」

「戦いの後、刀の行方は分からなんだが・・。そうか、リチャード卿が手に入れておったか・・」

「しかし、この刀、タケルが使っておった頃より強力になっているようじゃ」


「あのー、ミス・アリスでガス」

 後ろのほうで、小さくなっていたゴンザが声を出した。

「アリス先生は、プロフェッサーJのお孫さんでして、すげぇ天才でガス。その刀をリチャード卿から預かって強化したでガス。いずれ必要なときがくると」

「お、俺も協力したでガスよ。ちょっぴりでガスが」

 ゴンザがすごすごガスガスと説明する。その場にいた全員がゴンザの喋り方にくすくすと笑った。FR550までもがLEDをピカピカさせガタガタさせている。


「そうでガスか・・、いや、そうじゃったか」

「ヒロ、この刀なら、お前の巨大なユニバース・センスを受け止められるやもしれぬ」

「そしてアトロスを倒すことも・・」

 ハットリ老は刀身を消し、ドラゴンブレードをヒロに返しながら言った。

 ヒロはドラゴンブレードを受け取り、もう一度、自分で刀を出してみた。

 そして梵字を眺めた。

「お父さんの刀・・・」

 ヒロは歯を食いしばり、涙が出そうになるのをぐっとこらえる。

 そして刀を消し、ドラゴンブレードをバックパックにしまった。

 ふと、さっき死んだジェームスを思い出した。そう言えば、マリーと巡り会わせてくれたのも、ジェームスの声だった。

 きっと、この世に残った、ヒロへの強い思いが、マリーとヒロを引き合わせたのだろう。


「僕の父はどちらも死んでしまった。二人ともアトロスに殺された」

「うぉーー!!」

 ヒロは獣のように叫んだ。眉間に皺がより涙がこぼれ、肩が怒りで震えている。

「ヒロ、ジェームスは残念じゃった」

 ハットリ老がうつむきながら言う。

「ヒロ、マリーと共にここで技を磨け」

「今のお前は強大になった能力をコントロールできん」

「ここで技を十分に磨き、アトロスと戦うのじゃ」

 ヒロはすぐにでも飛び出していって、アトロス軍と一戦交えたい気持ちだったが、老師の一言で冷静さを取り戻した。目を赤くしてヒロが答える。

「わかりました。老師」


「学校への入学手続きはできている」

「ヒロとマリーは、オンミツ体育大学付属高校の2年生に編入じゃ。マリーは本来、1学年下じゃが、ヒロと同じクラスの方がなにかと都合が良かろうて」

「あと、今日から住む家じゃがうちがええじゃろ。ばあばの暇つぶしにちょうどいい」

「それから、年明けには恒例の、オンミツ地区忍術競技会が開かれる」

「当面はこの試合に向けて調整するといいの。今回は強い者もおるで、いい練習相手になるじゃろ」

「修行はマリーとひっそりするのじゃ。その強そうなロボットも一緒にな」

 ヒロとマリーは、老師の言葉にこくりと頷いた。そして5人は学長室を後にした。


 ヒロ達は、エアカーに乗り学校を出た。そしてハットリ老の自宅に向かった。

 ハットリ老の家はとても大きな古民家だ。

 ハットリ老の古女房、ウメばあばにはすでに老師から連絡が入っていた。


「おーお、ヒロか。しばらく見ん間におおきゅーなって」

 ウメばあは、涙ぐみながら言った。

「ウメばあ、久しぶり」

 ヒロには既に肉親がいない。

 マリーは妹同様に暮らしてきたが、血はつながっていない。

 そんなヒロにとって、ウメばあの優しさは本当にうれしかった。


「マリー、おまえさんも一緒に住むんじゃろ」

 ウメばあはマリーにも優しく言った。二人は旧知の仲だ。マリーは頷く。

「ヒロ、私も一緒に住みます」

 と、ビューティが一歩前に出て言った。

「私はあなたのガーディアン。いつあなたに危険が訪れるかもわからない。あなたはこの世界の唯一の希望よ。そのあなたを失う訳にはいかないわ」

 ヒロはこれまでビューティに何度も命を助けられている。ビューティの戦闘力は折紙付きだった。もちろんヒロに異存はない。

 ばあばは幼い頃から知っているヒロとマリーが、ホームステイするのでとても喜んだ。


 みんなが家に入っていく。部屋を案内する中、ウメばあはこの家は忍者屋敷なのでカラクリに気をつけろという。

 さっき早速ゴンザとFR550が、カラクリ壁の裏側に迷い込み助けを求めていた。

 結局、ゴンザとFR550はハットリ老の家の近所のエアカー修理工場に住み込みで務めることになった。さっきのカラクリがこりたと見える。

 エアカー修理工場は、スティングレイの整備にも都合がいい。

 工場はコミッティの人間が経営していて作業者も全て関係者だ。よって、ゴンザ達に全面的に協力するよう話がついた。


 ヒロとマリーは、ハットリ老の家で、久しぶりにリラックスした時間を過ごした。

 そして、その夜は安らかな眠りに落ちた。


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